第20話 継ぎ接ぎ人形
場所は変わって北方基地
そこでは基地の人たちが夢幻の杜の戦闘を眺めていた。
「すげー」
「俺たちが必死に戦った寓話獣共をあんなにあっさり…」
「強すぎだろ」
「本当に俺たちと同じ超能力者なのか?」
「政府が集めた精鋭部隊だったんだ」
「これで勝てる!あんな地獄のような日々からはおさらばだ!」
初めは誰もが彼らの戦闘を見て驚いていた。
自分の知っている超能力とは全く違っているのだから。
自分たちがあんなに苦戦してやっと防衛していたのに、年端もいかない人たちがだったの数人で寓話獣たちを蹂躙している。
次第に驚きは興奮へと変わっていった。
奴らにされるがままだった日々からの解放。
超能力者たちの希望であり、寓話獣と戦えると言っても、防衛に徹するしかなかった自分たち内界民が新たな一歩を進む瞬間。
自分たちはそんな歴史的瞬間を見ているのだと多くの人はそう思っていた。
基地の人たちは期待の目で夢幻の杜の戦闘を眺めており、もう彼らに夢幻の杜に対する疑惑の目を向けるものはいなかった。
ただ数人を除いて
「なんでなんでなんで!!なんであいつがこんなに戦えるのよ!それになんなの力は!あいつは私と同じフォトンキネシスのはずよ!ただ光らすことしかできないなんの力もないハズレのはずよ!なんでなんで…」
「絶対何か不正をしたに違いない!」
「そうよ!じゃなきゃあいつがあんなことできるわけがない」
彼女達はヒカリをいじめていた三人組だ。
ヒカリ達に会ったあと、先輩に頼まれていた仕事をしていなかったためこっぴどく怒られ、その腹いせに今日来た援軍はハズレの集まりだと風聴して回っていたのだ。
それがいざ彼らの戦闘が始まってみれば、自分たちが苦戦していた相手に圧倒している。
初めは疑った。
嘘だと思っていた。
だが、目の前で起こっていることは紛れもなく事実である。
それでも認めたくなかった。
今、周りが彼女たちを見る目は冷たい。
このままだと彼女たちはこれから嘘つきの人だと思われるだろう。
彼女たちもそれが分かっていたため余計イライラしていた。
「あいつがあたりよりも強いなんてありえない。もどきの分際で!」
三人組のリーダーがヒカリに向けて手を向け、その手に光が集まっていく。
そのイライラをヒカリを攻撃し、妨害するこことで発散しようとしたのだ。
運良くそのまま死んで欲しいとすら思っていた。
「はい、そこまで」
しかし、それはできなかった。
突然の後ろから秀が彼女の肩に手を置く。
「っ!何よあんた!気軽に触らないで」
「離れなさいこの変態!」
「私たちは優秀な超能力者よ。そんな人たちにちょっかい出して無事で済むと思ってるの?」
突然のことで驚いていたが、イライラしていた彼女たちは秀に向かって暴言を吐く。
異能大隊は現在、寓話獣に対抗するためとても重要な組織だ。
優秀な超能力だと思っている彼女たちはそんな組織に所属している自分たちに手を出していたのかと脅していた。
「思ってるよ。それに…お前らこそ
「「「っ!!」」」
しかし、相手が悪すぎた。
秀はごねる政治家たちに夢幻の杜設立を認めさせるほどの手腕があるのだ。
そんな彼の覇気は彼女たちをびびらすのはは十分なほど強烈だった。
「こっちは政府に対して不干渉権を持ってるんだ。政府直属の組織である
バチッ!
秀は指と指の間で静電気を発生させる。
まさか秀が、超能力者だと思ってなかった三人は驚いた。
「これは警告だ。俺たちの、ヒカリの邪魔をするな。俺もなぁ、あいつらと同じ力が使えるんだ。お前ら三人を無力化するくらいわけないぞ」
そう言うと秀は去っていった。
三人組は秀が離れたのを確認するとその場に崩れ落ちる。
その表情には恐怖が張り付いていた。
〜〜〜〜〜
「これで不安要素は無くなったかな」
なぜ秀が戦闘に参加せずにここにいるのか。
秀が戦闘員ではないと言うのも理由だが、基地の人たちに手出しさせない、つまり邪魔して欲しくないため見回っていたのだ。
あの司令官はプライド高い奴だ。
秀が脅して手出しさせないように通達をさせたが、無視して手出ししてくるだろうと思っていた。
案の定、密かに人員を集めていたので司令官もろともボコボコにした。
最後にあいつが『な、なんで。こいつらはここでも精鋭の超能力者たちだぞ!』と言っていたが、不意打ちで放電させて気絶させただけだ。
ちなみに雷の影響は秀にもあるため、秀は基本離れた場所で雷を形成しており、もしものために感電対策もしている。
「俺はお前たちが戦えるように場を整えるだけだ。あとは頑張ってくれよ」
秀は刻たちの戦いを眺めながらそう呟いた。
〜〜〜〜〜
北方基地前線
戦いが始まって2時間を超えた頃
烈火が本体のあるビルに突撃するほんの少し前
「はぁ、はぁ、あとどれくらい!?」
「も、もう2時間はすぎたよ!あと1時間もない!頑張って!」
先ほど交代した巧が時間を聞き、紡志がそれに答えた。
「そうか」
「よし!あともう一踏ん張りだ!」
「あと、2回できるかどうかね」
それぞれが疲れながらもラストスパートだと一気に気を引き締める。
「ご、ごめんね。僕だけ何もしていないよね」
それを見ていた紡志は落ち込んでいた。
紡志の役割は《鉄壁》を超えるような遠距離攻撃への対応。
しかし、襲撃が始まってから一度もそのような攻撃が来ることはなかった。
もしもの時に備えて刻と巧みたいに近接戦闘に参加するわけにもいかず、紡志自身、あまり攻撃系統が得意ではなかった。
周りの仲間は疲労しながらも戦っているのに、自分だけが万全の状態で待機している。
それが紡志には辛かったのだ。
「いいじゃない。全てこなせる人なんていない。あなたにはあなたの役割がある。私たちにはできない役割がある。それに、襲撃が終わったあと疲労困憊で動けない私たちを誰が運ぶのよ」
「そうだぞー。俺たちは疲れてるんだ。終わったら紡志が運んでくれー」
「……ヒカリ、巧」
「ほら、シャキッとしなさい。呆けて自分の役割を果たせないなんて本末転倒よ」
「うん!」
俯いていた紡志は顔を上げた。
その時
ドンッ!!
