志那竹のアルバイト
@RGSnemo10110104
志那竹のアルバイト 前編
新聞を読むと食品偽装事件が報道されていた。
どうやら加工食品の原料に廃棄予定のものが使用されていたらしく、食品会社が経費削減の為に謀ったのだろうと推察されている。全く、小賢しいことを考える人間もいたものだ。
「いつもお世話様です。日頃の感謝の気持ちとして、今日は私が手料理を振る舞って差し上げます」
何時からそこにいたのか私のよく知るぱっつん髪の小娘が拙宅の厨房に立っていた。
ひょんなことから知り合って以降、何かつけては私に付きまとってくるぱっつん娘。ちくしょう、侵入を許してしまったか。
しかし、私はゲストで彼奴はホストだ。
ここは私の家なので本来と逆の立場なのだが、馳走を振る舞ってくれるというのであれば喜んで頂戴しよう。
「待っていてくださいね、すぐ出来上がりますから」
「半生は嫌いだ」
野菜などは別に半生、もっと言えば生でも平気だが、肉や魚といった加熱が不可欠なものを不十分なまま出されては困る。最悪の場合命にかかわる問題である。この記事のように、廃棄品が混じっていれば尚のことだ。
「そのニュース私も見ましたよ。どうも加工食品の原料に廃棄予定のものが使用されていたみたいで、食品会社が経費削減の為に謀ったのだろうと言われています。全く、小賢しいことを考える人間もいたものですね。」
私がさっきまで思っていたことをそっくりそのまま述べおった。
というか私はこの食品偽造について目で読んでいただけであり、口には一切出していない。というのに、何故このぱっつん娘は私の考えを全て把握できたのか。テレパスの能力者か。
「ですが、廃棄品とまではいかずとも、正規品として流通されることのなかった品を別の商品として売り出す、というのは合法の範疇に存在します。不揃い品だとか、開き直って訳アリ品だとか。なので、一概に小賢しいと括れたものではありませんが」
「古来より継承される『勿体無い』の精神であろう。俺も嫌いではないが、代表的な一例として何が挙がるだろうか? 天かすくらいしか思いつかないな」
「骨煎餅、潮汁、おから、志那竹、ブロッコリーの茎、野菜の皮の金平、根菜の根元の部分の栽培、後半からは最早節約術になっていますが」
成程、言われてみればそれなりにあるものだ。節約術は兎も角として、骨煎餅と潮汁は共に魚の骨を、おからは豆腐の絞り粕を再利用したものだ。
「あ? 一寸待て。志那竹は違う筈だったが」
「おや、ご存知ありませんでしたか? 志那竹も廃棄品を流用したものなのですよ」
小娘の言う通り、知らなかった。私の知らないことを彼奴が知っているというのは非常に癪であったが、この場合は己の無知を恥ずべきだろう。
「して、志那竹は何を再利用しているのだ?」
「あれは廃棄される未使用割り箸を使っているんですよ」
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「まぁ、高級料亭に於いてはそんな三流品なものではなく、きちんと志那竹用の割り箸から作られたものが並ぶそうですが」
そう補足されてもまるで分からない。第一、割り箸は食べ物ではない。言ってしまえば只の木の棒だ。そして、木の棒は食べられない。それが如何して食べ物たる志那竹に変容しようか。
「実は私、志那竹加工のアルバイトに携わっていた時期がありまして。そこでは全国各地から送られてくる未使用の割り箸を仕分ける、適当なサイズに切り分ける、醤油で煮る、瓶に詰める、といくつか工程があったのですが」
見抜いた。これは彼奴お得意の与太話だ。火を使っている最中に斯様な法螺を吹くとは。危なっかしいことこの上ない。
しかし、このぱっつん髪は私を侮っていたようだ。そんな虚言がこの私に通ずるとでも思っていたのか? まず一つ、貴様の話の穴を見つけた。
「全国各地から未使用の割り箸が送られてくるとは一体どういうことだ? 割り箸は食べ物ではないのだから、未使用品は客に渡すまで店側で保管できるだろう?」
「お店側にも色々と察すべき理由があるのですよ。割り箸は期間ごとに入荷されます。この入荷数は常に決まっています。今月はこれだけ捌けたからもっと入荷、今月はあまり捌けなかったから数を抑える、なんてことする必要はありません。割り箸屋さん以外にとって割り箸は商品ではありませんからね。なので、先月に残った分を来月に回して新しく入荷する量を減らす、ということは出来ません。一々数を調整するのは面倒臭いですし。という訳で未使用ながらも廃棄される割り箸が生まれてしまうのです」
商店の割り箸にそのような裏側が存在していたとは。この機会が無ければ知ることはなかっただろう。最も、この裏事情が真実であれば、の話だが。
「他には、この地域ではあまり見かけませんが、割り箸回収業者から買い取るというケースもありまして」
割り箸回収業者。これはまた大きく出たものだ。「この地域ではあまり見かけない」というローカル性を出すことで相手の指摘を躱しつつ信憑性を生み出すとは。話の胡乱さを逆手に取った見事な手腕だ。
ぱっつん娘はさらに話を続けた。
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