第二章 ラスボス、冒険者を救う(一回目)⑤

「……先に確認したい。もし何のしがらみもなく自分の道を選べるとしたら、シロはオレと一緒に来たいか? どう答えても怒らないし、絶対にひどいこともしない。だから本心で答えてくれ」

「…………分かりません。でも、あのお方の元に戻るのはとても怖いです」

 まあそうか。

 会ったばかりの男に「一緒に来たいか?」なんて聞かれても困るよな。

 オレが良いヤツとは限らないわけだし。

 それにシロには行く宛もないだろうし、さっきの冒険者たちのところへ帰ればひどい仕打ちを受けるのだろう。

 そんな中で選択を迫るのは、酷かもしれない。

「……分かった。じゃあ、提案がある」

「提案、ですか?」

「実はオレ、ちょっと訳ありでさ。一人ぼっちなんだ。だからもしよかったら、オレと一緒にいてくれないかな。一日だけでもいいし、シロが嫌じゃないならずっといてくれてもいい」

「え、ええと」

「その代わり、一緒にいてくれるならオレがシロを守ってやる」

 守ってやる、なんて、この世界に転生したばかりで何も知らないオレが言っていいことかは分からないけど。

 でもオレは、どうせ存在自体が悪役なのだ。

 しかも最難関ダンジョンのラスボス。

 それは多分覆せないし、もしオレが放棄したことで新たなラスボスが召喚されたら、この世界がどうなるか分からない。

 だからオレは、この世界のためにも自分のためにも、ラスボスをやめるわけにはいかない。

 それにやっぱり、こんな世界に無一文で放り出されるのは困るしな!

「……私はノーアビリティの役立たずです。あなた様はとても強いですし、私なんかがいても足手まといなだけなのでは?」

「うん? 分かってないなあ。いいか、可愛い女の子は存在がすでに正義なんだよ。もっと自信持て。……それに、一人ぼっちは寂しいだろ?」

「…………」

 シロはしばらくぽかんとした様子でこちらを見ていた。

 我ながら最低の気持ち悪さだとは思ったが、どうしてもシロを冒険者のもとに返す気にはなれなかったのだ。

 ――やっぱりオレなんかが相手じゃ無理か?

 そんな思いがちらつき始めたそのとき。

「…………その、私でよければ、ぜひ」

 シロはうつむいて赤面し、困惑しつつも、ぼそっとそうつぶやいた。

 今のこいつにとっては、これが精一杯のアピールなのだろう。

「よし、よく言った! それじゃあ――」

 オレはシロの胸元に手をかざし、スキル【特殊効果無効】を発動した。

 それと同時に、【浄化】と【再生】も。

 ――頼む。こいつを奴隷から解放してやってくれ。

 そう念じながら静かに優しく力を送る。

 しばらくすると、シロの胸元にあった刻印は次第に薄くなり、そして跡形もなく消え去った。

 それと同時に鞭の痕も消え、汚れていた服や肌、髪の毛も美しく再生していく。

「――っ!? こ、刻印が……! それに傷も――」

「……これでよし! おまえはもう奴隷じゃない。自由の身だ」

「――っ。あ、ありがとう、ございますっ。こんな、私、一生奴隷なんだと思ってたのに……」

 シロはそう言って泣き崩れた。

 まるで幼い子どものように、声をあげてわんわん泣いている。

 今までどれだけ辛い目に遭ってきたんだろう?

 まだ子どもなのに、オレには想像もできないような苦痛と恐怖の中で生きてきたんだろうな。

 その分、一緒にいられる間だけでも、オレがこの子を大事にしてやらないと。

 名前は何にしよう?

 あとはうん、とりあえず帰って飯だな!

 一連のトラブルによる心労、それからスキル使用によるSPの消耗で、空腹感が一気に増していった。

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