第34話 ごめんなさいっ!
「じゃあ、全部の魔法の使用を解除するけど……。
1日だけねっ。明日は明日の風が吹くから」
「なぜだ!?」
「だって、魔法が完全に戻ったら、私に仕返しするでしょ?」
「……」
「ほーーらっ!」
私は勝ち誇って、魔王に人差し指を突きつけた。
……あれっ、なんでみんな、また微妙な顔しているの?
なんで宇尾くん、アンタ、泣いてるの?
「俺、つくづく辺見が可哀想になった。なんでこんな勇者に殺られたんだ、アンタ。もう涙が止まらないよ」
どういう意味よ?
「アンタねぇ、いじめ抜いた相手から仕返しされるのが怖いから、その手段に制限をかけるって鬼畜の所業でしょ?
仮にも魔王だったんだから、魔法はアイディンティティよ」
えっ、橙香、えっ、なんでそういうこと言うの?
私が鬼畜?
私、賢者を見た。
なんかさ、うんうんとうなずきながら橙香を見ている。むかつく。
私、ケイディを見た。
私が視線を向けるのと同じ速度で横を向いたな。むかつく。
一体、ソレ、どういう意味よっ!?
私には味方してくれる人がいないの?
「勇者、諦めて魔法を返してあげて。代わりに元魔王、深奥の魔界を封じるまで、仕返しはやめておいてあげて」
「……仕方ない。そうしよう」
「さすがは王の器。でっかいわねぇ」
なにさ、なにさ。賢者め、そうやって元魔王を持ち上げていればいいのよ。
「ほら、勇者。聖剣タップファーカイトをさっさと出す。
そして、さっさと魔法を返して、さっさと出発する」
橙香、アンタも裏切ったわね。
よし、覚えていろよ。
私、竹の物差しを差し込んだチタンの柄を握りなおす。さぁ、元魔王の身体のどこかを斬って、魔法を返すんだ。とりあえず、そのどこかは首かな?
「髪の毛とか、伸びている指の爪とかにしなさい」
ぎく。
橙香、なんで私の考えていることがわかった?
「わかったわよっ。
元魔王、汝のしがらみを斬り、封印を解く。最終的、全面的に、よ。
覚悟っ!」
「……まだ斬り殺す気でいるよ、この人は」
外野で誰かがなんか言ったけど、振り出した聖剣タップファーカイトの切っ先は止まらない。元魔王の辺見くんの左耳の上をかすめて、髪の毛を数本散らした。
いつか、この見た目だけはいい元魔王の髪の毛、モヒカンにしてやるからな。
私、聖剣タップファーカイトを引っ込めて、「どう?」と聞いた。
「……いい感じだ」
地を這うような声が聞こえてきて、私、学校の屋上でのことを思い出した。武闘家の宇尾くんがこてんぱんにやっつけられたときのことだ。ってことは、魔王の決め技魔法、星を降らせる魔法がくるかもっ!?
私、聖剣タップファーカイトを頭上に掲げて、周りを見渡す。とりあえずはなにも起きていない。
「……大丈夫かな?」
恐る恐るつぶやくと、膝の裏に衝撃。
私、強烈な膝カックンでその場にひざまずいた。
「勇者。『ごめんなさい』は?」
「……どういう意味?」
「自分が悪いことをしたときは、きちんと謝る。魔族であろうが人であろうが必要なことだ。今までのことがきちんと謝れれば、余も水に流すことはやぶさかでない」
「土下座して謝れって?」
「そこまで求めてはいない。謝るなら、膝の拘束は解こう」
ほら見ろ、だから魔法を返すんじゃなかったのよ。
「ごめんなさい」
「……聞こえない。もっと大きな声で」
「ごめんなさいっ!
私が悪ぅございましたっ!
郵便ポストが赤いのも電信柱が高いのも、みーんな私が悪いのですっ!」
「真面目に言ってる?」
「真面目真面目」
ふっと、膝に掛かる力が抜けた。
こんな魔法もあるのか。ちきしょー。
あとがき
聖剣タップファーカイトを振る女勇者ちゃんのgifイラストを頂きました。
花月夜れん@kagetuya_ren さまからです。
感謝なのです。
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