第51話 受け継ぐ精神
―レイナ視点―
私の初討伐から3日が過ぎた。
「乾杯ー!!!」
テーブルの上には豪勢な食事が並び、テーブルの周りには私の家族以外にもバティル君やソフィアさん達もいる。それぞれ思い思いにテーブルの料理に手を伸ばし、パーティーが始まった。
この3日間は私の療養があって祝えなかったが、ようやく傷が塞がったので――3日も過ぎたのだが――皆が集まってくれたのだった。
「いや〜、俺が見た中でレイナの魔法は一番すごいですよ!」
「そうなのか? 魔法はいまいち分からないからな〜。」
「最後なんてボスの身体を貫通してましたからね! 俺の頭がスッポリ入りそうな位の穴が開く威力って考えたら、ヤバいです!」
食事が始まるや否や、お父さんとアレックス君が話をしているのが耳に入る。そこまで褒められると流石に恥ずかしいのだが、アレックス君も悪気があって言っている訳じゃないし、祝ってくれている席なので黙っていよう。
「それにサポートも的確で、俺の後ろをカバーしてくれるのは凄くありがたいです!」
「そっか〜、そう言うのを聞いてると……本当にレイナがハンターになったんだな〜。」
それを聞いたアレックス君は「そうですよ!」と言ってから、私が如何に勇敢に戦ったかを皆に熱弁してみせた。私が腕を噛まれて振り回された時の事を大袈裟に語り、そして魔法を使って反撃した所をもっと大袈裟に語って、最終的に私が放った魔法はそのまま空に打ち上がり、流れ星になってしまっていた。………ここまで来ると何でもありだ。
「大袈裟すぎるよ。………ていうか流れ星って何!?」
黙っていようと思っていたが、流石に後半はブッ飛びすぎていたのでツッコまざるを得なかった。
「ははっ、武勇伝って言うのはこういうもんだ!」
それに対して周りの大人達は笑っていたが、私は大袈裟に持ち上げられて恥ずかしい。
「でも良かったわ、立ち直れたみたいで。」
恥ずかしがる私に対して、ソフィアさんは優しい眼差しでそう言った。その瞳は本当に安心したかのような瞳をしていて、それ程までに心配してくれたのだと改めて感じる。
「バティル君達に、救われました。」
短い言葉だった。
言葉にすれば色々と言えることはあっただろう。けれど、全部言うにはあまりにも多すぎるから短くなってしまった。
しかし、その言葉に多くの事があるのだと分かって貰えたようで、周りの大人達は「そうか」とそれぞれがそれぞれの気持ちで受け止めてくれる。
「これでもう、あなたはハンターよ。」
ソフィアさんのそのセリフが私の心に染みる。
ここ一ヶ月の間にあった私の中のモヤモヤした何かをスッと取り除かれていく感覚になる。悪霊に取り憑かれたように魔法へ向かわせていた何かが、ソフィアさんの言葉で「もう良いんだ」と悟った様だった。
―――でも、ここからだ。
霧は晴れた。
心の中にあった焦りは無くなり、清々しい気持ちで一杯だ。
しかし、まだスタート地点でしか無い。
「はい! これからもご指導、よろしくお願いします!」
新たな決意を胸にこれからも突き進む。
私はその場でソフィアさんに頭を下げてるが、ソフィアさんは「そんなのはいらない」と言うように私の体を起こす。
「もうっ! そんな固くなんなくて良いのよ!」
そう言ってソフィアさんは私をハグしてくれた。
今の私には無い、たわわに実った肉の果実が私の顔面に押し付けられる。
窒息するかと思った………。
――――――――――
祝杯も終わり、みんなは解散して帰宅した。
部屋を後片付けし終えた頃にはもう太陽は姿を消し、月と星が世界を照らしていた。
「あ、おじいちゃん。」
楽しい祝杯も終わり、段々とハンターとしての一歩を踏み出せたんだと実感し、高揚する心の熱を冷まそうと外に出てみると、おじいちゃんが近くに置いてある椅子に座ってお酒を飲んでいた。
「おぉ〜、レイナ。」
「お風呂、用意出来てるよ。」
「そうか。」
そう返事をすると、持っていたグラスを傾けてお酒を口に入れる。
「ちょっと話さないかい?」
おじいちゃんの顔はとても穏やかで、何か説教をされるとかいう雰囲気では無かったので素直に隣に座る。
「昔からハンターになるって言ってたけど、本当にハンターになったんだね。」
