第25話 イデアの隣人
「…俺たちは新宿ここ以外の都市を知らないんだが、そんなに少ないのか?」
浩志たちは他の都市の事を全く知らない。
そのため、他の都市よりも寓話獣の侵攻の頻度も少なく、あまり強い寓話獣が来ないと言われてもピンときていなかった。
「ええ。この都市の北部にあるあの場所。あそこが原因でしょう。なんなんですかあの場所は?途轍もなく異質な力の片鱗が漂っていますよ。強力な寓話獣ほどあそこを漂っている力を感知して新宿ここに寄り付いてきません」
「へぇー、そうだったのね。なんか得した気分」
(北部……
奏恵は楽観的に捉えていたが対照的に、浩志は真剣に考えていた。
だが、考えたところで分かることでもないと言う結論に至り、思考を放棄する。
「……話が逸れてしまいましたね。今回、集まっていただいたのは一つの提案をするためです。」
「……提案?」
「ええ、あなたたちを強くするお手伝いをさせていただけないかという提案です」
その言葉に彼ら四人はどう反応すれば良いのか分からなかった。
さっき初めて出会った人から強くなる手伝いをすると言われても、はいそうですかと納得する方が無理であった。
「先程言ったように
「……俺たちはこれ以上強くなれるのか?」
「ええ、あなたたちならほぼ確実に
ここにいる4人は大なり小なり
それを解決できるのはとてもありがたいだろう。
だが
「………申し訳ないけど少し時間をくれないかしら」
「俺もだ」
その提案をすぐに了承することはなかった。
彼らは新宿の外界をの頂点に立つグループの上層の人間。
自分たちにメリットしかない今回の提案に、何か裏があると疑っても仕方ないだろう。
それに、そう易々と正直あまりよく分かっていない人物の提案を受けるなんて事はできなかった。
「今すぐ返事をもらわなくても結構です。私からはもうないためこれで失礼します」
「ああそれと、
扉を開ける直前、
扉の前で見張っていた招き猫の人達は急に出てきた知らない人に驚き目を見開いていた。
そして、部屋に残っているのは奏恵、純、浩志、硯の4人となった。
「……どう思う?」
「願ったり叶ったりじゃない……まあでも、今までの話がすべて本当ならの話だけどね」
奏恵は自分たちが知らなかった
浩志と硯も彼女たちと同じ意見だった。
「俺たちにそれを確かめる術はない」
浩志たちは
「……まあ各々の判断で動きましょう。私はこれで失礼するわ。周りにいる
奏恵が立ち上がり、純もそれに続くように部屋を出て行った。
「どうするんだ浩志」
「……少し様子を見る他ないだろう」
残る二人も部屋を出ていき自分たちのアジトへと帰って行った。
〜〜〜〜〜
元イデアの隣人のアジト、その最上階奥にある広間
元々イデアの隣人のリーダーでありリーダーでもあった伊神新内やその上層部が信仰のための祈りを行っていた部屋であったが、今は新しくなったイデアの隣人の会議室となっている。
そこには旧イデアの隣人の構成員であり、新イデアの隣人の幹部となった5人の構成員が揃っていた。
部屋の奥は一段高くなっており、彼らはその手前の一段下がっている場所に座っている。
「なあ、今日ってなんの要件で集まっているんだ」
一人がそう尋ねた。
彼の名前は
旧イデアの隣人の時は常に中立の立場を貫きながら地道に立場を上げていき、
「お前知らないのか?カルロ様と同じ
三水の問いに怒りの表情を浮かべて声を荒らげているのは
旧イデアの隣人の時、リーダーであった伊神新内に歯向かい下っ端に落とされたいたところを
「へぇー。そうだったんだー。早く帰ってのんびりしたいんだけどー。早く来てくれないかなー」
「おい木崎!そんな怠けた態度をカルロ様たちに取ってみろ!殺すぞ!」
そんな佐々木と井口のやりとりに間から入ってきたのは
面倒くさがりであり、イデアの隣人と
「はあー?。元々下っ端だったお前が随分と偉くなったものだなぁー。カルロさんに初めに誘われたからって調子に乗ってんじゃねぇーぞー」
「おいおい喧嘩はやめろ。井口もそんなに怒るな。木崎も俺が聞いた事なんだから反応するなよ」
錦の言葉に太郎が突っ掛かり、ヒートアップしていたところを三水がおさめる。
「うーーい」
