第6話 報酬バンザイ
「お待たせー、マルカ君。
ごめんよー、すぐぶっ壊すから、こっち向かって飛んできて」
アキルスが立ち上がり、両手こぶしをガシガシぶつけながら、やる気満々の表情でマルカを呼んだ。
「了解っ。てか、遅いよーもう諦めかけてたよ…」
「ごめん、ごめん、わりと傷が深かったらしくてさ。でももう大丈夫。
ウチチがちゃんと治してくれた」
マルカが見ると、ウチチが草原にトドのように寝転がっていた。
彼もまた魔力を消費して疲労困ぱいなのだ。
「ウチチいるけど、大丈夫? そっち突っ込んじゃうよっ?」
「問題ない、一撃で顔面パンチくらわすから、きちゃって」
「ほいほい、よろしくっ」
パンチの素振りをするアキルスめがけて、マルカは森へ滑り込むように勢いよく一直線に飛び抜けた。
そしてそのままマルカは木の枝にぶつかって、森中へと転げ落ちていった。
「ナイスポジションっ」
マルカを追って飛びあがった岩犬の顔面をアキルスの拳が力いっぱいぶん殴ると、派手にクリティカルヒットして、岩犬は粉々に砕け飛び散った。
「あー気持ちいいぜっ」
アキルスは、手を腰にあながら、がはははと豪快に大笑いした。
「こっちも終わったぞー」
ターキーとセタが汗をぬぐいながら、笑顔でアキルスに手を振った。
「…つつつ。マジで腕も足も腰もお尻も痛いんですけどぉ」
森の茂みからマルカが痛そうな顔をしながら四つん這いで出てくると、そのままウチチの隣りに仰向けで寝転んだ。
「もう無理…しばらく動きたくない…」
空はまだ青いが、太陽はだいぶ西へと落ちていた。
風はそよいで、草と土の匂いがみんなの鼻腔をくすぐった。
「…こんな依頼受けてないんだけど」
マルカは、ため息をついて空に手を伸ばした。
「お金ほしいのに――これは無駄働きーぃ」
がくん、とマルカの手が力なく落ちた。
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30分くらい休んで、ようやくみんな立ち上がった。
時間的には夕暮れ時だが、春はまだ日が伸びて明るかった。
「とりあえず、わたくしとアキルス君は残りの薬草を摘んでしまいますので、みなさんは落とした鉱石の回収と残りを拾ってきてください。後ほど、ギルドで会いましょう」
ウチチが薬草の入った大鞄を拾うと、肩にかけた。
けれど、それをアキルスがとりあげて、自分が持つからと言った。
マルカはみんなが落とした草刈り鎌を回収して、アキルスに手渡した。
「じゃオイラたちは行くから、みんなも早めにギルドに戻ってきてよ。
薬草摘みはあと一束だからさ」
アキルスは手をあげて、みんなにあいさつすると、ウチチとともに東の方へと進んでいった。まだ探していないエリアだ。
「じゃうちらは川へ行きますか。鞄どこら辺に落としたか覚えてる?」
マルカがたずねると、ミッツは自慢げに「もちろん、俺様を誰だと思ってる?」と言ったので、マルカは「うっかり屋さんな太眉様だと思うけど?」と言い返した。
ミッツは、太眉を動かして、あちゃーって顔をした。
休憩中に、マルカたち薬草組が、岩犬に襲われたことの発端を聞いたのだ。
「いやー、穴にさ、紫に光る水晶が見えたから、お、紫水晶じゃんっラッキーて、手を伸ばしたら岩犬だったわけ。しかも6匹いてさ、いやーマジびびったわー」
ミッツがぼさぼさの黒髪の頭を掻きながら、「マジで、しくじったぜ」と笑ったのを、マルカが「学校で初心者が穴に手を突っ込んだり、洞窟入ったり、遺跡探索すんな、て言われたじゃんっ、なにしちゃってんの?」と問い詰めると、ミッツは「わりぃわりぃ」と反省した。
そんなことがあっての、今だ。
「ね、ターキーたちは鉱石どれくらい集めてたの?」
「オレら? ほぼ終わり近かったかなぁー。セタ君もだよね?」
「うん、そうだね。あとはミッツ君がどうかな? て話してて、で、ミッツ君の叫び声が聞こえたんだよね」
「そうそう、それで鞄をそこに置いて、岩犬から逃げるミッツ君を追いかけたんだった」
ターキーが「あれはちょっと面白かった」と思い出し笑いをした。
「確かに少しだけ可笑しかったかもしれないな」とセタも言うと、「…二人ともすまない。そしてその話しはもうやめよう」と、ミッツが困り気味につぶやいた。
ローブをひきずりながら、みんなの後をついてくるスアラは「くくくっ」と笑った。マルカは苦笑ぎみだ。
「ま、生きてるし、良かったちゃー良かったけどもさ…
一銭にもならないことで危険は嫌だからね、もうこりごりだからね」
マルカはおかっぱ頭をなでながら、ミッツに並んで念押しした。
「わかったって。悪かったよ。たく、しつこいと嫌われるぞ、マルカ」
「おい、どの口が言うっ」
マルカはミッツの口元をつまみあげた。ミッツは閉じた口で『イタタ』とごねてから、「やめいっ」とマルカの手を払った。
「ぁーいちぃーいちぃー。マルカ、おまえは乱暴すぎだ」
「無駄に働いた気分なんだもんっ、それくらいしてもいいじゃんかっ」
「あ、でもさ、岩犬の鼻ってさ、売れるんじゃなかったっけ?