「うん。やっとなれたけど、まだスタート地点でしかないと思ってるよ。」
「そうだね。でも、当時の僕より若い年齢でモンスターを討伐しちゃったし、追い抜かれるのも時間の問題かな。」
おじいちゃんは23歳でハンターになり、25歳で初めてモンスターを討伐した。その間の2年間は全く使い物にならず、パーティーを組んだとしても荷物持ちしかやっていなかったらしい。
ただ、力持ちではあったので荷物持ちとしては重宝されていたらしく、ハンター以外の人からはポンコツ扱いだったが、ハンターからはそれなりに優しくされてはいたそうだ。………と、おじいちゃんは語っていたが、実際はどうかと言うと、やはりハンター達の間でもやはり馬鹿にはされていたらしい。
「私もハンターになって、実際に現場で戦った事が無い時はなんでおじいちゃんは逃げ回ってたんだって思ってたけど、実際にモンスターの前に立ってみて、その気持ちがようやく分かった。」
死ぬかも知れないという状況に立たされた時、その時の恐怖は簡単には拭える物じゃない。私自身、恐怖なんて無いと思っていたけど体は覚えていて、あの時の恐怖が再び身体を支配して動けなくなった。
私は動けなくなったけど、もし動けていたのであれば、恐らく走って逃げていたんだろうと思う。なので、おじいちゃんの事を笑えないし、おじいちゃんの気持ちが痛いほど良く分かる。
「………そうか〜。でも、ちゃんと討伐できたんだもんね。」
「うん。……でも、おじいちゃんとはちょっと違う。私は、おじいちゃんが言ってた「皆を守りたいから」っていう理由がまだ分かんない。でも、だからこそ知りたいと思う。」
「………。」
おじいちゃんは何も言わなかった。
ただ、じっくりと考えているかの様に目を瞑り、次の言葉を待っている様だった。
おじいちゃんは皆を守りたいからモンスターと対峙した。
そして、その姿と信念が美しいから憧れた。
村の皆がおじいちゃんを信頼し、頼っていて、おじいちゃんも皆を大切にしているのを見てきた。
それが美しかった。
………でも、私はそれを完全には理解できていない。
『皆を守る』。
その精神を完全には理解できていない。
「子供だから」と言えばそれまでなのだろう。
でも、「子供だから」という理由で思考停止なんてしたくない。
―――だから、
「おじいちゃんの出した結論を理解するために、私はこれからも戦い続けるよ……!」
他の人からしたら未熟だと思われるかも知れない。
でも、私の原動力はこれなんだ。この知りたいという知識欲が、私をハンター足らしめている。おじいちゃんがどうしてその結論に至ったか、私は戦いながら知っていきたい。
夜空を見上げて聞いていたおじいちゃんの顔がこちらを向き、驚いた顔からフッと穏やかな笑顔の顔に変わる。
「そうか――――――………」
そして再び夜空を見上げ、何を思っているのか、暫くの間、沈黙の時間が流れる。
その時間に不快な感覚は無く、私の言っている事をおじいちゃん自身がじっくりと自分の中に落とし込んでいる時間の様に感じていた。
「………――――――怖くて泣いてた子が出来るかなぁ〜〜〜!!!」
虫の音と風で揺れる草木の揺れる音しかしない時間をじっくり堪能していた中、おじいちゃんが口を開いたと思いきや、シン……と静まり返っていた場が一変し、おじいちゃんは私の身体をユラユラと揺らしておちょくって来る。
その顔は完全におちょくった顔をしていて、あまりにも急な展開に私はキョトンとした顔になるが、すぐ様おじいちゃんの言っている事を飲み込むと一気にムカッと来る。
「で、出来るもん……! と言うか、おじいちゃんだって逃げ回ってたんでしょ!」
「はっはっはっはっ!!!」
おじいちゃんは酔いが回って来たのか、それ以降もテンション高く私をイジって来ていた。さっきまでのムードがぶち壊しになってしまったが、なんだか嬉しそうにしているおじいちゃんを見て私も嬉しくなり、最終的に2人で笑顔になって話ていた。
これからもきっと辛い事があるだろう。
でも、もう震えて立ち止まる事は無い。
この日、私はハンターになった。
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