第33話 それで決定!


「余の力を最大限に使えば、10日間ほどでは行けると先ほど申したはず。さすがに3日間は無理だ」

 結局、元魔王の辺見くんの回答は変わらない。

「10日間であれば弾頭の有効期限に間に合うが、あまりにぎりぎりなのだが……」

「そう言われてもな……。だが、なにがあっても使わねばならぬというものでもあるまい?」

 元魔王の言葉に、ケイディは頷かなかった。


「この弾頭、原価がいくらかわかるか?」

「……知る由もないが」

「円にして兆単位だ」

 ふーん。

 まさか、1兆円ってことはないよね?

 数え切れないほどの巨額ってことで、超単位ってことかな?


「日本の国家予算の1%がここにある。それを廃棄で済ませるわけにはいかない」

 ……勝手に持ってきておいて、その言い草はないんじゃない、ケイディ?

 でもって、まさか、本当に1兆円!?

 1兆円!

 1兆円?

 ……1兆円っ!?


「ねぇ、相談があるんだけどさ、その核弾頭持って、どっかに逃げない!?

 で、そのどっかで売れたら1人2000億円だから、一生、札束風呂に浸かれるよっ!?」

「……言うと思った。だけど、JKが一生札束風呂って発想はどうなの?」

 うるさいわね、賢者。

 全然想像もできない金額なんだから、しょうがないじゃないっ!

 それくらいしか思いつけないのよっ!!


「……阿梨はこれからの一生、深奥の魔界で一人で暮らすのね」

「なんで?

 どうして?

 なんでそんなこと言うの、橙香?

 2000億円もあるのよっ!

 大豪邸で執事を雇って、お嬢様として生きていくのっ!

 毎日紅茶を飲んで、上品さに磨きをかけるのっ!」

 私、そう力説したのに、橙香はやれやれと首を振った。


「ケイディの国から核弾頭盗んで、怪しげな国にそれを売り渡して、2週間しかない有効期限の間だからとすぐにそれが使われて、何十万人だか何百万人だかの人が死んで、一生、札束風呂に浸かっていられると思うの、阿梨?」

 えっ?

 えっ?

 あれっ?

 ……そういうことになるの?


 だめじゃん。

 ああ、ここに2000億円あるのに、手を出せないだなんて。ああ、血の涙が流れそうだし、ああ、腸がちぎれるっ!

「……くっ、裁判長、今の、なしで」

「諦めてくれて、本当によかったよ」

 ……ケイディ、なにさ、人のこと変な目つきで見てっ!


 そこで、元魔王が再び口を開いた。

「どうしても使いたいならば、2つ条件を出そう。1つ目は、魔界の住人に一切の被害を及ぼさないことだ。これは命に限らない。土地、地下水等の汚染も許さぬ。2つ目は深奥の魔界の存在といえど、殺しすぎるな。復讐心を持たれたら、どこにそれが噴き出すか想像できぬ」

「そうなると、やはり深奥の魔界の空き地で使うことになるな。核の本質は威嚇だし、勇者がいる以上、もはやこの魔界に対しては必要あるまい」

 そか、それなら深奥の魔界の住人と血で血を洗う争いをしなくて済むかもしれないな。


 よくよく考えたらさ、私だって、聖剣タップファーカイトで生きている存在を斬りたくはないんだよ。殺すってのは嫌だもん。殺さなくて済むなら大歓迎だ。


「じゃあ、それで決定!

 すぐに出発しよう。時間がないんでしょ!」

 私の提案に、元魔王がまたストップを掛けた。

「では余の魔法を返してくれ。でないと、10日間どころか60日以上掛かるぞ」

「えーっ、なんかヤダなぁ」

「阿梨!」

 あー、叫ぶな、橙香。

 ……しかたないなぁ、わかったよう。



あとがき

ようやく返却、そして出発w

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