第6話/状況報告

「ルーク様達はとても遠いところでギルドを結成されていたのですか?」

「そうそう、俺の爺ちゃんがギルドマスターやってて、今は俺がその代理をしてる」

「お爺様がですか!?」

「まぁ、普通驚くよな……」


 『F.F.O.ファンタジー・フロンティア・オンライン』というゲームをプレイしていた青年『ルーク』こと『城司』。

 彼は『F.F.O.』内の大きなイベントに参加し優勝を勝ち取った後、突然異世界に転移させられるという状況に陥ってしまった。

 そんな中、魔物に襲われていたところを助けることができ、それによって知り合うことができた現地人である『フィオラ』と談笑を楽しんでいると、彼女を護衛していたと思われる傭兵団の長『デイン』が近づいてきた。


「ようルーク。お嬢様とは打ち解けられたみたいだな」

「デ、デイン様! お、お体の方は……?」

「問題ねぇさ。ミユキの嬢ちゃんが回復魔法でパパッと治してくれたからな。あぁそれとお嬢様、ちょっとルークを借りるぜ。ルークに話をしておきたいことがあってな」

「俺に話が……?」

「ルーク様にお話、ですか……?」

「安心してくれお嬢様、なにも危害を加えるつもりはサラサラねぇよ」


 ミユキのおかげで傷も完全に治ったデインは、フィオラと話をしていたルークに用があると告げ、彼を連れて少し離れた場所まで移動した。

 デインは皆がいる街道から少し離れた雑木林の中まで来ると、ルークの方へ向き直り姿勢を正した。


「さて、旅の者ルーク殿、此度は我々への加勢及び治療に協力してもらったこと、傭兵ギルド『風の隼』を代表して感謝を告げさせてもらう」

「……あ、あぁ、そういうやつね。びっくりしたぁ……あんたがそういうこと言う人には見えなかったからさ……」

「……仕方ねぇだろ、こういうのは形だけでもやっといた方が良いんだ」


 姿勢を正したデインが告げたのは今回の救援についての感謝であった。

 といっても、キョトンとしていたルークが拍子抜けしたように脱力すると、デインも口調を戻して先程までのような雰囲気に戻る。

 しかし、本題はそれだけではないようで……


「本題を話す。出会って間もないお前さんでも薄々察しているだろうが、今回俺達が護衛しているお嬢様は、ここからそう遠くない領地――【グリーンフィールド領】の領主様、その娘さんでな……領主様はフィオラお嬢様をそれはそれは溺愛してるらしい。ちょっとそこらの丘に出かけるだけだってのに、お抱えの傭兵団である俺らや、教会の聖職者であるフェアー達まで付けるくらいだしな」

「あー……大体把握した。出かけてみればなんでか【ゴブリン】の大群に襲われたと……」


(【グリーンフィールド領】……『F.F.O.』にも領土の設定があったな。俺はあんまそこら辺は覚えてねぇけど……ってか、フィオラちゃんと話してた時も思ったけどマジで現実だな……)


 『F.F.O.ファンタジー・フロンティア・オンライン』の世界にも、ファンタジーな世界観らしく『領土』が存在している。

 「マップの一定範囲内を領土(俗に言う『フィールド』)として区切ることで、出現する魔物やアイテムの生態系を保っている。領主はそれを管理する者である」……という感じに、領土を管理する領主は、過酷な環境で生きる強力な魔物を別の地域に流れ込ませないようにしているという設定があるのだ。

 そのため、別のフィールドに移動すると途端に魔物の強さが変わることの理由付けにもなっているし、プレイヤー達が探索するときの指標にもなっているのである。


 その中でも【風そよぐ緑の大地ブリーズグリーンフィールド】は下級の魔物が多く出現するフィールドであり、初心者のプレイヤーも安心して冒険ができる場所であった。

 この世界の住人であるデイン達もそれは承知の上で、尚且つ、万全の準備を以て今回の護衛を受けたのだが……


「だがそれが功を奏した。俺達を襲ってきたゴブリンの中には【ゴブリンレンジャー】や【ゴブリンシャーマン】。そして【ゴブリンファイター】までいやがったからな。本当に、お前さん達がいなかったらどうなってたことか……」

