説明不可能な不思議な話

余命宣告

先日のこと、私の一番のお得意様が亡くなった。

お客様に優劣を付けているわけではないが、一番思い入れがあるお客様であることは間違いない。

今回は仮に辻井さんとする。

辻井さんには二つの口癖があった。


辻井さんは本業で支店長になって間もない頃からのお客様で、「支店長ならばもっとしっかりしろ」が口癖のお客様だった。

私の名刺入れの少々の傷みを見ては「支店長なら持ち物にも気を遣え」

ボールペンを見ては「支店長ならもっと良いペンを使え」

店の朱肉を見ては、「支店長ならばしっかり備品も管理しろ」

こう言ってはプレゼントとして持って来てくれた。


初めのうちは口煩い人だなと思っていたが、私のことを本気で思ってくれているのだと感じることが出来た。

私の仕事は一件の案件で動く金額が大きいのだが、短いスパンでどんどんご契約を頂ける。


「辻井さん、いつもありがとうございます!辻井さんのお陰でこの店は成り立っていますよ!」


「君がこの店を立て直すんだろ?しっかりやりなさい」


「辻井さん、これからもご指導お願い致します!」


「自分で勉強したらどうだ!」


そんな辻井さんには、もう一つ口癖があった。

それは「俺は2022年2月4日に死ぬからな!」だった。

辻井さんの身体はお会いした頃からボロボロだった。

大きな身体は太っているのではなく、全身の浮腫みだった。

週に三度人工透析を受けていた。

契約の件で連絡をすると、よく透析終わりで折り返しを頂いた。


2021年春頃。

しばらくお顔を見ていなかった為連絡をした所、入院をしているとのこと。


「どうにも体調が悪くてな!心配するな、ただの検査入院だ!どちらにしても俺は年を越えたら死ぬんだ!」と大きく笑う。


その年の夏。

久々に来店頂いた辻井さんは、驚くほど小さくなっていた。

身体中に溜まっていた水分が抜けただけとのことだが、心配せずにはいられなかった。

そして12月に差し入れを持って来てくれた時には、以前の辻井さんに戻っていた。

身体の変化が大きすぎる。


「君との付き合いもあと2ヶ月だな!」


「またそんなことを〜!まだまだ私からご契約を頂きますよ!」


「言うようになったじゃないか」


そう言って辻井さんは、いつものように大きく笑う。


2022年1月31日、辻井さんが来店。

大きなお仕事を頂いた。


「これで俺はお金を使い切った!思い残すことは無い」


「辻井さん、いつもそう仰いますけど、余命でも宣告されているんですか?」


「そんなことはない。医者も助かると言っている。だが、俺は2月4日に死ぬんだ」


「やめてくださいよ〜!」


いつも冗談を言って、私を元気づけて店を後にする。


2022年2月4日。

気になって電話をしてみたが繋がらなかった。

いつものように透析中で、折り返しを頂けるだろうと思っていたが、その日はかかってこなかった。

その後多忙で連絡することが出来なかった。


そして2月12日。


「辻井の兄ですが」


私は悟った。


「弟が2月4日に急死しました。」


詳しい話を聞くと、人工透析の予約を入れていたようだが時間に来院が無かった為、病院から自宅に確認の電話が入ったとのこと。

話を聞いたお母様が自室にいる辻井さんを呼びに行った。

椅子に座りスマホを開き、指でスクロールをしていたであろう状態で冷たくなっていたそうだ。

その日は仕事を切り上げ、線香をあげさせて頂きに辻井さん宅へ伺った。

お兄さんからお話を伺うと、「本人も死ぬと思ってなかったんじゃないか」と言う。

遺書も無かったとのことだ。

現在の医学では、余命が日にちまでわかるものなのか。

辻井さんは「2022年2月4日に俺は死ぬ」と言っていた。

そして本当に。


別な何かに余命宣告をされていたのだろうか。

この世には本当に不可解なことが多い。

そう思わされる話。


辻井さん、本当にお世話になりました。

あの時は冗談で言ったんですよ?


「辻井さんが本当に亡くなったら、ブログに書いていいですか?笑」


「おう!書いてみんなを驚かせてやれ!」


そう言って大きく笑った辻井さん。

書かせていただきました。

私の一番大切な記事です。

辻井さんに頂戴したお品は、大切に使わせて頂きます。


ありがとうございました。

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