第9話 『残念ですが』
「ククが生誕日を祝われたくない理由、ですか」
咲夜が、ふわりとした口調で聞き返す。
訓練所にて修行中の身であったが、嘉禄からの話を受け、その手を止めて座りこんでいた。
「ああ。あいつと仲良いお前なら、何か知ってるんじゃないかって思ってな」
「うーん……その理由としての心当たりはありませんが、一つ言えるとすれば、彼女が誰より優しいから、じゃないでしょうか?」
「や、優しいから……? おかえしくねえか? それなら、誰かからの祝いの言葉なんて、有難く貰えばいいじゃねえか」
「それは——いえ。私が語ることではありません」
「なんだよそれ……」
肩を落とし、項垂れる嘉禄。
「ならもう一つだけ。お前は、あいつが移民への衣類提供をやめた理由って、知ってるか?」
「衣類提要……それって、手作りでやっていたという、あの?」
「ああ、それだ。が、今の反応を見て分かった、お前も知らないんだな」
「ええ。申し訳ございませんが」
「そっかー……これでまたふりだしか。お前以外に知ってそうなやつ、心当たりないんだよなぁ」
「ふふっ。でも、そうまでして祝いたいという貴方の気持ちなら、あの子にだって届いているでしょう」
「それじゃ意味ないんだよ。下手すりゃ死んじまうような仕事してんだ。祝える時に祝っとかねぇと、きっと後悔する」
「——なるほど。それはそうですね」
「だろう? まぁしゃあねぇ、自分で何とかするさ。悪かったな、修練の邪魔して」
「いいえ。思い、届くと良いですね」
「届けるんだよ。こればっかりは、自分で決めちまったことだからな」
「ふふっ。素直な嘉禄のことです。きっと届きますね」
「おうよ! じゃあな咲夜、頑張れよー」
「ええ。嘉禄も、無理のないように」
咲夜の言葉に、嘉禄はひらと手を振り、訓練所を後にする。
そうして廊下へと出たところで、
「誰より優しい、か……よし!」
何を思い付いたのか——独り言ちて、頬を両手で思い切り叩くと、目的地へと向かい駆け出した。
千年巡礼 石田のどか @nodoka_novel
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