第8話 義妹との出会い

 じっちゃんの軽バンに乗せてもらった。

 俺が助手席で、愛夏は後部座席だ。

 商用車だから貨物で古臭く、最低限の装備だ。そのせいか揺れやエンジン音が激しい。そして、じっちゃんのタバコの臭い。

 相変わらずヤニ臭いのだが、これが不思議と悪くない。まあ……臭いんだけど。幸い、じっちゃんは俺たちの前ではタバコは吸わない。気を遣ってくれているらしい。


「紗季、相変わらず愛夏と仲良くやっとるようだな」

「ああ。義理だけど本当の兄妹以上に仲が良いよ」


 俺と愛夏が兄妹になってもう五年以上だ。

 愛夏の両親が不幸な事故で亡くなった。身寄りのない彼女をじっちゃんが連れてきた。じっちゃんはもともと、そういう事故だとかで行き場を失った人を救済するような仕事をしていたらしい。


 詳しいことは分からないけど、五年前……突然、じっちゃんは愛夏を連れてきた。


 当時の空は異世界みたいな雨雲がひしめいていた。

 今にも雨が降りそうで、ずっと空気が冷たかった。まるで誰かの悲しみの中にいるような、そんな錯覚さえ覚えた。


 はじめて愛夏の表情カオを見た時、俺は酷いと思った。


 瞳に光はなく、暗闇の中に囚われていたからだ。

 どうしたらこんな風になってしまうのか。……聞けるわけがなかった。俺にそんな勇気もなかった。そもそも、女子とまともに会話した経験すらない。


 ――けれど。



「お兄ちゃんってば、あの時……変だった」



 過去を思い出していると、後部座席の愛夏が俺の心中を察するかのように、そんなことを口走った。

 見透かされていたか。



「あの時は小学生だったからな……いろいろあったんだ」

「いろいろ~? へえ、お兄ちゃん可愛すぎ」


 ニヤリと笑う愛夏さん。

 オイ、ヤメロ。

 ただでさえ思い出したくない恥ずかしい黒歴史のような過去なのだぞ!


 しかし、じっちゃんは容赦なく聞き返していた。



「愛夏、話せ」

「うん、おじいちゃん。あのね、お兄ちゃんってば当時ね――」



 そう、あの時の俺はどうかしていた。

 いわゆる“中二病”が早期発病し、とりかえしのつかない事態に陥っていた。


 当時を思い返す。



「――ハハ。ハハハハハ! おい、そこの少女! 誰だか知らんし、事情も知らんが……いいか、お前だけが不幸だと思うなよ! 世界がお前を中心に回っていると思うなよ! 俺なんか生まれた時から両親がいねえ!! ヤニ臭いじっちゃんしかいない! けど幸せだ! じっちゃんが言っていた。幸せは占有するものではない。分け与えるものだとな。少女、お前のことはなんとなく聞いている。家に住むんだよな! 歓迎する! この手を取れえええええッ!!」



 当時流行っていたアニメキャラを真似ていた俺。思い出すだけで死にたくなった。

 馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいなセリフで愛夏を家に招いた。


 けど、その結果。



「……あは。あはは……お兄ちゃん面白いね」



 一生笑うことのないと思われていた少女が、目尻に涙をため笑っていたんだ。

 なんて可愛いんだ。俺はそう感じた。



「よ~し、今日からお前は俺の義理の妹だ。文句は言わせない!」

「うん、よろしくね!」



 それから愛夏の笑顔が増えていった。そして現在いまがある。

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