古墳
私の母方の先祖は福島県の古墳に眠っている。
今回はその古墳にで体験した不思議な話。
現在当家で管理している古墳は二基。
その中の一基は、小さな頃に住んでいた家の道路向かいにあった。
小高い丘になっており、私はよくそこで遊んでいた。
私の家は広大な畑の真ん中に建っており、隣家が遥か遠くに見えるような所。
加えて同世代の子供がいなかった為、兄弟だけで遊ぶことが多かった。
母家を出て左手に納屋兼物置。
右手には管理しているアパート。
そこを抜けると敷地の前に川が流れており、橋を渡って道路に出る。
橋の手前には川に降りられる石段があり、昔はここで洗濯や洗い物をしたそうだ。
夏は川で遊ぶことが多いが、季節を問わず道路向かいの古墳で遊んでいた。
当時はお墓山と呼んでいたか。
雨の数日後。
少しだけ水位の上がった川で弟と遊んでいると、道路から声を掛けてくる男性がいた。
「そこは危ないよ」
ニコニコとしながらも、芯の通った声。
改めて考えると違和感しかないのだが、その当時は何も思っていなかった。
黄ばんだ白い布を纏い、赤紫色の布を腰に巻き、天然石の首飾りを身に付けた長髪の男性。
そんな男性に声を掛けられ、怒られたと思った私と弟はすぐに石段を駆け上がり、その男性の元へ行き頭を下げた。
「ごめんなさい・・・」
その男性は大きな声で笑う。
「謝ることではないよ、君達に何かあると皆が悲しむだろう。あっちの山にカブトムシやクワガタが沢山いるよ」
その言葉にテンションが上がり、男性の手を引き山へ急ぐ。
ちなみに、私は幼い頃から酷い人見知りだ。
それは当然この頃も変わらない。
叔母でさえも時間が空くと話が出来なくなるし、歳の近い従姉妹とも話すことが出来なかった。
初対面など以ての外。
しかし不思議とその男性には、私も弟も無条件で心を開いた。
だが一点疑問があった。
それまでお墓山でカブトムシやクワガタが採れたことなど無かったし、両親や祖母にもそんなことを聞いたことも無かったのだ。
男性と鳥居をくぐると、木々がざわめき、風が優しく吹きだす。
「ほら、あそこにカブトムシがいるよ」
「あそこには群がっている」
ニコニコとした男性が指を指すところには、本当に沢山のカブトムシやクワガタがいた。
「いっぱい採っていいの?」
「もちろんだ、沢山採っていき、皆を驚かせてあげなさい」
そう大きく笑った。
「カゴ持ってきてないから、取ってくる!」
「いや、私が作ってあげよう」
そう言うと、蔦を器用に編んで虫籠を作ってくれた。
私と弟は男性と共にカゴいっぱいのカブトムシとクワガタを取った。
気付くと夕方、母が私達を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほら、そろそろ帰りなさい」
私達の背中をそっと押しながら、鳥居の前まで見送ってくれた。
「二人で何してたの?」
母に聞かれ、「みんなで虫捕りしてたの!」と答えると、怪訝そうな表情で「ご飯だよ」と言っていたのを今でも憶えている。
虫籠を見た祖母も驚いた顔をしており、何故か仏壇に上げていた。
当時は不思議に思ったし、せっかく作ってくれた虫籠を取られた気がしてむくれていたが、今思えばわかっていたのだろう。
その後も何度か男性に遊んでもらった。
秋はトンボの捕り方を教えてもらい、冬はかまくらの作り方を。
いつでも同じ格好をしていたが、不思議にも思わなかった。
そんなある日。
突然転居することになる。
業者が荷物を運び出し、トラックが出た後に家を見回り、最後に家族が車で家を出る。
また遊びにこれば良いと思っていた。
だから寂しくはなかった。
車の窓からお墓山を見る。
鳥居の前に男性が立っていた。
真っ白な生地で仕立てられた服を纏い。
黄金と天然石の装飾。
髪をしっかりと結い上げた姿で、高々と剣を掲げていた。
私と弟は見えなくなるまで、必死で手を振った。
その後その場に戻ることは無かった。
20年程経ったある日。
仕事で近くまで行くことがあった為、寄ってみることにした。
変わらず鳥居は建っており、あれ程大きく見えた山も頭の中のイメージとは異なり小さく見えたものだ。
邪魔にならない所に車を停め、古墳に向かい手を合わせた。
後日談になるのだが、最近亡くなった祖母がいつだったか話してくれた。
「あんだ達あの時、古墳の偉い人と遊んでだんだべ?」
やはり祖母にはわかっていたようだ。
そんな不思議な思い出。
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