「いやいや、あれくらいならどうってことないって」


 しかし稀にあることとして、普段は弱い魔物しか出ない環境でも強力な魔物が出現するシステムも存在し、それらは一括して【上位種】や【変異種】などと呼ばれることも。

 ルークが先程蹴散らした【ゴブリン】の亡骸を観察すると、確かに通常の【ゴブリン】だけでなく様々な装いをした【ゴブリン】が確認できる。

 それがデインの言った【ゴブリンレンジャー】や【ゴブリンシャーマン】、【ゴブリンファイター】であった。


 【ゴブリンレンジャー】は、プレイヤーやNPCが習得できるジョブ――『軽戦士レンジャー』と似通ったスキルを持ち、腰布とこん棒だけを身に纏った通常の【ゴブリン】と比較して、襤褸切れとはいえ服を身に纏い、そして弓を使う知性を備えた面倒な魔物。

 弓自体の威力はそこまでなのだが、時折だが戦闘スキルである『毒矢』というものを使用し、対象を「毒状態」にしてくる初心者にとって非常に厄介な敵。

 「毒状態」にされた敵は継続的な割合ダメージを受け、回復魔法の『治療キュアー』などで解除しないと長時間ダメージを受け続けてしまう。

 しかし、【ゴブリンレンジャー】単体だけならそこまで苦戦せずに対処はできる。


 だが今回デイン達が苦戦したのはレンジャーだけでなく、【ゴブリンシャーマン】と【ゴブリンファイター】もいたからだ。


 【ゴブリンシャーマン】は、プレイヤーのジョブで言うところの『祈祷師シャーマン』という職業と同じように、「呪い」や「毒」、「混乱」などの『状態異常』といった特殊なデバフをメインにして戦う魔物だ。

 そもそも『祈祷師シャーマン』というジョブは、戦闘スキルの使用を封じる「呪い」、継続的なダメージを受ける「毒」、一定時間行動不能になる「混乱」など、厄介極まりない『状態異常』を相手に付与し、「とある戦闘スキル」を使用すれば火力も出せる後方支援系の戦闘職。

 しかし『祈祷師シャーマン』単体ならば、近接戦闘能力はほぼ皆無、それに加えて物理攻撃に対しての耐性も絶望的といってもいいステータスなので、高耐久・ヘイト集中・デバフ耐性持ちの『騎士ナイト』や『守護者ガーディアン』に呪いを受けてもらった上で、『弓使いアーチャー』や『サムライ』に攻撃してもらうのがセオリーだ。


 しかし、デイン達が戦っていたあの場には【ゴブリンファイター】もいた。

 もちろん『軽戦士レンジャー』や『祈祷師シャーマン』と同じように、プレイヤー達のジョブにも『戦士ファイター』は存在する。

 現にルークが過去に習得していたジョブが『戦士ファイター』であった。

 このジョブはシンプルな近接攻撃性能と、物理に対しての高い耐久力、剣と盾を装備できることで攻撃と防御を自在に切り替えられる対応力に、相手の攻撃を自身に集中させることで仲間への被害を減らすことができる、序盤から非常に優秀なジョブ。


 そんな攻撃もできる上に耐久力も高く、前線を張ることで後方の味方に支援してもらえてしまうジョブを習得した魔物が【ゴブリンファイター】である。

 今回デイン達が戦った【ゴブリン】の群れは、そんな【上位種】も入り混じった面倒極まりない相手だったのだ。


 もし、ルーク達が気づけなかったら……デイン達は生きてはいなかっただろう。


「感謝してもしきれねぇ……元はと言えば俺らが不甲斐ないばかりにお嬢様を怯えさせ、果てには通りすがりのアンタらに偶然助けてもらわねぇと全滅もありえた。リーダーとして、あんたらから受けたこの恩は一生忘れねぇからな」

「一生って……まぁ、感謝は受け取っておくよ」


 純粋な感謝の言葉に照れくさそうにするルーク。

 その時、ルークはふとあることを思いついたのである。


「あー、助けるついででいいんだけど、おっさん達の護衛に俺らも加わっていいか? 俺らここら辺の事情に疎くてね……」


 ルークが言ったことは単純、「護衛に加わるから情報教えてくれ」ということ。

 通りすがりに命を助けたにしてはそこまで大きなメリットはない、むしろ出会ったばかりの人を助ける義務などないはずなのに……そう思ったのであろうデインは一瞬動きを止めると、しばらくして顎に手を当てながら口を開いた。


