第55話 二つの秘策
「大罪人様、あれをお持ちしました」
ムッチリーナは小瓶に入った赤色の飲み物を俺に手渡す。
「あ・・・ありがとう」
俺は心の中で「余計な事をしやがって」と呟く。
「さぁ!大罪人様、あれをお飲みください」
「わかった」
俺は小瓶を手に取り蓋を開けようとした。その時・・・
「おっと・・・すまない」
俺はわざと手を滑らして小瓶を落とす。
「くそーーーーー!なんて事だ。大事な魔法水を落としてしまった。魔力さえ回復すれば、皆を救えた事が出来たのに・・・」
俺は膝を地面につけて両手で地面を叩いて悔しさをアピールする。
「みんな、すまない。俺の不注意のせいで大事な魔法水をダメにしてしまった。これでミスリルゴーレムを倒す手段は無くなってしまった。とても遺憾だが禁じ手を使うしかない・・・」
俺は役者になったかのようにオーバーアクションをし、目をこすりながら泣いているフリをする。
「大罪人様、お顔を上げてください。誰も大罪人様の事を責める事は致しません。誰にもでも失敗はあるものです」
ムッチリーナがやさしく声をかける。これは芝居が成功したと思い思わずニヤリと笑ってします。
「大罪人様、安心して下さい。魔法水は2つあるのです」
「え!」
「はい。これをお飲みになって万全の体制でミスリルゴーレムの討伐に挑んでください」
ムッチリーナは俺に小瓶を手渡す。
「あ・・・りがとう」
俺はムッチリーナにお礼を言う。すると俺の目からは滝のように涙が溢れ出る。これはさきほどの噓泣きでなく本当の涙である。このままトロッコに乗れば確実に俺の正体がバレてしまう。そこで待ち受けているのは確実の死であることは間違いない。俺は死にたくない。絶対に死にたくない。俺は死ぬのがが怖くて涙を流したのである。
「大罪人様、それほどまでにみんなを助ける事ができるのが嬉しいのですね。お役に立ててよかったです」
ムッチリーナは満足げに微笑む。
「大罪人様、急ぎましょう」
俺は渋々トロッコに乗車する。俺が乗るとトロッコがスピードを上げて動き出した。
鉱山の入り口は一つしかないが、そこから先はアリの巣のようにいくつもの道に分かれている。入り口付近には長期刑囚や奴隷が収容されている洞穴があり、そこから幾重にも道が分かれていて、作業場に繋がる道や採掘現場に繋がる道がある。迷わないように分かれ道には看板があり、看板に従ってすすめば迷う事は無い。
「ナット、トロッコを止めろ」
「わかりました」
ナットとはトロッコを操作している兵士の名である。
「助けてくれ~」
坑道内の奥から叫び声が聞こえて来た。俺はその声に聞き覚えがある。
「ボス!助けてください」
俺の耳に飛び込んできた声の主はクライナーだった。
「状況はどうなっている」
エイコーンがクライナーに声をかける。
「ギドナップさんが爆弾を使って道を塞ぎながら逃げて来ましたが、ミスリルゴーレムは崩れ落ちた岩を簡単に破壊して突き進んできます。逃げ遅れた者もいますので数名の死者がでています。今もギドナップさんがミスリルゴーレムの気を引きながら少しで進行を遅らせています。すぐにボスを連れて来てください」
「安心しろ。大罪人様は魔力も回復して万全の体制でお前達を救いに来てくれた。安心して逃げるが良い」
「大罪人様、この先にミスリルゴーレムが居ると思われます。どのような作戦で退治しますか」
「俺の究極魔法は発動するのに時間がかかる。竜人族は俺が魔法を発動する前に怯えて逃げてくれたが、ミスリルゴーレムが逃げ出すとは思えない。お前達には俺が魔法を発動するために時間を稼いで欲しい」
俺は絶対に死にたくない。俺はトロッコでこの場所に到着するまで怯えていたわけでなはい。生きる為の作戦を考えていた。これは俺が考えついた作戦の一つである。
「わかりました。私達が全力でミスリルゴーレムの気を引くので任せてください」
エイコーンは力強く返事をする。
「お前達、大罪人様の作戦は聞こえていたよな」
「はい」
全員が声を揃えて返事をする。
「これ以上、坑道内を爆破する事は出来ない。俺達がここでミスリルゴーレムを退治しないと、緋緋色金の納期が大幅に遅れる事になる。それだけは絶対に避けなければいけない。俺達に出来る事は一つだけ、全力でミスリルゴーレムの抑え込み大罪人様が魔法を発動する時間を稼ぐのだ」
「はい」
エイコーンの力強い言葉に先導されるように、プラム達は大声を上げてモチベーションを上げる。
「行くぞ!」
「おぉ~~~」
ナットは再びトロッコを動かして先に進む。そして数分後トロッコに向かって走って来るレーンコートとシュヴァインの姿が見えた。
「助けてください。すぐそこまでミスリルゴーレムが迫ってきている」
2人は恐怖に歪んだ顔で助けを求める。
「大罪人様が来たからもう大丈夫だ。後は俺達に任せろ」
「お願いします」
「2人とも本当に無事でよかった」
「ボスが助けに来てくれると信じていました」
2人は俺の姿を見ると嬉しくて涙を流す。俺はそっと2人に近づいて耳元である指示を出す。
「わかりました」
2人は小さく返事をして出口の方向へ向かって走り出した。
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