祖母の想い

父方の4歳上の従兄に、悪さばかりして家族や人に迷惑ばかり掛けている、本当にどうしようもない男がいた。

そんな従兄の話。


私が中学に入学すると、田舎ながらにヤンチャな先輩が多くおり、初めのうちはビクビクとしながら学校生活を送っていた。

しかし、楽な部分もある。

従兄とは苗字が一緒の為「〇〇先輩の従弟」というだけで、恐れられていたのだ。

駅も無い小さな田舎町、同じ苗字は全員親戚のようなものだった。


どんなことをしてきたのかが想像出来たし、噂も色々と聞いていた。


従兄は高校入学後すぐに退学になり、定職にも就かずフラフラと遊んでいた。

私がコンビニにいると、かなりの確率で遭遇する。


「おう!縁凜!」


爆音のRZ350に跨り、いつも違う女性を乗せていた従兄は、少しかっこよくもあった。


狭い町の為従兄の悪さは耳に聞こえてくるし、私も同様に煙たがられていた。



そんな従兄を、いつも心配し、叱咤していたのは父方の祖母だった。


両親に何か言われる時は、怒鳴り散らして出ていくのだが、祖母に言われると「わかったよ・・・」と静かに出て行った。

口煩く感じてはいたようだが、幼い頃から従兄はおばあちゃん子だったからだろう。


私が祖母の所に遊びに行くと、とても可愛がってくれ、いつもお菓子や沢山の料理を振舞ってくれた。

物凄く甘い玉子焼きが美味しかった。


食べている時に、「〇〇は本当は素直なんだ」「今は若いからしょうがない」「いい子なんだ」と何度も言っていたのを覚えている。



年齢はハッキリとは思い出せないが、祖母はいい歳ではあったが大きな身体で「ガハハハッ!」と笑う元気な所謂肝っ玉母ちゃんだった。

私の父含め5人を育て上げ、全員を事業主にしてしまう豪快さ。



そんな祖母が、どんどん小さくなってきたのだ。


時は私が離婚をした辺り。

25歳の頃だったか。


その頃にはあまり祖母の家にも顔を出すことも無くなっており、久しぶりに顔を見た時には衝撃を覚えた。


父に聞くと「歳とって食が細くなったんだべ」と。


そんなものかとその時は気にも留めていなかった。


それが、どんどん痩せていくもので、流石に焦った父の兄弟の長男が病院に連れて行く。



白血病。



その場にいた全員が肩を落とした。



その後見舞いには何度か行ったが、どんどん別人のように痩せ細っていく祖母。

そこからは早かった。


朝まで遊んでいた時に、父からの着信。


「ばあさんが亡くなったから・・・」


すぐに帰り、顔を見に行った。



顔が広く、面倒見の良かった祖母だ。

告別式には大勢の参列者。


火葬場へ向かう霊柩車を見送る沢山の人。


祖母は人望が厚かった。



従兄は何食わぬ顔で携帯をいじっていた。



火葬場に到着し、最後の別れを済ませる。


棺の中には祖母が生前気に入って着ていた洋服。


私の祖母のイメージはこの服だった。


あの世でも着てほしい。



祖母が炉に入る。



スイッチが入れられ、煙突から煙が上がった。



その時、何食わぬ顔で携帯をいじっていた従兄が泣き崩れた。


私が近寄り、肩を抱く。


落とした携帯を拾い上げる。



画面には祖母と従兄が笑顔で並んだ写真が表示されていた。


私も我慢出来ず、二人で外に出て号泣。


抱き合いながら号泣。



思いっきり泣いて落ち着き、煙草を吸っていると、空から何かがヒラヒラと舞ってきた。



1枚の布。



従兄の元へヒラヒラ揺れながら、でもまっすぐに落ちてきた。


従兄の背中をつつき気付かせる。


従兄が両手で受け止める。



それは祖母の気に入っていた洋服の切れ端。

四方が焦げてはいるが、あの生地。



「おばあさん・・・」



その後、相変わらず女性に対する癖は直らず、何度結婚、離婚をしたかもわからないが、真っ当に仕事をし、両親の面倒を引き受け、母の違う子供たちを立派に育て上げる。

親戚一同が集まると、見事に仕切ってみせる。

親族旅行があれば音頭を取り、近所付き合いや町の行事にも積極的に参加。


あの悪ガキだった従兄はもうそこにはいない。


まるで祖母がそこにいるように見えた。

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