迎え火
お盆。
幼い頃の私はこの期間が恐ろしくもあり、ワクワクするような胸の高鳴る期間でもあった。
普段忙しく働いている父や母も店を閉め、家族揃って過ごせる時間。
地域の神社では夏祭りが催され、盆踊りで締め括られる。
まさに夏の一大イベントだった。
13日の夕刻。
玄関先で素焼きの皿におがらを入れて火を灯す。
私は火を見ているのが好きだ。
祖母に叱られるほどおがらを入れて轟々と燃やした。
「この火を目印に、ご先祖様が帰ってくるんだよ」
祖母が毎年教えてくれる。
「ほら、◯◯ちゃんのおばあちゃんも帰ってきたよ」
そう言って道路向かいの幼馴染の家の方を指差す。
三年前に亡くなったお祖母さんがこちらを振り向き、会釈をして門へ消えていった。
あそこのお祖父さんも。
あの家のお兄さんも。
みんなみんな。
この時期は帰ってくる。
迎え火によって帰ってくるのは、手厚く迎えてくれる家があるモノだけではない。
当時身寄りのないまま亡くなった方。
子孫がいなくなってしまった家系の先祖。
帰る家が無いまま、彷徨い続ける人達。
祖母はそんな人達を迎え入れていた。
仏壇の横に祭壇を作り、料理や酒、お菓子等を供えた。
祖母が仏壇と祭壇へお祈りを捧げ、私はそれをうしろに座り見ている。
お祈りが終わると、祖母に手を引かれ仏間を出る。
仏間の襖を閉め、居間に戻ろうと歩き出した時。
仏間から啜り泣くような声が聞こえてきた。
私は怖くなり祖母の手を強く握る。
祖母は私の顔を見てニッコリと笑い、何も語らずに居間へ戻っていく。
それから毎晩。
決して大きな声では無いが、仏間からは酒宴のような大勢の笑い声が聞こえていた。
当時の私は怖くてしかたがなかったのを憶えている。
16日の夕刻。
送り火を焚く。
案の定おがらを大量に投下し轟々と燃やす。
「皆さんお帰りになるねぇ」
祖母が見つめる先を見る。
一人一人。
祖母へ向き直り、深々と礼をしてお帰りになる人々。
「来年もまた迎えて差し上げようねぇ」
祖母が呟いた。
私も祖母に笑顔を向け、大きく頷いた。
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