第36話 塾の体験 その1
春休みになり、塾の体験授業に行くことになった。いわゆる無料体験というやつである。結局すずかも一緒に体験することになった。すずかも理系、かつ現段階ふたりとも大きく成績に問題ないことから、講師1に対し生徒2のコースを体験することになった。駅前ですずかと待ち合わせした。
午後一時の駅前は日差しが暖かく、桜の開花がすぐに感じられる。長袖のTシャツにワイドなGパン、寒くなったときのためにパーカーを羽織ってきたのだが、ちょっと暑い。パーカーを脱ぐかどうか迷っていたら、すずかが駅の階段を降りてきた。
「ももか、待った?」
「ううん、ぜんぜん」
「じゃ、行こうか?」
すずかは、グレーのチェックのショートパンツに白のブラウス、パンツと同じチェックの上着でやっぱり春らしい衣装だ。
『女の子の服、楽しいでしょ』
そうだな、でも買い物が長いのは困る。
『がまんしてよ』
塾は駅からすぐ近くである。雑居ビルの2階にあり、階段を上る。
階段をのぼりきったらすぐにガラスのドアがあり、中がよく見える。受付にネクタイをしめた男性がいる。ドアを開け、声をかける。
「体験授業に来た、川口ももかと鈴木すずかでーす」
「お待ちしてました、教室長の大山です。どうぞこちらへ」
さっそく学習ブースに連れて行かれる。ブースでは大学生くらいの女性の講師が白衣を着て待っていた。大山先生に、紹介してもらう。
「こちら、今日授業担当の石田先生。石田先生、こちらが川口ももかさん、こちらは鈴木すずかさん」
「よろしくね」
「「よろしくお願いしまーす」」
石田先生は、キリッとしたイメージではなく、ふわっと優しい感じの女性だ。好印象である。
『これだからコウイチは』
よさそうな先生だ、とういうことだけだよ。
「二人は、今日は数列の勉強をしたい、ってことだよね」
「はい、お願いします」
席にももかとすずかが並んで座る。石田先生は反対側に腰掛け、テキストのプリントを渡してきた。
「じゃ、まずは等差数列ね。等差数列とは……」
石田先生はざっと説明し、公式を示す。
「じゃ、この問題やってみましょう」
ここでももかが口を挟んだ。
「先生、一般項の公式の導出はしないんですか?」
「公式は暗記して、使えればそれでいいんじゃない?」
「私、こう見えても医学部志望なんです。医学部は問題が難しいと思います。基礎からきちんと理解できていないと解けないんじゃないでしょうか」
「川口さんたちの学校だと、これくらいができれば大丈夫なんじゃない?」
「学校の授業レベルだと不足だから、こうして塾に来ているんですが。授業前の面談でお伝えしてると思うんですが」
「ごめんなさい、ちょっと待っててね」
石田先生は席を立って、大山先生のところに行った。
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