第41話 師弟対決1
―レイナ視点―
コンッコンッコンッ。
「どーぞー。」
扉からノック音がして、家主であるソフィアさんが返事をする。
「お邪魔しまーす。」
付け替えたばかりの扉から顔を出したのはバティル君達だった。予想通りと言えば予想通りで、バティル君はこの時間になると大体ソフィアさんの家に顔を出している。
ただ今回は1人ではなく、昨日からこの村に来たアレックス君も一緒だった。
昨日の初顔合わせでは、この家の事を「魂の研究所」だとか何とか言って私の事を魂を抜く人物だと怯えていたが、それが嘘とわかると否や態度が変わり、フレンドリーな少年になった。
「扉、張り替えるの速いですね。」
「魔法があればちょちょいのちょいよ!」
「……………。」
バティル君は新品特有の匂いを放つ木の扉を見て軽い挨拶をするが、壊した張本人としては申し訳なさで気まずい話題だ。
「へ〜、魔法で木を生成したんですか?」
「それもまあ出来なくはないけど、今回は違うわ。そこら辺の木から作ったのよ。」
簡単に言っているが、結構凄いことをソフィアさんはやっている。きちんとした扉を見るに、魔法操作が正確なのが分かる。均等な長さで揃えられていて、ピッタリとハマるようになっている。
「そうなんですね………ってあれ、今日は休憩時間早いですね。」
バティル君はテーブルに置かれた2つのティーカップを見て言う。
そう、いつもならバティル君が来る頃にはまだ魔法の勉強などをしているはずなのだ。
「そうなの! 何でもレイナが話したい事があるって
「ちょっ…………!」
確かに少し緊張しつつ言っていたので「
「おいバティル………! こういうのってあれだぞ………!」
「え、あ〜………、僕達、席外しましょうか…………?」
軽い感じで言うソフィアさんとは対象的に、バティル君達はタイミングが悪かったと感づき、少し気まずそうに退席しようとする。
「別に大丈夫でしょ。………レイナが何を言おうとしているのかは大体想像できるしね。」
そう言って私を見るソフィアさんの目は、いつもと違って真剣な目をしていた様な気がした。
――――――――――
「で? 話っていうのは何〜?」
昨日と同じ様に全員でテーブルを囲んで雑談………という雰囲気では無く、少し緊張の面持ちの私と、それに釣られてなのかバティル君達もソワソワしている。対してソフィアさんは落ち着いた様子で紅茶を飲んでいた。
「私、バティル君達とクエストに出たいです。」
回りくどい事は抜きで真っ直ぐに言う。
「………………『出ます』じゃないのね。」
「はい、先生の許可が欲しいです。」
魔法を教えて貰いはじめた時、敬意を払うためにソフィアさんの事を「先生」と呼んだ事がある。そんな私に対して、その時のソフィアさんは「そんな堅苦しく無くて良い」と突っぱねた事があり、それ以降ソフィアさんの事を先生と呼んではいなかった。
しかし、たった2ヶ月の短い期間だが、心の中では尊敬の念が芽生え「先生」と呼んでいた。ソフィアさんは「そんな呼び名で呼ばなくて良い」と言っていたが、心の中に閉まっていた物が自然と出てきてしまっていた。
「許可制なら私がなんて言うか分かっているでしょ。」
「…………………………。」
分かっている。
けれど、そんな不義理な事はしたくない。
短い期間しか経っていないが、その時間は濃密で、私が朝早くから学びに来ても嫌な顔せず教えてくれ、自分の研究の時間を無くしてまで付き合ってくれている。
そして、魔法を使える様になったからこそ分かるソフィアさんの凄さ。
精度、集中力、魔法の知識など、どれを取ってもレベルが高い事をこの目で見てきた。たった2人で大型のモンスターを狩って来たのが嘘じゃないと言える技術と知識を持っている事を私は知っている。
魔法を学んでいく度、その圧倒的な力量に尊敬の念が込み上がる。
そんな尊敬している先生に対して「今まで有難うございました。はい、さようなら。」なんて事は絶対にしたくない。これからも一緒に居たいし、学ばせて欲しい。だから私はソフィアさんにお願いしないといけない。
「分かってます。………でも、お願いします。先生が言っていた『実戦を経験している人としていない人の差は思っている以上にある』という言葉を覚えてます。手遅れになる前に、手が届かなくなる前に、早く実戦に参加したいんです。」
