第15話 休日

夜が明ければ、土曜日。

学院は土・日と休みになる。


昼過ぎ、清美が三日月のマンションへやってきた。

事前に電話(三日月が携帯を持っていないため)で清美から連絡を受けていた三日月は、部屋の玄関で出迎えた。

「キュッポーーン、いらっしゃーーい!! 」

三日月は、跳び付くように黄色のワンピースの清美を抱きしめ、ほっぺにキスの雨を降らせた。清美が遊びに来てくれたことが嬉しくてたまらないようだ。

「きゃあああっ、やっぱり服を着てくださいいいっ」

全裸で抱きつく三日月に、清美は真っ赤になった。先日お互いの裸は見ているのだが、さすがに恥ずかしい。

「ダメよ、これがこの部屋のルールなんだから。キュッポンも脱ぐのっ。さあさあ」

「あああんっ!」

三日月が清美のワンピースも下着も全部、ひょひょいっと剥ぎ取ってしまった。

剥ぎ取られて両腕で胸を隠すように座り込む清美だったが、嫌そうではない。

どころか、なんか嬉しそうに頬を赤らめている。

「きょ・・今日はみーちゃんの分までエプロン持って来ました。落ち着かないので・・」

清美は、こうなることは予測済みだったようだ。バッグから白いエプロンを二つ取り出し、三日月に手渡した。

三日月がしぶしぶ着てみると、清美とお揃いのシンプルで清楚なデザイン。

三日月の好みのエプロンだったが、普段からスッポンポンの胸には、擦れる布の感触がくすぐったい。とくに乳首。

それにスースーと抜ける股間の空気が、背徳感をかきたててくる。

「よく似合ってますよ。みーちゃんのスタイルの良さがかえって際立ちますよ」

「そ・・そう? キュッポンが言ってくれるなら、これからこれで過ごそうかなァ・・エヘヘー」

照れるように頭を掻く三日月。エプロンが気に入ったようだ。


三日月は、清美を居間へ通した。

清美は、たくさんの野菜や肉などを持参していた。

「昨日、父や母たちに眼が治ったことを話したんです。そうしたら、みんな大泣きしてしまって・・みーちゃんのマッサージのおかげであることも話しました。それで家族で恩返しを考えたんです」

「いやぁ、恩返しなんてみずくさいなァ」

三日月は、また照れ照れと頭を掻く。

「先日からのお話では、ここにはお手伝いさんもいらっしゃらないようですし、私がお食事を毎日作らせていただこうかな・・と。もちろん食材はこちらでご用意いたします。私、こう見えてお料理は得意なんですよ。栄養のバランスも考えられますし、

いかかでしょうか? 」

「え・・いいの? 」

「はいっ」

「毎日? 」

「もちろんです! 」

「やったぁっ、 ありがとう、キュッポン!! 」

三日月は清美に抱きついてお礼を言ったあと、ベランダに走り出して、プランターのニラたちに語りかけた。

「みんな、キュッポンがねぇ・・毎日来てくれるって! 嬉しいねえ、嬉しいねぇ」

そう言って三日月は、一番小さいチョロロンゲちゃんを優しく撫でる。

その様子を見て、清美が言った。

「あの・・先日も気になったんだけれど、そのチョロロンゲちゃん」

「チョロロンゲちゃん? 」

「触り過ぎなんじゃないかしら、みーちゃんが」

「え・・? 」

三日月の動きが止まる。

「祖母が家庭菜園をやっていて、聞いた話なんですけど・・植物は不必要に触られるとストレスで成長しないんだとか。最悪枯れてしまうこともあるらしいですよ」

その言葉を聞いて、見る見る三日月の顔から血の気が引き始めた。

よく見れば、チョロロンゲちゃんの細い葉先が2mmほど黄色く変色し始めている。

「ああああああっ!! 」

三日月が頭を抱えて発狂する。チョロロンゲちゃんもこれだけ想いをかけてもらって本望だろう。ニラの一生としては、十分幸せである。

「大丈夫ですよ、ニラは生命力が強いですし。夏休み前ぐらいには他の子たちと同じぐらいに成長してますよ。みーちゃんは、水をあげて見守っていればいいんです」

清美は、ヒーヒーとガン泣きする三日月の手を取って部屋へ上げた。

三日月は、精神的な質量が他人よりも随分と大きいようだ。


ソファーに座った三日月は、清美が差し入れてくれたグレープジュースを一杯いただいて、しばらくして落ち着いた。

「今度はお茶を差し上げますね。じつは私愛用の煎茶せんちゃセットをお持ちしてるんです。お湯を頂きたいのですが・・」

「あ・・ごめん、ポットに入ってないや・・沸かさないと」

「では、お台所をお借りしますね」

居間の隣が十畳ほどの広い台所になっていた。入居したばかりでピカピカ新品のキッチンに清美は目を見張った。

「あ、この据え置きのIHヒーター、最新型じゃないですか。 大きいなぁ! 