確かさ、アクセサリー屋にもってけば買い取ってくれるんじゃなかったか?」
マルカとミッツが地味に攻防を繰り広げているのをよそに、ターキーが思い出したように言った。
「あぁ、そういえば…紫水晶に似てるとかで…あれよりも安いけど、確かに買い取ってもらえるはず。んーひとつ1万Gだったような?」
セタがあごに手をあてながら、記憶をたどりつつ、そうつぶやいた。
「えーマジで! じゃ6個で6万Gじゃん! やばい、やばい、拾いに戻ろうよ。
まだ草原に転がってるんじゃ…」
マルカが興奮気味に来た道を戻ろうとしたので、最後尾を歩いていたスアラが彼の袖をつまんでそれを止めた。
「ちょっと、スアラ君、離してよ。6万だよ、6万G! もったいないじゃん。拾えるなら拾っとこうよ。初心者の自分たちには命がけだったんだからさ」
「…ないよ。アキルスは顔面狙って倒していたし…たぶん…全部の岩犬はそれで粉々だと思うよ…それに…ボクとミッツ君の魔法も鼻先にぶつけたし…」
「えーじゃダメじゃんー。みんななんで鼻先狙うかなあ…もう…」
「そんなん知らねーもん、しゃーねーだろぉ」
マルカのため息に、ミッツが肩をすくめながら呆れてた。
「あ、でもターキー君、私たちは首を落としたから、残ってるんじゃ?」
「おーセタ君、そうだそうだ。たぶん、1匹分はあるんじゃね? 鼻」
ターキーが「よし、オレが探してくる」と走りだそうとして、スアラが横を通り抜けようとした彼の腕を、今度は掴んで止めた。
「おい、スアラ君、なんで止めるんだ?」
ターキーが不思議そうにスアラを見ると、「…持ってる」とスアラがローブの下から岩犬の鼻を取りだして見せた。
素人では見分けがつかないくらい、紫水晶に似ている鉱物の鼻だ。
「おぉっスアラ君、ナイスだね」
スアラがか細い手をすーと差し出して、それをミッツに渡すと、「よっしゃ」とガッツポーズをしてミッツはそれを受け取った。
「…たまにあるよね、スアラ君ってこーゆうところ」
マルカがぼそっと言ったのをターキーとセタもきいていたようで、二人とも無言でうなずいた。
その後、5人は落ちていた鞄も回収し、順調に鉱石を川で拾い集め、帰る頃には夕焼け空だった。
「15時までに帰りたかったのになぁ…学校に必ずお金払うって言っちゃってたのになぁ…また事務員のババロバさんにねちねち言われちゃうよ…」
帰り道、5人はそろそろ森を抜けて、街への出入り口に近づいていた。
「ま、諦めろ。俺なんか1ヶ月払ってないぞ」
「あーオレもそれくらい払ってないかも」
「私もです」
「…ボクも」
4人は悪びれもなく言うので、マルカは頭を大きく振ってため息をついた。
「ばかたれ。そんなん知ってるわっ。
みんなが払わないから、うちが代表で今日みんなの分のお金入れる約束してたんだっつーのっ。誠意みせろ、少しでもいいから入れろ、て言われてたんだからっ。
あーもー、知らん知らんっ。
明日ミッツがみんなの滞納金の一部支払いに行ってきてよ。
とりあえず、ひとり1500Gでもいいから入れろってさ。
7人で10500Gじゃん。
鼻売れば1万Gならさ、残り500Gはミッツのおごりでいけんじゃん、よろしくね」
マルカはプンプンと怒りながら、ひとりでとっとと街へと入っていった。
「…しゃないか…めんどくさいけど、俺が明日行ってくるよ。
…ま、今回は俺のうっかりミスだからな」
ミッツはみんなにそう宣言して、マルカに続き、のそのそと街へと入った。
他のみんなも、顔を見合わせてうなずいてから、それに続いた。
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