切なく儚い故人の想い
母と娘
母の職場の同僚に一人の娘を持つ母親がいた。
若くしてご主人を亡くし、お一人で育ててきたとのこと。
娘も無事成人し、仕事にも就いたと聞いていた。
ただ、どうしても喧嘩が絶えないのだとか。
顔を合わせると喧嘩が始まり、怒鳴りあい、しばらく口をきかなくなるのも毎度のこと。
母親とも、娘ともお会いしたことはあるが、とても気の良いお二方だったと印象に残っている。
そこで母から、何かわからないかと相談があった。
田舎独特の習慣なのか。
信用している同僚の息子というだけで、私が霊感があるということは無条件で受け入れられた。
まずは母親を見てみたのだが、特に問題らしい問題は無かった。
何か余計なものが憑いていることも無く。
ただ、悲しい気、娘を心配している気に溢れていた。
口では「あの娘は本当にどうしようもなくて!」と強く言ってはいたが、心の内ではそうではないのがわかった。
それはそうだろう。
現在の私にも察することの出来ない程のご苦労をなさって育ててきた一人娘と不仲なのだから。
後日娘の方も見させていただいた。
こちらは流石に私に対して疑いの目を向けてきた。
これは想定内の為問題無し。
母親とは異なり、心に怒りの念が渦巻いていた。
素直になれない自分に対しての怒り、そして母親と仲良く出来ないことへの歯痒さが滲み出ていた。
その時は問題の解決は早そうに思たのだが。
後日母から二人の後日談を聞いた。
私の見立てはお伝えしてはいたのたが、20代の若造に言われても何の信憑性も無いと思われたのだろう、聞き入れてはもらえていないようであった。
どうやら嫌気が差した娘さんが家を出て、一人暮らしを始めたとのこと。
母親も「清々した!」と言ってはいるようだが。
田舎の広大な土地の大きな家に、一人で暮らされているのはさぞかし寂しかったことだろう。
それから時が経ち、ある冬の日。
母からあの母親が亡くなったと聞かされた。
早朝の通勤時、信号待ちで後ろから走ってきた居眠りの大型トラックに追突され、そのまま亡くなったとのことだ。
私の心に表現することの出来ない感情が渦巻く。
他人とはいえ、一度関わった方だ。
娘のことも気になる。
私はその後聞いた話でしかないのたが、娘も憔悴しきっていたようだ。
その後何ヵ月か経過したある日、母伝いで娘からコンタクトがあった。
数日後、時間を作り娘とお会いし、思いを聞かせていただいた。
涙を流しながらの訴え。
何故素直になれなかったのか。
もっと一緒にいたかった。
旅行に連れて行ってあげたかった。
初給料でプレゼントを買っていたのに、渡すことが出来なかった。
親孝行をしてあげられなかった。
一言「ごめんなさい」が言いたい。
私は話を聴く側。
冷静でいなければいけないのだが、私は流れ出る涙を隠すことが出来なかった。
やはり最初の見立ては間違っていなかったのに、力になれなかった事が悔しかった。
だから今回は少しでも彼女の気持ちを楽にしてあげたかった。
だが、そんな必要は無いようだ。
母親が隣に立っている。
ニコニコと気高くも優しい笑顔で。
「本当にしょうがない子だね」
穏やかな笑顔。
「〇美、ごめんね。寂しい思いさせちゃったね。あんだの花嫁姿が見れながったのは残念だげど、見守ってっかんね。将来の旦那さんには素直になんだよ・・・」
そう言い終えると消えていった。
そのまま娘にお伝えすると、泣き崩れ、やがて安心したように笑ってくれた。
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