へえ、操作は全部タッチパネルなんですね。いいなぁ・・かっこいいなぁ・・

あれ、みーちゃん・・?」

清美が振り返ると、死んだ眼をした三日月がIHヒーターの横を指差している。

そこには電熱線式の小さな電気コンロが二つ並べてひっそりと置いてあった。

「ふ・・ふふふ・・私って、ほら・・指から変な電気出てるじゃない・・スマホと同じくタッチパネル使えなくてさ、アマゾン川をさらって入手したのよ。電熱線式ならスイッチ入れるだけで使えるし・・一台1500円だったし、お買い得よね・・

フヘへ、キッチンにまでデジタルの波が押し寄せちゃって・・生活しづらいなんてもんじゃないわよねぇ、へへへ・・アナログ最高・・フヘフヘフヘフヘ・・」

本当に生活しづらいんだろう。引っ越してきてから気付いて、慌てて通販で取り寄せたに違いない。

「あ・・でしたらここにいる間、IHヒーターは私が使わせていただきますね。毎日お食事の準備に参りますし、無駄にはならないかと思いますよ? 」

「ホントに!? ありがとう、キュッポーーン!! 」

涙ながらに抱きついてくる三日月の頭を、清美はよしよし、とあやすように撫でてやる。

可愛い人だなぁ・・と清美は三日月のことを思った。

かくしてIHヒーターの電源は、無事清美の指によって入れられた。


木箱から取り出した煎茶セットを居間の机に並べる清美。

取っ手の無い、手の平に乗るほどの小さな急須。

湯冷ましに使う小型の碗と、御猪口おちょこほどの小さな茶碗。

茶碗は木箱に5つ入っていたが、そこから人数分の2客だけ取り出して使う。

「良い萩焼はぎやきね。枇杷色びわいろの綺麗な御本手ごほんてね。見島みしまに・・大道土だいどうづちが混ぜてあるのかしら。砂粒が見えるわ」

しげしげとセットを見守りながら三日月が言う。

御本手とは、窯焼きの折に焼き物の表面に偶然に出来る白っぽく丸い斑点のこと。

ポワポワと浮かぶ綿毛のようで、愛らしい。

「さすがですね。昨日のお茶席で鬼萩のお話をなさったからお持ちしたんです。じつは私も萩焼が大好きで。このセットはお年玉を貯めて買ったんですよ。練習の成果をご賞味あれ」

清美はやかんのお湯をまず急須に注ぎ、十分に温めてからセットとは別の器に湯を捨てた。そして今度は少量の茶葉を急須に入れ、お湯を湯冷ましに注いだ。

湯冷ましを三回ほどゆっくりと手のひらで回し、湯を適温にまで下げると、すかさずにそのお湯を急須にさっと流し込み、今度は急須を三回ほど回し揺らして、素早く碗に茶を注いだ。

「どうぞ」

清美が手際よく茶碗をスッと三日月の前に差し出す。

煎茶は、スピードが命である。もたもたしていると、茶葉から苦味にがみ成分が滲出じんしゅつしてしまう。

「いただきます」

三日月が茶碗を手に取ると、茶の爽やかな香気が立った。

そして、一口の量しかない煎茶を一気に飲み干した。

その瞬間・・三日月の目が、パァッと開かれる。

「お・・美味しい! 」

茶にはとろみがあり、ひたすらに爽やかな香りが咽喉のどから鼻に抜けた。

まさに、甘露かんろと言うべき賜物たまものであった。

「よかったぁ・・上手くれられたようですね」

清美はホッとした表情を浮かべた。これほどの煎茶を淹れられるまでには、ずいぶんと練習を重ねたに違いない。

「す・・すごいよこれ。こんな美味いお茶初めて飲んだわ・・」

煎茶にはカフェインがたくさん含まれている。そのための小さな碗なのだが、三日月の頬はすでに紅潮していた。

「東京の藤原院のご本家にお邪魔する時に、いつも池袋の西口にあるお茶屋さんでお茶菓子などを求めるんですけど、そこで初めてサービスで煎茶を淹れていただいたんです。その美味しさに衝撃を受けまして。店員さんは、安い茶葉ですけどね、と笑っていらして・・それからこのセットを購入して、毎日家族に練習台になってもらいました。ここに置いて毎日淹れて差し上げますね」

微笑む清美。

三日月は、いとおしくてたまらなくなった。


日が暮れて、夕食のいっさいを清美が作ってくれた。

むろん、三日月も料理の腕は確かなので材料のカット・下ごしらえなどを手伝った。

食卓にざっと並ぶ料理たち。

メインは三日月の大好きなニラたま丼で、スパイスのたっぷり効いた野菜炒め、コーンスープ・・・サラダ。文句の付けようのないバランスの良さで、味も極めて美味であった。二人は心ゆくまで堪能した。


