第30話 魔王の侵略計画


 私たちの世界にとって魔族は脅威ではない理由、それを賢者は話してくれた。

「簡単なこと。私たちの世界に魔素はない。ケイディも、元魔王の情けない姿を散々見てきたでしょ?

 勇者と言ったって、高校に入ったばかりの小娘でしかない。その小娘に、泣かされるほどの目に合わされているのよ、元魔王は。

 上将ドラゴン『終端のツェツィーリア』も、なにもできていないじゃない。上将ワイバーン『謀略のアウレール』さえも、私たちの世界に来れば単なる大きな鳥に過ぎない。この世界に来て、『謀略のアウレール』の力を見て、私は逆説的にその思いを強くしたわ。

 元魔王の言葉からもね。この世界であれば、魔族が銃火器もものともしないのは確かでしょうよ。だけど、私たちの世界に来たら……」

「……なるほど」

 ケイディは小さくつぶやく。


「対物ライフル程度でも、上将ワイバーンと戦える、と」

「そうよ。こうなると、リスクよりも経済効果の方が遥かに上回る。私たちの世界の武器はここでも通用するけど、魔族の戦闘手段は我々の世界では通用しないののよ。その前提の上で経済効果を考えたら、ケイディの上司だって出す結論が異なってくるんじゃない?

 状況の変化を無視して任務を遂行するのは、優秀な兵士のやることではないわ」

 すごいな、賢者。

 ケイディを丸め込んだぞ。

 日本とケイディの国が再び戦争するなんて話になったら、賢者に日本代表になってもらおう。


「だが、1つだけ腑に落ちないことがある」

「なに?」

 賢者の問い返しに、ケイディはその疑問を口にした。


「そこまで我々の世界が魔族にとって鬼門であるとしたら、なぜ、勇者の前世の時代に魔族は攻め込んで来たのだ?

 海を隔てて戦争する際に、海を渡った方が負けるというのは基本認識だ。それをひっくり返すには、文字どおり、膨大な戦力が必要となる。しかも、行った先で魔素の補給ができない魔族は、死地に飛び込むわけではないか。

 その時の魔王の攻撃の判断が、正しかったとは思えない」

「言われているわよ、魔王」

 そう話を振られて、辺見くんが「やれやれ」というふうに頭を振った。


「体内に蓄積された魔素は、異世界にも持ち込めるからな。1つ2つ魔法を唱えたら、兵を交換させ続ければ戦争になると思ったのだ」

「それってすごくいい案だと思うけど、なんで上手く行かなかったの?」

 私がそう聞くと、辺見くんは私を睨みつけた。

 な、なんだって言うのよ。


「まず、それでも前提はある」

 元魔王の辺見くんが説明を続けた。

「まずは魔法巧者を数名送り込み、政治的な工作として幻影を見せ、各国の緊張状態を作りだした。これで各国の正規軍はにらみ合いを始め、少ない魔法でも侵略が可能なはずだった。どの国も挟撃の疑心暗鬼に怯えていたのだから。

 なのに、報われもしないのに命がけで戦おうというという個人ボランティアが現れたことで、余の計画は……」

「そんなバカがいたの?」

「おお、そうだ。そのバカは、さすがに軍団レベルで同士での戦いでは戦えないと踏んで、世界を渡って魔王城に忍び込んで余の殺害を企んだのだ」

「……そのバカって、私じゃん?」

「……ここまで話されて、初めて気がついたの?」

 うるさい、橙香!



あとがき

やれやれw

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