第31話 人類の宿痾
「もう少しだけ質問させて欲しい」
と、またケイディ。
「余に答えられることであれば、な」
元魔王がそう応じて、ケイディは遠慮なく口を開いた。
「魔族は、魔素のない世界にどれほどの量の魔素をその体内で持ち込めるのだ?
それと、体内にある魔素は、減衰していくものなのか、それとも生きている限り保持されるものなのか?」
「魔法によるテロが怖いか?」
「問う方が愚かしい質問だ」
「なるほどな」
元魔王はそう相槌を打つと、「答えられない」と続けて笑った。
「なぜだ?
貿易をし、人的交流も行うとなれば、それがいちばん重要なポイントではないか」
ケイディの言葉に、元魔王は軽く笑った。
「隠しているわけではない。スライムとワイバーンで、体内に同じ量の魔素を持っているはずがない。また、スライムだからと言って必ずしも非力なわけでもない。中には驚くほどの魔素を溜め込む者もいる。魔族はその幅が広く、一律には言えぬのだ。そもそもだが、体内の魔素を常に満タンにしてからそちらに行くとは限らぬではないか。
当然、体内の魔素についてもそれは言える」
なるほど、ね。
それはそのとおり過ぎるわ。
「だが、手はあるのだよ」
元魔王がそう続け、ケイディは目で先を促した。
「治癒魔法はどの魔族でも使えるし、魔族以外に唱えても効果がある。そして、1回あたりの消費量は、例えば昨日のワイバーンの余を火で囲んだ魔法に比べたら10分の1程度だ。
入国審査所に病院を併設しろ。そして、通関する魔族の体内の魔素が空になるまで治癒魔法を唱えさせろ。そうすればもはや治安を乱すような魔法は使えぬ。
これを入国税にすればよい」
「その『空になった』という判断はどうすればいい?
我々に魔素は見えないんだぞ」
ケイディの質問は、間を置かず、すぐに続けられた。
「その魔族のバイタルを取れ。魔素切れを起こせばぶっ倒れるから、その際のデータを取ればいい。それで騙しようなく体内魔素は空になる。ただ、そのあと1回だけでいいから治癒魔法を掛けてやってくれ。でないと、魔素切れを起こした魔族で病院が埋まり、本末転倒なことになるぞ」
「なかなかに厄介だな」
ケイディの返事に、元魔王は再び笑った。
「症例数の少ない原因不明の難病が治るし、流行病への対処も可能となるのだ。深刻だが医療研究がペイしない、医療崩壊などの問題が解決するのだ。そのくらいは容認せよ」
元魔王の言葉に、ケイディは首を横に振った。
「そういう意味ではない。魔族とて、ものを食わねば倒れるだろう?
さらに魔素がなくても倒れるとなると、我々に比べて行動の阻害要因が多いな、と。
魔素は、魔族にとって諸刃の剣だな」
「なるほど。今まで全く気が付かなかった。言われてみればそうも言えるな」
そりゃ、そうだよね。
産まれたときから魔素があって、魔素切れしないくらいに強いのが魔王だろう。魔素が行動の制約をするなんて、考えたこともないに違いない。
「魔素切れの症状から研究が進み、魔族の体内から魔素を抜くことができるようになるかもしれないな。これは人類側からしたら人道的兵器だ」
「常にそのようなことを考えずにいられないのが、人類の宿痾なのか?」
思いつきをとくとくと語るケイディに、元魔王は冷水をぶっかけた。
なんか……。
元魔王が魔王をやっていた理由がわかるような気がする。
それにさ、辺見くんのイケメン顔で言うとさらに怖いな。
あとがき
人類は亜人類を全て滅ぼしましたからね……
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