第二章 ラスボス、冒険者を救う(一回目)④
「――だめだ、間に合わない」
オレは足元に落ちていた大きめの石を拾い、注意をこちらに惹きつけるべく巨大猪に向かって思い切り投げつけた。
「こっち見ろおおおおおおお!」
そう願い、叫び、思い切り投げた――のだが。
石は巨大猪の頭を貫通。
同時に首から上が吹っ飛んだ巨大猪の胴体も、数メートル先の木まで飛ばされてしまった。
近寄って様子を見るも、当然ぴくりとも動かない。
そして相変わらずの。
『スキル【料理】を発動しますか?』
……え、ええと。
まあ、うん。はい。します。
オレは食材【豚肉】と化した巨大猪、もとい巨大豚の肉をアイテムボックスにしまい、少女の元に戻った。
「あの、ええと……だ、大丈夫?」
「――っ!? え、えっと、あのっ」
銀髪の少女は呆然とした様子でオレを見ている。当然だろう。
――こ、怖がらせちゃったかな。
というかむしろ、自分で自分が怖い。なんだこの馬鹿力。
「あの……ご、ごめん。怖がらせるつもりはなかったんだ。ただその、助けなきゃと思って、ですね……」
「…………わ、私を、助けてくれたんですか?」
「まあ一応。というかほかのヤツらはどこ行ったんだ?」
「冒険者様たちは、先に街へ向かいました」
――なるほど?
それってつまり、逃げたってことか?
こんな何の力も持っていない少女をおとりにして?
「――はっ! に、荷物が……。こんな、帰ったらどれだけお仕置きされるか……」
少女はその場にへたり込み、荷物を見つめて涙をにじませる。
「いや、君はおとりになって他のヤツらを守ったんだろ?」
いくら奴隷とはいえ、それで酷い目に遭わされるなんてあんまりだ。
「? あなた様は先ほど冒険者とおっしゃっていましたが、この国の方ではないのでしょうか……。私は元々、荷物持ち兼おとり用として買われたノーアビリティの冒険者奴隷です」
「……そう、か」
「なのにこんな、こんな取り返しのつかないことを……。鞭打ちだけでは済まないかもしれません……。もういっそこのまま……」
少女はぼろぼろと涙を流し、絶望した様子で自らを抱いて震えている。
よく見ると、あちこちに鞭で打たれたような痕があった。
「……君、名前は?」
「な、名前ですか? 名前は忘れさせられたので分かりませんが、シロと呼ばれています」
「忘れさせられた? どういうことだ」
「奴隷は、売られると同時に名前を失います」
そんな、そんなことって……。
どうやらオレは、とんでもない世界に転生させられてしまったらしい。
今どき公認の奴隷制度とか、しかも名前まで奪われるとかそんなんアリかよ……。
「シロって呼ぶのは本意じゃないけど、今はとりあえずごめん。シロ、オレと一緒に来ないか?」
「えっ? で、でも、私は冒険者様の所有物で……あなた様が私を所有していると知られれば、あなた様も罪に問われてしまいます……」
そうか。まあ、奴隷の所有が法的に認められてる世界だもんな。
オレはどうせラスボスだし、そんなことはどうでもいいけど。
でも、シロの身に危険が及ぶ可能性は排除しないといけない。
「君が奴隷だと証明するものは? 何かあるのか?」
「胸元に、魔術で刻まれた契約の刻印があります。私が生きていることが分かれば、すぐに帰還命令がくだると思います。私はそれに逆らえません」
「胸元……」
また見せてって言いづらいところに!
い、いやでもこれは、こいつを解放するために必要なことだし!
決してやましい気持ちはない!
「……ええと。その刻印、見せてもらっても?」
「? はい」
シロはこちらを向いて正座をし、服の襟元をぐっと下げる。
そこには、何やらよく分からない直径五センチほどの、魔法陣のようなものが刻まれていた。
というか! 正座してそんなことしたら別なとこまで見えちゃうから!
いや見てはないけど!
シロのこれは、単に無防備なのか、それとも――。
――でもまあ、とりあえずこれで。
『はい。刻印は解除可能です』
よし!!!
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