第10話 リチャード

 「ちょっと、お願いがあるんだけど」


と、キリ姉がリチャードの腕に自分の腕を絡めながら耳元で囁いた。


 「な、なんだい」


 「妹が最近剣を振り回しているんだけど、基本を教えて貰えないかしら」


 「今なら、暇だからいいよ。また、ダンジョンに潜る時まででいいか?」


 「十分よ。いつからならいい?」


 「明日の朝、冒険者ギルドの前に連れてきて」


 「わかった、ありがとう」


 ヤングリーブズと別れた私達は、宿屋の部屋で寝ることにした。キリ姉から、明日の朝のことを聞いた私は、嬉しくて、なかなか寝付けなかった。


 夜が明けると、キリ姉が私に聞いた。


 「キリ、起きた?」


 「はい、起きてるよ」


 「それじゃ、いく?」


 「はい」


 2人で、冒険者ギルドの前で待て居るとリチャードは、すぐに現れた。リチャード達は、冒険者ギルドのすぐ近くの宿屋で泊っているようだ。


 「人目に付かない所でお願いしたいんだけど、いいかな?」


と、キリ姉がリチャードに聞くと、


 「構わないよ。それじゃ、商業ギルドの先に空き地があるので、そこでいいかな」


 「ここから、そんなに遠くないね。いいんじゃない? あなたも、いい?」


 「はい、お願いします」


 3人は、5分ほど歩いた先にある空き地に着いた。


 「まず、剣を振ってみて」


と、リチャードが、私に声を掛けた。


 私は、帽子とローブと杖を横に置いて準備をした。


 「えぃ、えぃ、えぃ」


と、声を出しながら、剣を上段から振り下ろした。


 「悪くないよ。まずは、足の位置だね。肩幅ぐらいに開いて、盾を前に構える。

 まず、相手の攻撃を盾で受け流し、それから、攻撃する。

 これの繰り返しかな。

 僕が攻撃するから、盾をうまく使ってね」


 「はい」


 それから、小一時間程度、リチャードに稽古をつけて貰った。


 「今日はこれぐらいかな。戦士は先頭で相手の攻撃を受けるので、防御を中心にした方がいいよ」


 「わかりました。今日は、ありがとうございました」


 キリ姉は、リチャードとお茶を飲むそうなので、私は一人で町を見て回ることにした。


 考えてみれば、キリ姉に助けて貰ってから、すぐに魔法の練習、ダンジョンでのレベルアップと、休みなしに訓練したので、ゆっくりと町を見ることはなかった。


 大手の商人が店を出している。高価なものばかり並べているようだ。


 「ちょっと、覗いてみるかな」


 私も、異世界生活も慣れてきたので、何か変わったものを見たくて、思わず、豪華な扉をくぐり、店の中に入っていった。


 「いらっしゃいませ。何をお探しですか」


 店員が声を掛けてきた。


 「特にはないのですが、何か珍しいものはありませんか。できれば、高価でないものがいいです」


 「わかりました。お若いですから、経済的に負担がないものを紹介しますね」


 私は、店員に案内されるまま、少し店の奥へ移動した。


 「こちらに並べているものは、古いもので、少し傷がありますが、希少なもので、見る価値はありますよ」


 「ちょっと、見てみますね。手に取ってもいいですか」


 「ええ、構いません。落とさないように、両手で扱ってください」


 「わかりました」


 その棚には色々な物がおいてあった。店員が言うように、確かに古いもののようだ。


 そっと、スキル鑑定を使って、その棚を眺めてみた。すると、左手に何か光るものが見えた。


 私は、近づき両手で、持ってみた。スキル鑑定を使って調べようとしたが、何も表示されない。


 どうも、鑑定を阻害する魔法が施されているようだ。私の鑑定レベルが低いので、破ることができない。


 「すみません。これは何ですか?」


 仕方がないので、店員に教えて貰うことにした。


 「これですか。私にもよく分からないのです。古い宮殿跡で見つかったもので、用途は不明ですが、アンティークとして利用できそうなのでおいています。かなり安く提供できますよ。どうしますか?」


 店員に勧められるまま、そのアンティークを金貨1枚で買って帰った。

 

 「何? これ」


 キリ姉が部屋に入ってくるなり、驚いて、いや、あっけにとられて、声を上げた。


 「大きな商店で買ったの。アンティークで、飾ったらって、店員に勧められたの」


 「こんなの物を部屋に飾っても、貴族じゃないのだから、意味ないよ」


 「でも、これ私の鑑定がきかなかったので、却って興味が出たの」


 「そうなの。防御魔法が懸けられているのかな。そうだ、キリは、光魔法が使えるじゃない。

 解呪魔法を掛けてみたらどうかしら」


 「やってみるね」


 キリ姉に言われたように、光魔法で、呪縛を解くように念じた。すると、少し光った後、また、元に戻ってしまった。スキル鑑定を使っても以前のままで、何も表示されない。


 「だめみたね」


と、私はキリ姉に言った。 


 「よく見て、箱に線が入っているよ。そこから開けれるのじゃない」


 「本当だ。気が付かなかったよ」


 箱の線が入った部分を少し擦ると、その部分の板がずれた。すると、また、別の部分に線が入った。順番に線が入った分の板をずらしていくと、箱に蓋が現れた。その蓋を上げると、その箱の中を見ることが出来た。


 箱に入っていたものを取り出して、テーブルの上に置いた。


 「これは、何かな?」


と、キリ姉に聞いたが、首を振るだけで、分からないようだ。


 「鑑定してみるね」


と言いながら、スキル鑑定を発動させた。すると、頭の中に浮かんできたのは、「魔道具 王級」だった。キリ姉にそう伝えると、


 「凄いものね、何に使えるの?」


 「もう一度、鑑定してみるね」


 すると、今度は、詳しく表示された。


 【魔道具

   等級:王級

   種類:アイテムボックス

   機能:100m立法の容積をもつ。収納されたものは時間が止まり、劣化しない。

      ただし、生き物は収納できない。他のアイテムボックスを収納できる。】


 表示された内容をキリ姉に伝えると、大声を上げた。宿屋中が何事かと、騒ぎ始めるほどだった。


 王級のアイテムボックスをキリ姉に預け、以前から持っているアイテムボックスに入れて貰った。


 「これで、ダンジョンに潜り続けることができるね」


 「そうね。行ったり来たりして、時間が無駄だったkら、助かるね」


 「ダンジョンの中の休憩所では、泊まることが出来るから、相当深い階層まで、チャレンジできるね」


 「それじゃ、食料など、しっかり準備して、潜ろうね」


 早速、2人で、潜る準備を始めた。王級のアイテムボックスに入れると時間が止まるので、食堂で、1週間分の朝食・昼食・夕食を作ってもらうことにした。


 念のため、装備も予備を持っていくことにした。当然、下着などの着替えも1週間分用意した。1日かけて、しっかりと準備した。

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