清美は、このまま泊まっていくことになった。

「みーちゃん、一緒にお風呂入りましょう。お背中をお流しいたしますよ」

「う・・うん」

夜になって、清美が積極的に動くようになった。

三日月のほうが顔を真っ赤にして照れている。

清美が眼鏡を外し、髪の両側をまとめているリボンを解く。

お下げが解除され、ストレートのヘアがすらりと背に伸びる。

三日月もロングのポニーテールを解けば、途端に大人っぽい色気を帯びる。

シャワーを浴びる二人の姿は、美しい女神のようだった。

清美が三日月の後ろに座って、背中にソープを塗りつけてシャワシャワと泡立てていく。

「あっ・・あっ」

「ふふ、くすぐったい? 」

「う・・うん、こういうのはじめてでさ・・んふっ・・」

「じゃあ、今度は前の方も泡立てちゃいましょう」

清美の両手が、三日月の乳房にソープを塗りつけて、泡立てていく。

「あああっ・・はううっ」

さすがの三日月も、嬌声を上げた。

背中にはぴったりと清美の乳房が押し付けられている。その豊満なふくらみと先端の突起が三日月の背中で意味ありげに揺れ動く。

「はぁはぁ・・もっと下の方も泡立てちゃいますよ・・」

清美も興奮気味。手の動きが大胆になっていく。

三日月の乳房からしなやかな腹部まで泡立てると、あらためてソープを手に取り、今度は両の太腿ふとももに塗りつけてシャワシャワと泡立て、広げていく。

「ああんっ・・あっあっ・・」

三日月が声を上げるたびに、清美は楽しくてたまらなくなってきた。

先日は三日月にマッサージで気をやってしまったが、今は清美のターン。

清美には、もしかしてSの気があるのかもしれない。

手の動きは、自然の成り行きであった。

清美の両手が三日月の太腿からせばまり、指が股間の敏感な部分を優しく刺激

した。

「あっあっあっあっ・・ああああんっ!! 」

三日月は背をらすと、甘い嬌声と共に昇天してしまった。


体を流し合った二人はバスタオルで水滴を拭い合うと、そのままベッドに上がった。

「キュッポンのエッチ。今度は私のターンよ・・さあ大人しくしなさい」

三日月の指からチリッと電流が光る。

「きゃああっ、助けてぇお代官様ぁぁぁぁ・・」

「お代官様はキュッポンじゃないのぉ。なら私は将軍よ・・これそこな女子や、大人しくせぬか。うっひっひっ・・」

「あーれー・・」

清美のノリがよい。三日月も至極楽しそうだ。ベッドにうつ伏せになった清美の背中を、三日月の指先が走る。

ビビビビッ・・

「あああああああっ・・!! 」

電気のスパーク音と共に、鳥肌の立つような重い快感が襲い、清美はった。

「ふふ、昨夜は眠れたかしら・・自分の指では満足できなかったでしょう? 」

「あっあっあっあっ・・まん・・ぞくなんて・・ああっあっあっ・・できな・・くて

・・はうんっ・・みーちゃんの指が・・欲しくて・・あっあっあっあっ・・やっぱり

・・すごいよぉ・・あああっあああっあっあっ・・あああんっ!! 」

三日月のマッサージに素直に喘ぐ清美。三日月の眼にも、清美の体から黒いオーラの立ち昇る箇所はもう見当たらない。

心と身体が、長年のストレスから開放されたあかしだった。

「はぁはぁ・・キュッポンの体マッサージしてると、私まで気持ちよくなっちゃうよ

・・うっ・・毎日させて欲しいな・・あああっ・・お願い・・あっあっあっ・・この綺麗な体、いじらせて・・? あっあっあっあっ・・」

指先を通して、清美の感じている快感が三日月にもストレートに流れ込んでくる。

「あっあっあっあっ・・みーちゃん、お願いします・・あああっあっあっ、毎日・・

して・・ください・・ああんっ、あっあっ・・もう、みーちゃんの指がないと・・

あああっ、おかしくなっちゃううっ・・ああああんっ!! 」

ギュッギュッギュッギュッ、ギュッギュッギュッギュッ・・

ピシピシピシピシッ・・ピシピシピシピシッ・・!!

「あああああんっ、みーちゃん!! 」

「まだ・・まだよ、キュッポン・・先にイッちゃ、やだよ・・あっあっあっあっ!! 」

清美と三日月の頭の中が、真っ白になる。

二人の心と体が、ベッドの上で絡み合い、舞い上がった。


・・・窓から涼やかな風の音が聞こえる。

清美と三日月は、シーツの中で抱き合い、お互いの体温を感じながら眠った。

二人にとって生まれて初めてのお泊り会の夜は、熱い思い出となった・・

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藤原院さんがおかしくなっていくのを見るのが楽しい 銀色夏  @giniro-natsu

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