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 全体は三畳ほどの広さで奥の学習机は上は片付いており、棚には教科書やら教材が隙間なくしっかり詰められ、漫画やその他の本は脇の三段しかない本棚に収まり、その脇に金属製のベッド。ベッド前には何冊か本が平積みにされており、ベッド自体は掛け布団がきちんと三つに折りたたまれ、シーツはベッドメイキングのおかげか、皺がなく純白のままだった。ベッドの反対側には化粧道具と私服なんかが収められたプラスチック製の五段のチェストが二つ。上には女性にしては珍しい帆船の模型(プラモデルだろうか)があって、横にはロッカーが、その前に薄手のコートがハンガーをロッカーの上の縁に引っ掛けて下がっている。壁にはポスターが貼ってあるわけでもなしに、年頃の女子高生にしては質素で、それこそ化粧気のない部屋だった。この部屋に入ったことは冬子の生前には数えるほどしかない。それも足を踏み入れるというわけでなく部屋の扉を開けた先で冬子に声を掛けるくらいで、外から声を掛けても返事のなかった場合に限られた。大体は扉を開けなくても声を掛ければ返事をするし、それがなくとも冬子は行動が早かったので本当に扉を開けたことは数えるほどしかない。が、チラと見ても物が散らかってたということはなかったと記憶しているため思っているより大きく印象が違うということはなかった。が、それにしても内装がすっきりしている感がなくもない。ぬいぐるみの一つや二つあってもいいのに。秋人は思いつつ、また心の中で冬子に手を合わせ謝りつつ、まずは机から着手してみることにした。お目当てはイモート・ワークにつながるようなシロモノ。自殺につながるようなものだ。前者は警察に押収されたりはしていないはずだ。彼らが探したのは後者、それも遺書なのだから。

 教科書やノートの隙間に何か挟まってたりはしないか適当に取ってパラパラ捲る。英語の教科書だったが、きちんと蛍光ペンでマーカーが引いてあったり、重要な部分を丸で囲んでいたりと使い込んだ様子が伺える。教科書を閉じて裏表紙をみると何度か折り込まれた溝がちゃんとついている。数学のノートはキチンと板書され、数式や関数の解説(砕けた口調で書いてあることから自分で付け足したのだろう)が載っていて、字も丸かったり角ばったりはせず几帳面に書かれている。冬子は成績は悪くなかったと記憶しているが、このノート、また他のノートを目にしても、ひょっとするとかなり良かったのかもしれないという印象を抱いた。というのも、このノートの取り方は自分のものとそっくりだったから。

 引き出しの中にはノリやハサミ、別の引き出しには色鉛筆やクレヨン(幼稚園の時に使ったものだろうか)、粘土が可愛いうさぎのキャラクターが描かれた箱に入っていたりもした。面白いくらい健全な机だ。秋人は学習鞄を机の上にあげて中を覗いてみたが、やはり何かに繋がりそうなものはない。三段の本棚には少年誌の単行本に文庫版の小説、一番下にはファッション雑誌など大判のものが横に積まれている。漫画は揃えず数冊、小説のジャンルはといえば、恋愛もののほかに古典、現代ミステリーとライトノベルも少数あった。冬子は漫画も本も雑誌も満遍なく読んでいたらしい。しかし、やっぱり何もない。

 秋人はロッカーに目を向けた。上の縁に掛かっているコートをベッドに置き、スライド扉を開ける。左にここにもチェストがあって中にはやはり服が、下着なんかが詰まっている。あとはハンガーラックに夏物冬物と上着がかけられ、制服が一番隅を開けるようにして、そこに掛かっている。例の葬儀以外でちゃんと目にしたのも初かもしれない。チェックのスカートに紺のブラウス、リボンは赤い。この格好の冬子なんて終ぞみなかった。秋人は制服を戻すと、それらの下に目を向ける。服と床の隙間。ここにはチェストもなく、もし何かを隠すならここが最も適している。暗くて奥まで見えないので手探りをすると。

「何かある」

 角の丸い両手で持つような長方形の物体がある。上部に取っ手があるので引っ張ってみると、旅行用のキャリーケースが出てきた。明るい橙色を掴んだ取っ手に紐で名札がついている。「3年3組 田崎 冬子」裏には中学校名が彫られて、修学旅行で使ったものだろうと予想がついた。他には奥を弄っても何もない。試しにキャリーケースを持ち上げてみても軽く、恐らくその中身は空だろう。戻そうと思った矢先、部屋の扉が勢いよく開いて、誰かと確認すると手におたまを持った母が、まるで家に侵入した泥棒でも探すように視線を這わせて入ってきた。ロッカーから顔を出した秋人と目が合うと母が目を丸くしていう。

「秋人。あなた冬子の部屋で何してるの?」

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