「……そんなもんでいいのか? ここらの事情を知らないとはいえ、見ず知らずの俺らを助けるだけじゃなく、護衛に加わる代わりに情報だけを教えてくれとか……」

「そんな目で見るほどか……? 俺らにとってはこれが一番良い選択なんだよ」


 デインの意外そうな目で見つめられたことに気恥ずかしくなったのか、顔を逸らして頬を掻くルーク。

 そんな彼の姿を見て、デインは呟くように言った。


「……ルーク、あんた損をしそうな性格してんな」

「うるっせ、自覚してるよ」

「ははっ、まぁ、俺らにとっては損はねぇし、あんたもそれでいいのなら断るのは勿体ねぇ。よし、俺はお嬢様たちにでも伝えてくるから、ルーク、あんたはミユキの嬢ちゃんに伝えてきてやんな」

「分かった。出発のタイミングはそっちに合わせる」

「……何から何まですまねぇなルーク」


 そして、ミユキ達の元へと駆けていくルークの背中を見送りながら、デインは遅れてその後をついていった。


『……なんだあの人間共は……本当に奴らと同じ種族なのか……?』


 暗がりに潜む何者かの視線に気づかぬまま……



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「――と、いうことで俺達はフィオラちゃん達についていくことにしたよ」

『とりあえず言わせてくれでござるよギルマス。あんな可愛い女の子と接触するだけに飽き足らず、頬を赤らめさせるとは……。あれか? ゲオル殿と同類になってしまわれたか???』

「人聞き悪いこと言うんじゃねぇよソウジロウ!! 俺はゲオルみたいな修羅場ホイホイじゃねぇんだよ!!」

『お腹が痛くなってきたな……』


 ルーク達とフィオラの護衛に加えてもらってから数分後、フィオラ達が乗る馬車の上空にて、ブレイブの背中に乗ったルークはの向こう側にいるメンバーに報告を行っていた。

 そのメンバーのうちの一人、『ソウジロウ』が何やら死んだ魚のような瞳で怒りをぶつけてきており、流れ弾で『ゲオル』が胃を痛めている。

 そんな会話に控えめに入ってきたのは、ソウジロウと同じ場所にいると思われる『ハンゾウ』。


『すまぬギルマス……ソウジロウ殿は先程からフィオラ殿と和気あいあいと会話をしていたギルマスに怒りを向けているのである……現在の我々はむさくるしい男どもに捕まえられて座敷牢に閉じ込められておる故……「美少女とキャッキャうふふできるとかうらやまけしからん!」と、ソウジロウ殿が申していた』

『余計なことを言うなでござるハンゾウ!!』

『ついでに言うのなら、「ギルマス、オマエ、コロス」と血走った目で――ぐぉおおおおおおおおおおおおおお!!?? や、やめるのだソウジロウ殿!! 人の関節はそんな方向には曲がらないでででででででで!!??』

『ハンゾウ貴様ァッ! 我が師直伝の『しゃいにんぐ☆うぃざーど』を食らいたいようでござるな!!!』

『すでに技をかけてる上に、これは腕ひしぎ十字固めではあらぬかぁああああああああああああああああああ!!??』

『……バカばっかり……』


 しかし、ロクな情報を持ってこなかったこのポンコツニンジャは隣にいると思われる変態侍に折檻されていた。

 そんなバカ2名を冷めた目で見る『サキノ』は黙々と足を進めている。

 このままでは話が進まないと判断したルークは、咳払いをしてから話を戻そうとする。


「そこのバカ2人は放っておくとして、とりあえず確認できたことだけでも話すか」

『ええ。1つ目は「この世界がゲームでも夢でもない現実だってこと」について。これはルークちゃん達が接触してくれたデインさん達の行動からある程度把握できたわ』


 過去を振り返ってみてもそうそうないような真剣な表情をした『クロウ』が一つ目の議題を提示した。

 「この世界は現実である」……その言葉に、通話に参加しているメンバー全員の表情が真剣みを帯びる。


『……そもそも僕達がこの世界を現実だと思っている理由として、「リアルすぎる感覚」、「妙にはっきりとした受け答えのできるNPC」……いや、もうこの世界に生きる人々だね。いくら『F.F.O.ファンタジー・フロンティア・オンライン』が凄まじい技術力で制作されたゲームといえど、ここまで「生きている」という感覚を突き付けられるとね……』

『ゲオルの言うことに同意じゃ。この大地に生きる生命力というものを儂は全身で感じておる。まさしく現実じゃな』

『それに「痛覚」もしっかりとあるみてぇだ。さっきトレントから不意を打たれた時、咄嗟に防御したが痺れ以外にも鈍い痛みがあった。こいつぁ、昔の偉い人が言ってたことは「マジ」らしいな』

