第7話 隣の隣の席の女子

 そうしている内に昼休みが終わった。

 普通学校で、しかも義妹にする話ではないのだが……けど、愛夏は興味津々だからなぁ。


「――こんなところだ。今のはほとんど有名どころだけど」

「へぇ、いろんなエロゲーがあるんだね」


 ほとんどがじっちゃんを受け売りなんだけどね。

 という真実を愛夏には伝えないでおかねば。それがじっちゃんとの男と男の約束なのである。


「さあ、戻ろうか」

「もう昼休み終わり~。つまんない」

「仕方ないさ。放課後、一緒に帰ろう」

「うん。真っ直ぐ帰ろう」



 屋上を後にして教室へ戻った。

 正直、授業なんてどうでもいい。愛夏が気になって仕方ない。様子を探る方法があればいいのだが……。


 教室へ戻る前、廊下で財布を拾った。なんだこの女子っぽい財布。う~ん、愛夏ではなさそうだ。困っている人がいるだろうし、あとで届けよう。



 そうして俺は教室へ戻り、午後の授業を受け続けた。

 放課後前、財布のことを思い出して担任の先生に届け出ようとしたのだが――隣の隣の席の早瀬さんが困った表情をして、泣きそうになっていた。



「どうしたんだい、早瀬さん」

「……あ、小野寺くん。あのね……お財布落としちゃって」

「え、まさか」


 ちょうど手に持っていたので俺は財布を差し出した。すると、早瀬さんは感激していた。


「これこれ! これ私の!」

「廊下に落ちていたよ」

「ありがとう、小野寺くん! すっごく助かった。ありがとね! ありがとね! 本当にありがと!」


 抱きつかれそうな勢いで凄く感謝され、俺は気分が良くなった。こうして他人の為に何かするって初めてな気がする。特に女子相手には。


 早瀬さんはホッとしたのか涙を流していた。そこまでとは。――いや、そりゃそうか。財布なんて落としたら絶望しかない。


「じゃ、俺は行くから」

「今度お礼させてね!」


 手を振り、俺は教室を出た。

 廊下にはすでに愛夏の姿が。

 さわやかな笑みを浮かべながら、駆け寄ってくる。なんだか上機嫌だ。


「帰ろう、愛夏」

「ねえ、お兄ちゃんお兄ちゃん」

「どうした?」

風吹ふぶきちゃんがね~、このストラップをくれたの!」


 愛夏のカバンには、ゆるキャラのストラップがついていた。あれは人気キャラの“かわちい”くんか。白くてもっこりした愛らしいキャラクターだ。


「風吹さんは、愛夏の女友達?」

「そうだよ。同じクラスの女の子。すっごく可愛いよ~!」


 それを聞いて安心した。

 仲良くなれれば愛夏のことが聞けるかもなぁ……。

 ただ、会えるチャンスがあるかどうか。


「ふむぅ」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 昇降口で靴に履き替え――そのまま校門を出た。

 すると目の前で見覚えのある軽バンが止まった。



「おい、紗季。偶然だな」

「じっちゃん!」



 珍しいことに、じっちゃんが現れた。どうやら車に乗せてくれるらしい。ありがたい。サクっと帰って畑仕事がしたかったところだ。

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