第13話 十五夜の月
それは暑い夏が終わり、秋になったばかりの頃。
「だいぶ涼しくなってきたな」
「過ごしやすくなってきましたね」
ピコン
スマホがなった。谷崎はスマホをみると通知欄に『今日は十五夜です。夜空を見てみましょう。月が綺麗ですよ』
「今日は十五夜か」
「……十五夜って何じゃ?」
卑弥呼が尋ねてくる。
「十五夜は、一年の中で一番月が綺麗な日の事です」
「ほう、一年で一番、月が綺麗な日……そういえば最近月を見てないな」
「そういえば僕もですね」
谷崎は休日前の仕事終わりにマンションのベランダでハイボールを夜空の月や星を見ながら飲むのがルーティンだ。夜空を見るとリラックスできるのだ。隣の人がヘビースモーカーなのが嫌な点だけど。
「久しぶりに月を見てみるか」
「あ、そうだ。十五夜はお団子を食べるんですよ」
「お団子?どんな食べ物じゃ?」
「んーお餅に似たような食べ物です」
卑弥呼は立ち上がる。
「召使いにお願いして一緒に作るか!」
「団子は作るのに時間がかかるのでお餅にしましょう」
「そうなのか?分かった!では餅を作るのに行こう!」
谷崎は卑弥呼に連れてこられる形で召使いの家に行く。
「おーい!居るか?」
「はい。少しお待ち下さい」
数分経ち、少女が出てきた。
「なんでしょうか」
「餅を作りたいんじゃが」
召使いの少女は眉根を寄せる。
「餅ですか。餅を作るには準備がいります。何故急にそんな事を?」
「夜に月を見ながら食べるのじゃ!」
少女は目を見開く。
「え?月を見ながら食べるのですか?」
「そうじゃ!お願いじゃ!ほら、この通りじゃから!」
卑弥呼は手を合わせてお願いする。
「はぁ……分かりました。今、もち米を炊くので家でしばらくお待ち下さい」
「おう!有難うな!」
卑弥呼は少女に頬にキスをする。少女の顔は真っ赤になる。
「!やめてください……」
「あはは!」
そして家で待つこと数時間
「卑弥呼様、準備ができました」
外に出ると
(この時代にも杵と臼があったんだ)
杵は現代で使われている金槌のような形ではなく一本の木で作られているものだった。
少女は臼の中にもち米を入れ、杵を卑弥呼に渡す。
「これでもち米をついて下さい」
「つけば良いのじゃな!そりゃ!」
「疲れないですか?」
卑弥呼は杵を縦に振りながら答える。
「こんな事で疲れることはないわ!」
数分後
「ぜぇ……はぁ……もう無理」
卑弥呼は杵を谷崎に渡す。
「次は……晴人の番じゃ……」
「……大丈夫ですか?」
「あんまり強く振り過ぎだからですよ」
卑弥呼は日陰に行き、休む。そして、谷崎も、もち米をつく。
「それ!」
その後、三人で交代しながらもち米をついていく。すると、みるみるうちに餅になっていく。少女は餅を少し取り味見をする。
「よし、このくらいでしょう」
完成した餅を別の容器に移し替える。そして、少女は杵と臼を片付け、少し餅を分ける。
「あとは形を整えれば完成ですので」
分けた餅を持って帰っていった。
「どんな形なのじゃ?」
「小さくて丸い形です」
手に水をつけ、餅を小さく取って丸めていく。
「難しいな」
「丸めるだけなのに……」
こうして、悪戦苦闘しながら完成した。
その時はもう夕暮れだった。
「良し!できた!早く夜にならないかのう!」
待つこと数十分
空が黒く染まり、星が見え始める。そして夜空の真ん中には大きな満月があった。
「おお!綺麗じゃのう……」
「こんなにきれいだったなんて……」
月がよく見えて、周りには星が数え切れないほどある。明かりひとつないおかげで夜空が物凄くきれいに見えた。
「パクっもぐもぐ……んー!美味しいのう!」
卑弥呼が餅を食べて感嘆する。そして、谷崎も餅を食べる。何故か餅がいつもより美味しく感じた。
すると卑弥呼は話し始める。
「谷崎が来る前はずっと夜空を見ていたんじゃ。昔と未来で唯一繋がっているんじゃ。昔の人が見ていた月を未来の人が見ている。そう考えるとわくわくするのじゃ」
その時の卑弥呼の顔は月明かりのせいなのか明るかった。
「パクっもぐもぐ、この餅何故かいつもより美味しく感じるな。ほら、晴人も食べないとわらはが全部食べてしまうぞ」
谷崎は卑弥呼に取られまいと急いで食べる。
「渡しませ……ごほん!ごほん!」
「もう、何やっておるのじゃ」
卑弥呼は谷崎の背中をさする。
「……ふぅ、すみません……」
卑弥呼は笑う。そして、
「……初めてじゃ。こんな月は」
二人は初めて十五夜のお月見をして、一番思い出に残った十五夜となった。
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