第4話 サイド 祝田咲 2022年~春~

「あ~、和にぃ《かずにぃ》に結局、助けられちゃった。」


 祝田咲、ギフテッドであり優秀な彼女も人の心は読めない。彼女は強力な国民の支持を背景に、民主自由党内の他の政治家を抑え込むつもりだった。岸川ドクトリンの発表により支持率は上がったが、民主自由党内の他の政治家を黙らせるほどの支持率ではなかった。


 吉田副総理を単身、抑えに行ってくれた和馬に咲は感謝しかなかったが、出てきたセリフは違った。


「なんで、ざっこの和にぃが勝手なことすんの?ざーこのくせにかっこつけちゃってさ。」


 しかも、本当にかっこいいんだから・・・と和にぃ《かずにぃ》に気づかれないように付け加える。


「咲、口調変えるって言ってなかったっけ?オジサンに雑魚呼わばりされると腹しか立たんのだが?」


 あ、今の私はおじさんだったとようやく咲は気づく。でも、オジサンじゃない私にざーこ呼ばわりされる時は嬉しいんだと、謎な勘違いを深める。


「ばーかばーか、和にぃ《かずにぃ》のくせに生意気!」

 などと、ひたすらに恥ずかしい咲は、つい言ってしまう。


「一応、まがいなりにも咲の保護者なんでな。」


 その和馬の一言は、咲には深く刺さる。

 咲は、和馬に娘として見てもらいたくはないのだ。和馬との養子縁組は解消して、結婚して、子を作るところまで、咲の中では絶対的な決定事項なのだから。


「和にぃ《かずにぃ》が、いつまでも保護者なんて嫌!届け出しておくから。良いよね?」

「え!?」


 咲は、こう言いたかった。いや、むしろ頭の中ではこう言っていた。

「和にぃ《かずにぃ》と、保護者と被保護者の関係でいつまでもいたくない。養子縁組は解消しておいて、それから民法改正して結婚の届け出をだすの。良いよね?」


 だが、無情にも口に出た言葉は一部だけだった。祝田咲、天才的で物怖じすることもほとんどない彼女だが、いつも和馬に肝心なところは伝えることができていない。


 和馬が大好きなことも、和馬と結婚するためだけに、政治家をやっていることも。


 ショックを受けた和馬が絞り出した言葉はこれだけだった。

「そんなに副総理のところに勝手に行ったのが嫌だったのか。わかった、咲の好きにしたら良い。SPも辞めていいか?」


 今度は、咲がショックを受ける番だった。涙をこぼしながら、言う。

「はぁ?良い訳ないでしょ。和にぃ《かずにぃ》に捨てられたら、泣くしかないじゃん。」


 和馬は訳が分からなかった。分かるわけがなかった。

「咲の考えていることがわからん。わからんけど、必要なら傍にいる。それで良いか?」


 うんうんと、ただただ泣きながら頷くオジサンを相手に、和馬は深いため息をつくのだった。



 翌朝、咲は和馬に一言だけ伝える。

「いつもありがとう、和にぃかずにい。」


 和馬の意表を突かれて驚きながらも喜ぶ顔を見ることなく、岸川総理となっている咲が、その日以降にこの事に触れることはなく、咲も和馬もそれぞれのするべきことに邁進まいしんしていった。

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