ルシス再生計画(1) -ナツメ視点-
俺は滑らかな舌触りが気に入っている果物を食べようとして、その手を止めた。まだ手を付けていないはずが、それが皿から一つ消えていた。
犯人はつい先程、一人部屋に戻ってしまった。つまりここからは、彼女が同席してはまずい『手順』とやらが絡む場面なのだろう。
(この果物もきっと、わかってて選んだんでしょうね)
意図して、俺の好物を奪った彼女。
意図して、柱までの距離を俺に聞いてきた彼女。
そして俺が彼女にピッタリな靴を用意したことも、彼女は「ナツメだから」と予想通りのこととして受け入れていた。
何とはなしに、彼女が座っていた空席に目を遣る。
「それにしても見事な再生だったよね。セネリアに断たれた世界が、すっかり元通りになってた」
しかしそこに来たルーセンさんの声に、俺は『手順』を妨害してはいけないと我に返った。
今度は意識して、ルーセンさんに目を移す。
「ルーセンさんは初めて会った時から世界について「セネリアに断たれた」と言っていましたよね。俺たちの認識は「セネリアに滅ぼされた」でした。だから俺は、例え境界線が消えても、そこに在るのは荒野と化した土地だと思っていたのですが」
「あー、あれね。世界を豹変させる魔法っていう先入観で気付けてないだろうけど、この魔法自体は実はナツメも使える奴だよ」
「え?」
「『鍵』の魔法」
「あれの原理は、対象間に物理的作用が働くのを防ぐ空間を発生させるもの――そういうことですか!」
「どういうことだ?」
驚きについ声が大きくなってしまった俺に、カサハさんが聞いてくる。
「セネリアは物理ではなく、精神の交流に鍵を掛けたということです。「在る」と認識できなければ、俺たちは見ることができない。だから、無の空間にしか見えなくなっていたんです」
「イスミナ側からは逆に俺たちが消えたということか?」
「――いえ、精神――マナは、ルシスから生じてルシスへ還ります。還ること――死ぬことができない存在は同時に生きていることもできない。ルシスから切り離された向こう側は、おそらく今まで時間が止まっていたはずです」
「大正解。で、今言ったけど『鍵』の魔法は割と使える人がいるわけ。そこでセネリアは自身のマナから生み出した
「それで玉が見える私が喚ばれたんですね。でも、どうして私は見えるんでしょうか」
食事の手を止めたミウさんが、ルーセンさんに質問する。
「容姿が似ている人間がいるように、精神も波長が似ている人間がいるんだ。他の境界線もミウが玉に触れれば、イスミナと同じように元の世界と再び繋がるはずだよ」
「境界線は幾つあるんですか?」
「場所がわかっているのは二つ。転送ポータルですぐに行けるセンシルカの街が次の目的地として適当かな。ただ、セネリアが魔法を発動させた場所まではわからないけどね」
「セネリアが魔法を発動させた場所なら、俺が知っている」
「まさかの目撃者」
カサハさんの発言にルーセンさんが大袈裟に驚いてみせて、次いで彼はポンッと手を打った。
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