第5節 余談

緑川燈子と白崎亜鈴の間に芽生えた友情という名の美しき花の物語は一旦ここまでとなるが、最後に少しだけお目汚しの余談を此処に。

 もし貴方が胸の裡に余韻を抱いていて、それを壊したくないのであれば、このページはすぐに閉じて次の章へと移動することをお勧めする。






 さてそれでは、今宵、緑川燈子が白崎家の迷宮へと繰り出すこととなった本来の理由、そこに立ち返るとしよう。



「すみません、亜鈴……。客室より先に案内して欲しい場所があるのですが……」

「? 先程部屋に戻ると言ったばかりではないですか。どちらに行きたいのですか?」

「そうですね……、比喩的に表現して……、私は今……、ほんの少しばかりお花を摘みに行きたい気分です……」


 内股になりながら産まれたての小鹿のように全身を振るわせる燈子を見て、亜鈴も事情を察した。燈子は強がっているが、その様子は明らかに「ほんの少し」の範疇ではなかった。亜鈴の顔にも焦りが浮かぶ。


「でしたらもっと早く! 限界を迎える前に言って下さい! 最寄りの厠まで走って五分程です。それまでは保ちますか?」

「何とか……、保たせます……」


 そうは言ったものの感覚からして、燈子の体が臨界点を迎えるのもまた五分程であった。間に合うかどうかは、燈子の我慢強さ次第といったところだろう。


「亜鈴……、待って……、置いていかないで……」

「急いで下さい! 燈子!」



 こうして新たな友情が芽生えた素晴らしき夜は、二人の少女による焦りに満ちた声に彩られながら幕を閉じるのであった。

 友人とのひと時を共にする燈子と亜鈴は、士族としての、呪術師としての、■■■としてのしがらみなど関係なく、どこにでもいる普通の少女のように見えた。

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