星の子

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1話

「私と付き合ってくれませんか?」


 僕は今、学校の屋上にて人生初の告白を受けている。


「え、僕ですか?」


 だが、僕はイマイチ状況が整理出来ていない。というのもこの少女、今朝転校してきたばかりなのだ。しかも。


「はい。藤原優斗さん。私はあなたに会うために日本に来ました」

「と言われましても......。あ、お誘いは嬉しいです」

「なら、付き合ってくれますね!」

「いや、は、はい。よろしくお願いします」


 この日、僕の運命の歯車は大きく揺らいだ。僕が今日付き合った完璧北欧美少女は、旧ヨーロッパや旧ロシア、旧中国などユーラシア大陸を統べるユーラシア連盟の皇室の姫、ヘレーネ・ルイス・クリスタルその人であったのだ。


容姿端麗。特にサファイアに煌めく瞳やブロンドの長髪がとても美しいと転校初日から男どもは大盛り上がりだったくらいだ。


 だが、一つ疑問があるだろう。何故、そんな高貴な人が僕に?

 その謎に心当たりがあるんだなこれが。


《数日前》


「あら、下界はこんなにも栄えたのね」

「ヘラ。あなた太ったんじゃない? そのスカートキツキツよ」

「そういうアテナこそ、筋肉付き過ぎてないかしら。男は多少ふくよかな体型の方が好むそうよ」

「ふふふ。アテナ、ヘラ。今回の『三美神だれが一番美しいか審判』は私の勝ちのようね」


 なんか、いつもみたいに登校してたら、目の前から海外のセレブかよ、みたいな三人が日本語で話しながら歩いてきた。僕はできるだけ顔を合わせないように通り過ぎようとしたんだ。


「あ、男発見。あの子でいいわよね?」

「そうね。下界に降りて一番最初に見つけた男の子にしようって決めてたもの」


 その外国人セレブたちは嬉々として、急に僕を囲み始めた。


「ノー。プリーズ、ノーセンキュー」


 僕は懸命に赤点ギリギリの英語力で応対したのだが「あ、日本語で平気よ」と言われ、素知らぬ振りをすることが出来なくなってしまった。


「私たち美しいでしょ?」

「あ、はい。美しいです......が、これって何かのドッキリとかですか?」

「ドッキリ? まさか」

「とりあえず、私はアフロディーテ、この人はアテナ、この人はヘラ。私たち3人の中で誰が一番美しい?」


 僕は3人の女性を見比べる。アテナと言われた女性は肉体派なのか強そう。ヘラと言われた女性は確かにふくよかな体型はしているが贅肉もあった。


「アフロディーテさんかな」

「え、私! 嬉しい!」


 この三択なら、金髪碧眼でスタイル抜群のアフロディーテさんを選ばざるを得ないだろ。と思っていると、ヘラとアテナの二人は不服そうな顔をしながら、去っていった。


「今回はアフロディーテの勝ちね」

「仕方ないわね。また天界で会いましょう」


 普通に歩いて去っていったヘラとアテナ。唯一残ったアフロディーテは僕にこう言った。


「私を選んでくれた代わりに、あなたには世界で一番美しい乙女を授けるわ」


《回想終了》


 下校中、僕はヘレーネと一緒に歩いていた。先日出会った3人の海外セレブのことを考えながら。となると、彼女たちは本物の神でアフロディーテが世界で一番美しい姫ヘレーネを連れてきたってことか?


 いやいや、ないない。神とか信じられない。とりあえず下校時、僕の後ろをついてきたヘレーネに聞く。


「えっと、家はどこなのかな」

「家ですか。実は、どっちの家に行こうかと迷っているんです」

「どっち、とは?」

「私の家に行くか、優斗さんの家に行くかです」

「え、なんで」

「日本では夫婦は同棲することになっていると聞いています。私の国ユーラシアでも夫婦はだいたい同棲していますよ」

「いや、夫婦って! まだ付き合ったばかりだけど」

「私は将来を真剣に考えて交際しています」


 そう語るヘレーネは姿勢をピンと伸ばし歩いている。そういう仕草のひとつ見ても本当に皇室の姫なんだろうなと思う。


「ちなみにヘレーネさんは家はどこなのかな」

「丸の内ですね」

「てことはタワマン?」

「最上階です」

「......」


 僕は言葉を失った。だが、好奇心もあった。


「来ますか?」

「え、いいの」

「はい。今日からはあなたの家ですよ」

「はぁ.........でも、僕、流石に家に帰らなくちゃ」


 僕がそう言うと、ヘレーネは強気でこう返した。


「お爺様、お祖母様方には了承を得ましたよ」


 そう言い、ヘレーネはおじいちゃんおばあちゃん四人の名前が連なった誓約書を見せてきた。


「買収されとるやん」


 都内の何の変哲もない僕の高校から電車で30分。僕とヘレーネは黙々と混雑した車内で過ごしていたが、ヘレーネは僕の服の袖を軽く掴んでいた。


 その仕草が妙に可愛くて、本当にこの娘は僕のことが好きなのか? それともただ女神アフロディーテの仕業なのか? と僕が悩んでいると電車は丸の内駅についた。


「着いてきてください」


 電車から降りると、ヘレーネは僕の手を取って悠然と歩き出す。もう乗りかかった船だ。どうとでもなれ! 僕はそんな心境でヘレーネの後をついて行く。


「マジか......」


 目の前には恐らく『日本一高いタワーマンション』と最近のニュースで報道されていたそれがあった。


「え、ここなの?」

「そうですよ。最上階」

「最上階......」


 僕は驚かされてばかりだが、彼女が漆黒のカードを取り出して入口のセキュリティを解除した頃にはもう、すっかりヘレーネが本当にユーラシア連盟の姫であることを信じていた。


「75階まであるのだけど、私たちの部屋は3階建てのメゾネットで77階まである」

「う、うん」


 もうこの頃には何を言われても動じなくなってきていた。


「さぁ、着いたわ。75階には2つだけしか家がないの。もう一方の部屋も買ってるから、挨拶には行かなくて大丈夫ですよ」


 僕は唖然としてしまう。


「わかったけど」

「わかってくれたのですね! さぁ、我が家へどうぞ」


 僕はヘレーネが開けた扉から中へと入る。そこにはビジネスで成功に成功をし続けた者だけが住めるような、テレビでしか見たことのない豪邸が広がっていた。どデカいテレビ、水槽には色鮮やかな魚たちが泳いでいる。高級そうな絨毯は一体いくらするのだろう。


「ここに住むってマジですか?」

「マジですよ、藤原優斗さん」


 ヘレーネはそう言って無邪気に笑った。



※作者より

第一話をお読みくださりありがとうございます。


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