『「事実は小説より奇なり」、ってやつね……』


 ゲオルの言葉をきっかけに感覚派の『キング』が彼の言葉に同意し、『ランス』とサキノは大きくため息を吐く。

 少し前まで空想であったはずの事象に巻き込まれたことに疲労が隠せないようだ。

 「誰が」「何故」「どうやって」……考えたいことは多いが、今どうにかできることではないとして後に回す。


『2つ目は「」ことだよね?』

「そうそれだ。俺とミユキは互いのウィンドウを確認できるどころかステータスまで確認できていたのに、デインのおっさんやフィオラちゃん達には見えてなかったみてぇだ。目の前でガッツリと開いてたってのにな」

『私もお兄ちゃんと同じ感じかな? 目の前に持ってきたのに全然反応してなかった』


 猫耳少女である『チェシャ』が提示した2つ目の議題は、ルーク達プレイヤーがよく使う画面――『メニュー画面』についてだ。

 この画面は、現在のルーク達が何故か飛ばされる直前までプレイしていたゲーム『F.F.O.ファンタジー・フロンティア・オンライン』の舞台――『フロンティア』と思われる世界に来て確認した要素の内、疑問に思っていたものの一つである。

 しかしこれも断定できる情報がないので一旦保留とした。


『んー、俺達全員がこうして通話できているから幻覚ってのは絶対ない。ないからなぁ……現実なんだよなぁ……』

『でも私のこの耳はちゃんと触られてる感覚あるんだね……なんかすごい違和感ある……可愛いから良いけど……』


 これが現実であるということに『ベイト』は肩を落としつつも、同じ場所にいるチェシャの耳を触ることはやめようとしない。

 そしてチェシャの言う通りに触られている感覚はあるらしい。


『あ、ちなみに『アイテムボックス』に入ってるアイテムの出し入れもゲームの時みたいに簡単にできたぞ』

『こっちも同じく~。自分のアイテムボックスの中身を取り出したら、まぁ、質量保存の法則なんてガン無視した武器がわんさか出てきたよ。こっちに飛ばされる前に着てた装備だけでここに飛ばされなくてよかったわぁ……』

『ついでに言うとミニマップは視界の端に見えてても、ワールドマップの方は開けなくなってる。えー、めんどくさ……』

「それは先に言ってくれよ……割と死活問題だぞ……」


 ついでと言わんばかりに報告したベイトと『ユーリ』、そしてサキノの姿に頭を抱えたルークであったが、仕方ないと言わんばかりに大きくため息をついて切り替えることにする。


「そんじゃ、今俺達にできるのは合流だな。場所はどうする?」

『どうしようかしら……『F.F.O.』と同じ地形とも言い切れないし……でも、もし集まれるなら「あそこ」が良いわね』

「……あそこか」


 クロウが答えた「あそこ」にすぐさま思い至ったルークは表情をほころばせる。


『あそこ……? あぁ……なんとなく分かったわ。俺達といえば「あそこ」だもんな』

『うむ、儂らの再会には「あそこ」こそが相応しい』

『「あそこ」か……「あそこ」なら色々と集められそうだね』

『うへぇ……まぁ皆がいいなら「あそこ」でも問題ないんだけど』

『やっぱり私達といえば「あそこ」ですよね!』

『「あそこ」か! この世界でも、俺を楽しませてくれるやつはいるといいな……!』

『「あそこ」ならまぁ近いから良いか。チェシャもそれでいいよな?』

『うんうん! やっぱ「あそこ」で皆がそろってこそだよね!』

『「あそこ」に行く前に拙者達はあの世に行きそうでござるぅうううううううう!!』

『某もである……「あそこ」は楽しい思い出が数え切れぬほどあるというのに……』


 含みを持った言葉に、これまで何年も馬鹿をやってきたメンバー達が一斉に気づき始めた。

 約2名、嘆きの声が聞こえてきたが……それは気にしないでおくことにする。


 そして全員が一斉に声をそろえて告げるのであった。


『『『『『『『『『「"ユグドラシル"で集まろう!!」』』』』』』』』』

『助けてギルマスゥウウウウウウウウウウウウウウウ!!!! まだ死にたくなぁあああああああああああい!!!!!!!!』

『うるさいのであるソウジロウ……』


 こうして、この異世界での第一目標が決まったのである。

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『竜の巣(ドラゴンズ・ネスト)』のメンバー、自キャラのステータスと共に異世界へと転移させられました クラウディ @cloudy2022

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