「「「っ!!!」」」
何かを叩きつける音を聞いた三人はそちらへと顔を向けると刻がこちらへと吹き飛ばされていた。
「刻!大丈夫か!?」
「大丈夫。それより注意して。何体か強いのがいる。《鉄壁》も凹むほどの力だ」
巧たちが先ほど刻がいた場所を見ると、そこには武器持ちの個体よりももう一回り大きなクマの人形がいた。
その手に持っている剣も先ほどまでの個体より洗練されている。
そして何より
「気味が悪りぃな」
「なんて酷い」
「うっ!」
烈火たちが出会った近衛と同じように人の皮を継ぎ接ぎして作られていた。
この個体は寓話獣〈ビルダーベア〉が近衛よりも前に作った試作体。
その強さは近衛よりも劣るが、刻たちが今まで戦っていた武器持ちの個体よりは数段強い。
そんな時、《鉄壁》を超えてビルの破片が飛んできた。
「《
紡志は破片の前に布の
「よくやった紡志!」
巧は目の前にいる寓話獣へと近づき棍棒で下から掬い上げるように振う。
「な!」
「危ない!」
今までの寓話獣なら当たって吹き飛んでいっていたが、この個体はそれを簡単に避け、お返しとばかりに手に持っていた剣で巧に切りかかる。
「《カマクラ》!」
「《
ヒカリが圧縮した雪で出来た壁を寓話獣と巧の間に生成し、刻は寓話獣目掛けて30センチの長さの鉄の針を回転させながら放つ。
寓話獣はそれを見て即座に下がる。
その動きは以前までの個体と比べても格段に鋭い動きである。
巧もまた刻たちの場所まで下がってきた。
「すまん。しくった」
少し遅かったのか、刻たちのところまで下がってきた巧の腹には一筋の切り傷があった。
「巧!大丈夫!?」
「ぐっ。ヒカリと刻が手助けしてくれたからそこまで深くはない。けど、さっきみたいな動きは出来ないかな」
巧の傷は幸いそこまで深い傷ではなかったが、すぐに手当てをしないといけないレベルでだった。
「ヒカリ、やばいことになった」
刻の声にヒカリは前を向くと刻の《鉄壁》の上に、先ほどの個体と同じ人の皮が継ぎ接ぎされ、剣を持つ寓話獣が4体いた。
さっき巧を斬った個体と合わせると合計5体いることになる。
さらに奴ら以外にも今まで戦っていた個体もいるのだ。
「どうすれば」
刻たちが行った作戦は寓話獣たちの進行方向を誘導して常に一対一を作り出すことで少ない人数でも対処できるようにしていた。
それは寓話獣たちが知能がないからこそ出来たことだ。
だが、あの個体は《鉄壁》を超えてきた。
間違いなくあの個体は先ほどまでの個体よりも知能があり、そして強い。
刻たちは5人だが、凛はここにはいないし、巧は怪我で動けないから、3人で対処しないといけない。
ヒカリはこれからどうすれば良いのか頭を悩ませていた。
「くっ!」
「刻!」
その間、前に出てきた二体の寓話獣を相手に戦うが二体の連携が上手く苦戦している刻。
「《
「紡志!投擲が来てる!」
「えっ!」
刻を援護しようとした紡志だが、それを見計らったかのように多くの破片が基地目掛けて飛んでいく。
「《
《防段幕》はいくつもの布をつなぎ合わせてできた一枚の布を形成する
であり、そこに物が当たると当たった部分の布が剥がれて包み無力化するものである。
それによって全ての破片を捉えることができた。
(まずい!おそらく紡志が刻の援護をしようとしたところを見計らって投擲された。これで紡志は安易に動かせない。巧も怪我で動けないし、刻の方にはもう一体来ている。私もまだ
「刻!一旦距離を離す!ジャンプして!」
ヒカリの言葉を聞いて刻はジャンプをした。
「《地雪崩》!」
それを見計らってヒカリはありったけの
だが、ヒカリは相手の実力を見誤っていた。
「っ!ヒカリ!」
「危ない!」
「えっ」
目の前に寓話獣がいた。
刻と一緒にジャンプしていたのだ。
継ぎ接ぎの寓話獣は刻たちの会話を理解できていた。
ヒカリをこのメンバーのリーダーとして認識して真っ先に殺そうと動いたのだ。
そしてヒカリへと剣を上段から振り下ろそうとしている。
ヒカリは
ヒカリには迫り来る剣がゆっくりに見えた。
(あぁ、私はここで死ぬのかな)
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