最強の雨女

この世には説明不可能な現象を起こす人間が存在する。

私の友人の一人が、まさにそんな力を持っている。

その力は「雨女」と呼ばれるもの。

私の知る限り、彼女の雨女ぶりは最強だ。

今回はその最強の雨女について語っていこうと思う。


小学校のイベントと言えば、運動会、遠足、修学旅行が挙げられる。

私にとってこれらのイベントはある意味での戦いであった。

小学四年生の時に、宮城県の田舎町の学校へ転校した。

そこで出会った一人の女の子。

彼女は普段とても大人しい。

浮いているわけではないし、誰とでも話してはいるが、自分から絡みに行くことはない。

いつも机で本を読んでいた。

彼女の家はとても裕福で、歴史のある家系。

一度遊びに行ったことがあるが、とても大きな門があったのを憶えている。

彼女と友人として付き合っていく中で、一つだけ不思議なことがあった。

彼女が楽しそうにしている時は、確実に雨が降っていた。


一方私は彼女程の力は持っていないが晴れ男だ。

私が楽しみにしているイベントの時には雨予報も変わり、青空が広がってくれる。

建物の中や屋根がある場所など、雨が降っても良い環境へ私が入ると降り出してくる。

そして、外へ出るとまた止む。

これは今でもありがたいことに続いてくれている。

仕事で外回りの際、傘をさしたことが無い。

これは私が勝手に思っているのではなく、父方の長男が代々晴れ男。

そして、母方の本家の血を引く人間は晴れ男、晴れ女。

その両方の血を引く私は晴れ男になったようだ。


時は小学四年生、春の遠足。

当然私は楽しみにしていた為、晴れを確信していた。

だが朝起きてみると、土砂降りだった。

その頃の私はそんな力の存在を理解しておらず、漠然と私が楽しみな時は晴れると思い込んで過ごしてきた。


だが雨も雨。

本気の土砂降り。

私は祈っていた。


「どうか晴れますように・・・」


幸にして集合時間までには、どんよりとした真っ黒な雲が空に立ち込めていながらも、ギリギリ雨は降っていなかった為決行。

私は少々不思議に思いながらも、遠足に行けることを喜んだ。


そして運動会。

前日の天気予報では翌日晴れ予報。

勉強の出来ない私が活躍する場所はここしかないのだ。

だが起きてみると土砂降り。

私は晴れることを確信していた為、不思議で仕方がなかった。

集合時間になると真っ青な青空が広がり、地面も乾いていた為決行。


友人からある噂を耳にした。

どうやら同学年に雨女がいるらしいとのこと。


「んな馬鹿な話あるわけ無いだろ〜」


とは言ったものの、薄々感じていたことがあった。

同じクラスの女の子。

私が唯一目を合わせられない女の子。

大人しく、育ちの良い優しい女の子。

だが、その子と目が合うと、私の背筋にビリビリと電流が流れる感覚に陥る。

なんとなしに話題を振ってみた。


「なんかこの学年に雨女がいるらしいぞ」


彼女が目をまん丸くしてこちらを見る。


「やっぱり〇〇君にはわかっていたの?秘密だよ?」


「え?」


「ん?」


「何がよ・・・」


「え?私だって知ってて話しかけてきたんじゃないの?」


顔を真っ赤にし、顔を手で覆う彼女。

そういうことか。


彼女は遠足は大好きだが、運動会は楽しいものの、走るのは苦手なようだ。

なるほど。

彼女は私と逆で、楽しみなイベントで心が躍ると雨が降るらしい。

だから遠足の時は晴れてくれなかったし、運動会は彼女の力が弱まった為青空が広がったわけか。


そこで彼女と話し合った。


・遠足が楽しみなのはわかるが、自分がそのような力を持っているのがわかっているのなら、少し考え方というものがあるのではないか。

・運動会も私が目立ちたいから、是非力を抑えて下さい。


話し合いという名の一方的な要求だ。


「頑張ってみる・・・」


そう呟く彼女。

それからの二年間の遠足と運動会、そして修学旅行は天気に恵まれた。

大事な行事の前には急に仲良くなる私達を、周りは冷やかした。

修学旅行では一緒に行動していた。

気を抜くと土砂降りになるのだ。

楽しかったのだろう。

日中はなんとか雨を降らせず、ホテルに入ったら土砂降り。

彼女が枕投げをして楽しそうに笑っていた。

それは降るよ。


彼女は私立の中学校へ進学。

高校の時に駅でばったりと出会った。

その時には私はある程度自分の力を認識し、コントロール出来るようになっていた。

彼女の背中には大きな龍が飛んでいた。


龍神様だ。

彼女の家は代々龍神様を祀り、長女が宿すそうだ。

長女が家督を継ぎ、婿を迎える。

龍神様が守る家。

龍神様は水神と同義とされることも多い。

龍神様が憑く人間は雨男、雨女が多いそうだ。

その中でも彼女の力は群を抜いていた。


25歳の時に開催された同窓会。

高校以来に彼女とも会った。

清楚で清らか、気高さも感じさせる女性となっていた。

婿を迎え、子供も一人いるそうだ。

女の子。

後継となる子だろうか。

彼女の後ろを見ると、より力強く渦を巻く龍が飛んでいる。


そんな土砂降りの同窓会。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る