第8話 白夜の夢
「そうか…」
秀は烈火の返事を聞き、刻が烈火の探していた薫の子供であると確信しする。
「それを聞くって事は…薫さんの子供にでも会ったのか?」
「……ああ。刻君って言うんだけどね。去年から賢人さんと交流があったらしくてね。…刻君、一年くらい前にお母さんが亡くしているそうなんだ」
秀は烈火に伝えるのを初めは少し躊躇った。
以前烈火は言っていたのだ。
『外界で面白い人と出会えた』『俺を内界民だからって嫌な目で見てくることもなくてな。とても話があったよ』『夢幻の杜ができたら入ってくれって頼んだらOKを貰った』『お前に会わせるのが楽しみだよ』と。
あんな饒舌に喋る烈火は久しぶりだった。
夢幻の杜設立を許可されたあと、烈火が真っ先に探していた人でもあった。
しかし遅かれ早かれ知ることになると思った秀は彼女が亡くなっていた事を告げる。
「……そうか。間に合わなかったのか」
「間に合わなかった?」
秀は烈火の言葉に少し疑問に思った。
まるで死ぬことを知っていたかのような反応であったからだ。
「ああ、俺があった時にはもう先は短いって言われていてな、だから夢幻の杜設立が決まってすぐに探していたんだ。居場所が分かってなかったのは薫さんだけだし、頼まれていることもあったからな」
「…刻君のことか?」
「そうだ。自分の息子の世話をして欲しいと頼まれたんだ」
「……外界にいる仲間ではなく何でお前に頼んだんだ?」
秀の疑問はもっともだ。
薫は外界で生まれて去年まで暮らしていた。
当然身内と呼べる人、仲間と呼べる人がいたはずだ。
なのに子供を烈火に託した。
「秀、今の外界がどう言う環境か知っているな?」
「…ああ。資料で見ただけだが、夢幻の杜の設立に尽力した理由のひとつだからな」
不意にそのように聞いてきた烈火に、秀は当然と言うように答えた。
「はっきり言って、今の外界は無法地帯だ。内界の力なんか一切及ばないし法なんてあってないようなもんだぞ」
「そんなにひどいのか」
「ああ、今や外界は大小様々なグループがひしめき合っている。最近、新しいグループが台頭してきたらしいが、現在、三つの大きなグループがそれぞれ目を光らせているから均衡が保たれているくらいだ。薫さんも元々そのうちの一つ『
「…何でそのグループに刻君を預けなかったんだ?」
初めは外界が危険だからなのだろうと思っていた秀であったが、彼女が外界でも影響力のあるグループに属していたのならそっちに預ければよかったのではないかと考えていた。
そして、それに対する烈火の返事はあまりにも予想外であった。
「薫さんが言うにはその息子の精神は
「刻君がそのグループとの争いで死なないように烈火、君に託したってことかい?」
「いや、感情のままに暴れ回ったりでもしたら、
「………はぁ?」
「俺もよく分かってねぇんだが、外界より内界の方がまだマシだろうってね」
秀は何が何やら分からなかった。
まだ成人にもなっていない子が都市を滅ぼす可能性があると言われて、はいそうですかと頷くことなどできるはずもなかった。
それに、秀が刻と話したときはそのようなことをする人には到底思えなかった。
「じょ、冗談だよな」
「俺も初めはそう思ったんだが、薫さんの目がこれ以上ないほど真剣だったんだよ。だから俺もその言葉を信じることにした」
「…そうか」
秀は信頼している烈火がそう言うのならと一先ず納得することにした。
「それで、その刻君。今どこにいるんだ?俺としては彼にも夢幻の杜に入って欲しいんだけど」
「刻君なら俺の方でもう誘ったよ。了承も貰っている」
「おお!そうなのか!…ん?お前が誘うって事は、他とは違った超能力を持っていたのか」
「ああ、彼はもう
「…っ!!なに!!そうなのか!」
烈火がここに来てから一番の驚きを見せ、秀へと近づいて彼の肩を持ち詰め寄った。
「そう、君が会得している超能力の先にある力。いや、君が言うには超能力の根幹を為す力かな」
「どうやって分かったんだ!?何か
「ああ、鉄の刀を形成していたよ」
ちなみに秀は第一異能機関に寓話獣が現れたこと、刻が怪我をしたこと、そして一人死者がでたことは伏せるつもりである。
内界の中心部に寓話獣が出現したなんてことを公表すれば内界での混乱は避けられない
それに、一人死者がいる事を彼が知ったら遺族には知る権利があるって言って聞かないからだ。
死んだ子の親には申し訳ないが、内界の混乱を避けるために彼の死の真相は秀が後でもみ消すつもりであった。
「そうだ秀。薫さんを探すためにさっきちょっと外界に行ってきたんだが」
「そんな出かけるって感覚で外界にいける内界民はお前だけだよ」
秀は呆れた目で烈火を見る。
内界と外界の仲は悪い。
それこそ双方決して近寄らず、話を聞かないくらいには。
だが烈火の場合はそうではなかった。
彼はその裏表のない、真っ直ぐな性格によって多くの人から信頼を寄せられ、その人脈はかなり広い。
秀もそのうちの一人だ。
そして、先の話で出てきた
「俺も一人部隊に勧誘した奴がいてな。そいつはあるグループに追われているところを助けたんだが」
「追われている?どこのグループだ?」
「
「
秀は資料でだが外界にある大きなグループのある程度の概要は把握していた。
しかし、
そのため烈火に聞いたのだが、その返事に秀は驚くこととなる。
「いや、
「外から…だと。っ!じゃあ!」
「ああ。奴らは寓話獣たちのテリトリーを通ってきたんだ。ほぼ間違いなく俺らと同等かそれ以上に
都市の外、外界のさらに外側は寓話獣、宵のテリトリーである。
寓話獣は超能力でないと相手にもならないが、空想侵略時、超能力でも苦戦または敗北する寓話獣もウヨウヨいる魔境。
それが外界のさらに外側の世界だ。
そんな場所を通りここに辿り着いたのだとすればそれはかなりの強者である可能性が高いのだ。
「烈火が保護したその子、何でその
「分からないんだ。彼女に話を聞いてみても…あ、俺が保護したの女性な、彼女も分からないって言ってるんだ。ただ、追いかけてた奴が彼女を『贄』って呼んでいてな。それに、彼女の力も少し特殊なんだ」
「特殊?」
「ああ。まぁ一言で言うと獣化だな」
「獣化?なぁ獣化なんて出来ないんじゃなかったのか?」
「できない訳じゃないが俺もできるやつを見るのは初めてだ。浩志にも聞いてみたが同じ意見だった。そんな力を何も知らない彼女が使っていたんだ」
烈火はかなり難しい顔をした。
「ただ烈火には伝えていないだけでは?」
「それもあると思うが、あいつらが言っていた『贄』って言葉がちょっと引っかかるんだよ」
烈火は顎に手を添えながら思案顔をしていた。
「贄って事は、何かを抑えるか呼び出すかのどっちかだろ?俺が知っている情報じゃあ、そうなこと出来ないし。なーんか違和感があるんだよなー」
「全部の情報が出揃っているわけでもないんだし、それに、何があってもその子を部隊には入れるんだろ?なら良いじゃないか。あとから調べていけば」
「……それもそうだな」
烈火はかなりのお人好しだ、困った人がいればほっとけない。それが外界民であれ。
そして、決して仲間を見捨てない。
そのおかげで彼は外界内界問わず人に好かれているのだ。
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