「っ!だが!あいつはカルロ様を敬っていないんだぞ。あの伊神からの呪縛から解放してくださった!なのにあの態度は許せない!」
「なあ、井口。お前のその自分の考えを押し付ける態度、かつてお前を下っ端に追いやった伊神となんも変わらないぞ」
錦は引き下がったが、太郎は食い下がった。
自分たちを救ってくれたカルロ様が蔑ろにされていることが許せなかったのだ。
だが、その姿を見た三水はかつて自分の意見に盾ついたものを容赦なく隅へと追いやっていた伊神と今の太郎が同じ事を指摘する。
「っ!そんな事はない!俺たちはカルロ様に救われたのだぞ!?敬うのは当然だろ!カルロ様に手も足も出なかった分際で」
「ああ?カルロさんの後ろについているだけだった奴がキャンキャン吠えるんじゃねぇ。虎の威を借る狐が」
そんな事は認められない太郎は三水を挑発し、三水はそれに乗り太郎へと殺気を放つ。
対して太郎は殺気を向けられたことにたじろいでしまう。
「静かにしなさい餓鬼ども。じっと待つこともできんのかい」
「カラ婆の言う通りだ。もうすぐ来る時間になるんだから大人しく待っていろ」
一触即発の雰囲気の二人に文句を言ったのはこの場にいる残り2人だ。
カラ婆と呼ばれていた女性はかなり年がいっており、皮膚も乾燥しているのかカサカサになっているが、背中は曲がっておらず背筋が綺麗に伸びていた。
空想侵略の時代を生きてきた生き字引であり、彼女の本名は誰も知らずみんなカラ婆と呼んでいる。
「誰がババアだって。姐さんと呼びな。小僧が」
だが、本人にとってその名前はあまり好きではなかった。
そして最後の一人、名は
カラ婆に次いで歳が上で大きく鍛えられた体に坊主頭の男である。
その後誰も喋ることなく静かに時間が過ぎてゆく。
バンッ
「おー集まってるな」
そんな時に扉を開けて一人の男性が入ってきた。
顔はお面を被っていてわからないが中肉中背の赤髪の男性である。
男はそのまま部屋の奥、一段高くなっている場所まで歩いて行った。
「誰だあんた」
太郎はイライラしていたため入ってきた男に対してガンを飛ばす。
「俺か?俺は
「っ!す、すみませんでした!生意気なこと言って!」
ちなみに太郎以外の4人はカルロと同じ三本の木の根が絡まっている上に太陽がある紋様が胸元に付けられていたため
「そんなので怒らないから気にしないで大丈夫だ」
「ありがとうございます!……それでヘイルム様…カルロ様はどこに」
ヘイルムが怒っていないことにホッとした太郎はカルロが来ていない事を疑問に思いヘイルムへ質問した。
「…ああ、カルロは死んだよ」
「……え!?死んだ?カルロ様が!?誰ですか!カルロ様を殺した不届者は!」
突然カルロが死んだと聞かされた太郎は慌てふためきながら誰かがカルロを殺したに違いないと思い殺気を出しながらヘイルムに問いただした。
「殺されたわけじゃない。寿命だ」
「え?…でもカルロ様はまだ若かったはず」
「黙ってろ、カルロはもう死んだ」
しかし、寿命で死んだと聞かされてもカルロはまだ若く寿命で死ぬような年には見えなかったため信じることのできない太郎であったがヘイルムの気迫に黙らざるを得なかった。
「……それより、贄を取り逃したのは誰だ?」
「………あ、俺です」
「あれは
「も、申し訳ありません!!」
ヘイルムの怒気を纏わせた気配に怯えながらもさっきと繰り返すように謝った。
太郎は逃した女がそこまで重要な人だとは思っていなかったためかなり手を抜いて弄ぶように追いかけていた。
そこで烈火と出会い、脅す目的で
しかもカルロの命令にも関わらず、彼はそこから一切追いかけることはなかった。
「……まあいい。人間間違えることもある。気にするな」
ヘイルムが太郎の頭に手を乗せ、宥めるようにそう言ったヘイルム。
何か制裁を喰らうのではないかと怯えていた太郎はヘイルムが責を追う必要はなく許したもらえたことに安堵する。
「あ、ありがとうござ……」
グシャッ
「「「「っ!!」」」」
「なんて言うか思ったか。せっかくの機会を不意にしやがって。死ね」
ヘイルムがそのまま太郎の頭を床に叩きつけた。
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