第17話

「なるほど、その子はお前が拾ったのか」


「はい! 私はティンクル! 卵のときに拾われて、ねえさまに育ててもらったのです」


 ティンクルはちょこんと正座し、元気よく答えた。


「うむ、ドラゴンは長命とはいえ、あの戦乱で生きているとはおもわなんだが、一本角でモフモフの青いドラゴンは珍しい、もしかしてと思ってな」


「はい、それに私はねえさまがいなくなってすぐ、国から逃げて人里離れた山で冬眠していたのです。 ですが最近、ふと目が覚めたのです。 おそらくねえさまの魔力を感じとったからでしょう」


 ディンに寄り添って笑顔でそういう。


「ふむ、元気そうでなにより」


「ねえさまは復活されてなにを? ついに国を取り戻すのですか!」


「いや、世界が平和ならば余は特になにもせん。 つい今の世界がどうなったかをみにきただけだ」


「そうですか...... では、私はねえさまについていきます!」


「なに!? 俺のアパートか!」


「だめですか......」


 うるんだ瞳でみてくる。


「うっ......」


「かまうまい。 どうせ余たちの部屋に住むのだ」


「かまうわ! 女の子だぞ!」


「余も女の子だそ」 

 

 不満そうにディンそうこたえる。


(確かによく考えたら、俺、ディンとずっとくらしてたな...... こんなかわいいし料理もうまい。 なのになにも起きないなんて...... 魔王だからか、いやちがうな残念だからだな)


「なぜ余をあわれみの目でみてくる......」


 ディンはいぶかしげにいった。


「ああ、もういいよ。 一人ぐらいなら一緒だ」


「ありがとうございます! サキミさま」


 そうティンクルは喜んでいる。


「さて、他は暗黒大陸のモンスターはいなさそうだな。 疲れたから、魔王に会うのは今度でよかろう」


「そうか、なら帰るか! アパートで不労所得の人生だ!」


「ならば私がお連れしましょう」


 そういうと、ドラゴンになったティンクルの背にのり俺たちはアパートに戻った。



「さ、さむぅ」


「さ、寒い」


「すみません。 あまり低いと見つかっちゃうので」


「ああ、あれ? ここだよな」


 空高く飛んでいるティンクルの背中から眼下の森をみる。


「うむ、確か...... あそこに人がおる。 ティンクル奥の方に降りてくれ」


「はーい」


 森の奥におり、人がいた方へむかう。 なにもないはらっぱにネメイオがいた。


「なにしてんだ、こんなとこで?」


「ひぃ!! なんだサキミさんか...... 驚かせないでください! どこからでてきたんですか。 道は逆でしょう。 なんで森の方なんですか?」


「ああ、まあな...... それで、こんななにもない所でなにしてんだ?」


「あっ...... ええ」


 そういうとネメイオの表情がくもる。


「あの、残念ですがなくなりました......」


「えっ? 誰が!!」


「い、いえ、人ではなく...... あの建造物です」


「ふー。あせった。 まあ、あんま知り合いはいないけど...... えっ? 建造物?」


「おい......」


 ディンが肩を叩いた。


「なんだよ。 いま話し......」


 ディンの指差す方に...... 何か石やら木やら鉄の残骸がつまれている。 そのなかに俺の布団がある......


「えっ? なにこれ...... えっ」


「はい、なくなったのはあなたの賃貸物件です......」


「えええええええーーーー!? 俺のアパートぉぉお!! なんで!! なんでなく...... なくなるのおおお!!?」


 ネメイオの肩をゆする。


「落ち着けサキミ!」


「じ、実はつい先日、モンスターの襲来がありまして、町もかなりの被害を受けたのですが、ここはこのありさまでして......」


「いやあああああああああ!!!!」


「落ち着け! そんなに口をあけたら顎がちぎれる! お主は保険にはいってたであろう!」


 狂いそうな俺をディンがなだめる。


「ああっ! そうだ! 保険入ってた! でるよね! 保険金!」


「い、いえ、残念ながら保険は火災と地震のみで、モンスターの襲撃には対応しておりません......」


「「いやあああああああああ!!!!」」


「落ち着いてください! サキミさま! ねえさま!」


 発狂する俺たちをティンクルはなだめる。


「な、なんで!?」


「モンスター保険に入らないと保険金はおりません」


「いやあああああああああ!!!!」


「落ち着けサキミ! ネメイオそんな説明したか! そちらの落ち度ではないか!」


「ですので、最低限の出資でよろしいですか? と聞いたのですが、かまわないと...... あと契約していた方々もキャンセルとなりました」


「「いやあああああああああ!!!!」」


「お二人とも気を確かに!!」


「サキミさま! ねえさま!!」


「「あはをばばばば」」


 俺たちは泡を吹いてたおれた。

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