第62話 凶報は突然やってくる
ーーーーどうして貴方は、厄介な女にばかり好かれるのでしょうね?
とても深い溜息と共に呟かれたロウの言葉に、ラインハルトは良薬を三日分纏めて噛み締めたような顔をする。
「俺に聞くな、お前が言うな」
魔女といい、フィリアナといい、女難の相でも出てるのかしら?
魔女には一番美しい神を、って結婚を迫られたんだよね。
強すぎる力を抑える為の仮面を美しさを隠す為って思ってた魔女。あ、美しいっていうのは間違いないけど。
ーーーでも。
「兄様の仮面の下の素顔を見た事あるのかな」
ポツリ、と零れた私の独り言は皆に聞こえてたらしく、ラインハルトを初め、ロウもカーク兄様も首を横に振った。
「「「ナイナイ」」」
「え、じゃぁ、魔女って顔も知らないのに求婚したの?兄様に」
それでその粘着力、ものすんごい執着心とかじゃない?顔も性格もわからないのに。
「ま、大地の母上とそっくりだって言われてたから、その美貌は推して知るべしって感じかな?時空神に加護を受けたロウと、んー、人間にとってはラインハルトもだな、絶世の美貌でも有名になったしな」
大地の母様は、割と絵姿が神殿にあったりするんだよね。神殿によっては全くの別人に見える程、それぞれ違う顔なんだけれども。何処の神殿でも、その美貌は表現されていた。と言っても、私は三枚くらいしか見た事ないけど。
加護を受けた場合、その神の特徴が顕れると言われている。
私はロウとラインハルトをマジマジと見比べたが、二人に似たところが無い。共通点は美人さんな所だけじゃない?
今まで一度だって似てるって思った事も無かったし。
首を傾げる私を見て察したのか、ロウがクスッと笑う。
「あるんですよ、実は一か所だけ」
今度教えて差し上げます、とロウは微笑むけど、気になるなぁ。
気になると言えばフィリアナはライディオス兄様の素顔を知っているんだよね?ゲームの中で。
「•••••••ひょっとして、ラインハルトも危険!?」
「姫様、動かないでください、針が刺さってしまいます」
「あ、ごめんなさい!」
思わずクルッと振り向こうとして、針を持った精霊に窘められる。うう、申し訳ないです。まだ仮縫いの最中だった。
「ゲームの中の西の君とやらのシナリオ設定は知らないが、当日も用意された神席には帳が降ろされる。ずっと席にいる訳でもない。用の済んだフィリアナの前に姿を晒す事もしないから、問題無いな。うん、無い」
「下手に姿を見せて、粘着されても嫌ですしーーーーあのタイプは特に」
な、なんかロウの背後がどんよりと曇ってるんだけど、大丈夫かな?!
過去に女性関係でゴニョゴニョっとあったの?
ラインハルトも、公園のベンチに座ってる缶コーヒー持った疲れたリーマンみたいだよ!?
「フィアちゃん、二人の絵姿がどうして出回っていないのかーーーーで、察してあげよう?」
悟りきったカーク兄様の顔を見て、私はこの件に関して胸の奥深くに封印する事にした。
仮縫いの終わったティティは、一度私の部屋に来たけど、衣装から何やらインスピレーションを受けたらしく、技芸神と興奮した様子でホールへと行ってしまった。ティティの周りにいる妖精達も一緒に楽しそうだ。ティティは特定の妖精や精霊と契約はしていないみたいで、決めようとすると、皆で喧嘩を始めてしまうからなんだって言ってたな。
ロウはそのまま私の部屋で公爵家ヘのお礼として神札を何枚も描いている。流麗な文字と紋様が美しい。私の仮縫いの最中で、暇になってしまったからと、描き始めたみたいだったけど、繊細な作業のようなので邪魔しちゃ悪いと思ってそっと部屋を後にする。
フロースとメルガルドはーーーーうん、あそこに行っちゃいけないって本能が告げているので撤退の一択だ。見付かったらまた着せ替え人形になってしまう。
だってデザインの違う衣装が五着くらいあったんだもの。それで厳選したって、一体何着作るつもりだったの!?一着で、良いんです。予備でもう一着は必要かも知れないけど。
ラインハルトとカーク兄様は何やらチェス盤を持って私の寝室で勝負してるしーーーー何かを賭けているみたいだったけど、私の名前が出てる時点で碌な事じゃないよね。何を賭けたのかは知らないけれど了承はしてませんから!
こうやって、観察しながら歩き回っているのは結構楽しい。この離れに出入りする公爵家の使用人まで、見知った人ばかりになった邸だ。
だから、今更ながらに邸を隅々まで探検していた私は、大神殿にいる筈のディオンストムが突然私の目の前に現れた時、吃驚して、うっひゃぁぁぁ!?と、情けない悲鳴を上げてディオンストムを迎えてしまったのだ。
「ディオンストム、本当にごめんなさい。あの時は、ちょっと気を抜いて歩いてて。皆も、ごめんなさい」
私はサロンで頭を下げた。皆笑って許してくれたけど、緊張の走る騒ぎになってしまった事は確かだ。
あの後、一瞬でカリンは臨戦態勢、チュウ吉先生は結界を張り、ポポは威嚇して。
更に、ラインハルト達まで一斉に、しかも一瞬で私の所に転移してきて、ちょっとした?騒ぎになってしまったのだ。
ティティも、公爵家の使用人も、皆武器を持って集まってしまって、それはもう、謝り倒しました。自業自得ですが。
「ああ、姫様、わたくしとした事が、先触れも出さずに突然訪った所為でもあるのですから、どうぞ、謝罪はいただけません。皆様もこの度は、わたくしの不注意で、大変にお騒がせを致しましたこと、平にご容赦をねがいます」
深々と謝罪をするディオンストムに、私は座るように促す。
「それで、あなた程の方が、一体どうしたと言うのですか?顔色も良くない。余程の事があったのではと思いますが」
「余程の事でもーーーーわたくしの落ち度で姫様を驚かせてしまいました事は忸怩たる思いにございますれば••••ああ、いえ、そうですね、本題に入りましょう」
いつもの泰然としたディオンストムらしく無い、何とも形容し難い緊張を孕んだーーーー信じられない物を見た、そんな表情でゆっくりと話し始めた。
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