「………………。」
「………………。」
「………………。」
みんなの前で私の素直な心情を吐露した。
反応は様々で、バティル君は驚いた表情をしていた。「焦らなくて良い」と言っていた彼なので、なにかショックを与えてしまったかも知れない。
アレックス君は「うんうん」と頷いていた。どこに共感したかはアレックス君にしか分からないが、気持ちは分かってくれた様子だった。
ソフィアさんの顔は変わらなかった。だた静かに目を閉じ、私が言った事を噛み砕いている様子だった。
「……………。」
しばらくの沈黙の後、ソフィアさんが口を開く。
「やっぱり駄目よ。」
「……理由を聞いてもいいですか。」
「正直に言うと、あなたはもう狩りに行ける程の物は持ってる。初心者のハンターならクエストをやっていてもおかしくないわ。」
「―――っ! ならっ!」
「でも、そのレベルでクエストに出ていった子たちが死ぬ確率は高いのよ。生成や変形の速さと正確性、これが頭に入っていても初心者は実践になるとパニックになる。味方の位置や行動、敵の位置や行動もそう、それにそれを考えつつも自身の身も守らなくちゃいけない。そんな状態だと魔法操作に集中できないし、出来たとしても、その魔法を味方に当てちゃうなんて事は耳にタコが出来る位聞いた事がある。そしてパーティーの陣形が崩壊、致命的な攻撃を食らっちゃってそのパーティーは帰って来なくなる。」
「……………。」
歴戦のハンターである人の、実体験の含むリアルなハンターの最後を聞き、何も言えなくなる。
「で、でも、エルz―――お母さんがいますし…………。」
それに反論したのはバティル君だった。
「バティル。それは絶対に言っちゃいけない事よ。………エルザの師匠の受け売りだけど、『強い奴に任せるやり方は、悲惨な最後を迎える。』と言っていたわ。そして、その意見は私も賛成よ。エルザに任せた戦い方は、いつか必ず限界が来る。エルザがいなくても戦える様にしておかなくちゃいけないわ。」
「………………。」
「………………。」
重い言葉だった。その師匠がどの様な体験をしたのかをこの目で見ていないので分からないが、「悲惨な最後」という単語が重くのしかかる。
「戦いながら、避けながら、魔法を生成したり、周囲の物を使って戦える様になるまで私は許可しないわ。ハンターは遊びじゃない、命が掛かってる。エルザは実戦を優先させたみたいだけど、私の育成方針は事前準備をしっかりやらせる。初めから私が見守らなくても良いくらいにしっかり育てきってから送り出すわ。」
その言葉は、ソフィアさんが私に魔法を教えると決めた時に言われた言葉だった。
『実戦を経験している人としていない人の差は思っている以上にある。』ソフィアさんが言ったこの言葉には続きがある。『だが、実戦をする為には準備が必要だ。準備をしている奴としていない奴の差は生死に関わる。』という物だ。
これはソフィアさんの経験から来た教訓だそうだ。
魔法の天才として称賛されていたソフィアさんは、祭り上げられた事による実績のない自信でハンターになり、何の準備もしない状態で狩りに出かけた所、戦闘では縦横無尽に動く的に加え、その的が自身を殺すために剥き出しの殺意で襲って来る事でパニックになり、死に掛けたそうだ。
そういった経験から「ハンターになるんだったら基礎をしっかりと体に染み込ませてから狩りに向かうべし。」という考えになったそうだ。
「先生。基礎はもう出来てます。」
「――――っ!」
私はソフィアさんの目を正面から見て言う。ソフィアさんにとって「基礎」という単語はとても重要な事は理解している。それを正面から出来ているという事がどういう事なのかも。
「…………そう、じゃあ―――――」
ソフィアさんもそんな私の覚悟を受け取ったのだろう。スッと椅子から立ち上がり、私に指を指して言葉を続ける。
「――――――表に出やがれ、この野郎ぉ!!!!!」
何か思ってたのと違う言葉が出て来た…………。
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