独り身のあなたへ
ボウガ
第1話
近未来、地球に住むほとんどの人々は経済的に豊かになり、暮らしに満足しはじめると、現在の発展した国々と同じ問題が噴出しはじめた。つまり少子化だ。さまざまな対策が取られたものの抜本的な解決にはいたらず、あらゆる国が解決の道筋をたてられずにいた。
その一方でまた別の問題も生じた。孤独、孤立問題だ。社会が発展し人間関係が希薄になることによって、人の輪から外れた人間もでてくる。人間関係が物事を動かすのではなく、社会システムが人間のほとんどを管理するのだ。人間関係が必要でない人や、うまくなじめない人間もでてくる。
そんな中、西洋のある国で、ある実験が行われる事になった。参加は無料であり、国の孤独対策機関によって行われるリスクのない実験である。
被験者は、あるコンピューターを支給される。ただのコンピューターではない、人型の、いわばアンドロイドのプロトタイプのようなものである。
そのテストに参加したある女性の話。
女性はシングルマザー、夫を5年前に亡くして、その寂しさからテストに参加したという。だが、真相は違った。女性は実は、様々な男と関係を持っていたが、いつも長続きしないのだ。そこで、今回テストに参加し、ある程度落ち着いた女性になろうと考えていた。
テストは定期的にアンドロイドからデータが転送され、自動的にサンプルとして利用されるしくみ、1年間の時間をかけ、アンドロイドに問題がないか、そして被験者の状態がどうなるかを検証した。
実験は順調にすすみ、結果孤独により生じる健康問題や心の安定などといったことにより良い影響が与えられる事がわかった。
が、そのテスト中に問題が生じた。このテストの内容と詳細がハッカー集団ノノニマスによってリークされたのだ。
そしてそれをニュースで、テストの参加者も知る事になった。実はアンドロイドの中身の人工知能は……死者のものを利用していた、それも、テストに参加した家族のもの、これはもう一つの重要な実験を含んだテストだったのだ。それは、不慮の事故によって死んだ人々を蘇生させ、社会にどのような影響がでるか、もし影響がない場合は、AI技術によって死んだ人間を複製し、アンドロイドとして蘇生しようという実験だったのだ。
あらゆる検証と計算の結果、人間の少子化を止めるより、そうした科学技術による補完のほうが、安上がりで即効性が高いという事になった。つまり、少子化によって起きる大きな問題である高齢化を補おうという魂胆だった。
これをしった参加者たちは激怒した。どうやら契約書には、それらしい契約であることがにおわされていたようだが、膨大な契約書の文言をすべて読んでいる人間などいなかった、そして、自分に知らせず死んだ家族をよみがえらせた事に対する怒りがわいたのだ。
ほとんどの人が実験を辞退。だが、件の女性だけは、その実験を継続することになった。というのも、この女性にはある秘密があったのだ。その秘密に下手に気づかれてもまずい。
というのも、この国では安楽死が禁止されているにもかかわらず、実は女性は、夫の死を手助けしたからだ。彼女の夫の死因は、夫が自分で車の点検を失敗して事故にあったことになっているが実は二人で計画的に仕組んだことだった。
というのも、女性は生来飽きやすく、夫もまた、奇妙なロマンを持っていた。見た目上の見栄ばかりを好み、そもそも二人が結婚した理由というのも、お互い“身を固めた”という事実をつくるためだけだった、愛がないのに結婚をし、子供をつくった。そして夫は満足した。女も男との暮らしに飽き飽きしはじめたころ、男はいった。
“俺はもうほとんどの見栄をはりおえ、手に入れた、欲しい者など何もなくなった、お前に遺産を残して死にたい”
そこで二人は、入念に準備し、事故を装った。
やがて、実験は終わり、それでも女は追加の実験を頼まれた。今度は夫の記憶を徐々に戻し、生きていた時点の男に似せていく。やがて、夫は思い出すだろう。
“なぜ死んだか”
を、女はそれを隠しながら、男との生活を続けなければならない。
やがて子供が大きくなった時、父の死の真相について隠しながら、二人はまた“退屈で偽物の愛情”を与え続けなければならないのだ。その苦痛は、二人が決めた死の決断より、よほど重たいものだろう。
独り身のあなたへ ボウガ @yumieimaru
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