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「私のスマートフォンで撮ったものです。イモート・ワークは二ページ目に出てきます」

 秋人が湿った手つきでぺージを捲る。すると、確かにその言葉があった。そしてまた、妹に似た瞳をさらに鋭くした。三枚目も捲ってみたが、その表情には変化がなく、むしろ険しさが増して紙を持つ指に力が籠って赤くなる。

 写真を離して大きく息を吹き、折り目に沿ってゆっくり畳み直すと

「……随分と酷い友達だったんだね」

 と出来るだけ低く押し殺すような言葉と共に海堂に突き返していた。三枚の写真にはいずれも例の三人が冬子について話し合っている模様が繰り広げられているのだが、その文章は基本的に下劣そのもの、かつ短絡的で、見ていてうんざりするものだった。一枚目は冬子が自殺したことに三人が動揺する内容だった。日付は三月四日。冬子が自殺したことを知った直後のものだろう。案の定、当初は自殺したのは自分たちの所為なんじゃないかと不安がる文面で、さらにはこのスマホの持ち主が自分が冬子の金を盗んだ所為で自殺したのではないかという予想(こちらからは罪の告白)があり、死の直前の騒動から至極真っ当な反応に思える。しかし、そこからだ。一人の発言で不安はあっさりと誹謗中傷に変わってる。「でもさー冬子も悪いよね」と先の喧嘩に端を発して、妹を悪し様に語る様子が刻々と綴られて一枚目が終わり、二枚目にはその続きと、それからイモート・ワークという言葉が載っていた。二枚目のイモート・ワークが出るその一部分だけを抜粋する。


『冬子が死んだのってさ。あれじゃね?』

『なに?』

『冬子。そういえばイモートワークやってたやん』

『GG(恐らく年配男性のこと)の相手するやつっしょ』

『そういうのするとき私たちも勧められたんじゃん。薬』

『ああ! 買っちゃったのかな』

『あれってヤバいやつなんしょ?』

『そう、ヤクだって』

『マ?』

『で、ヤク漬けで借金まみれになったんじゃね?』

『ま? 冬子バカじゃん』

                                     」


 三枚目は少し日が飛んで上半分が冬子の葬式に関する話し合いで、下半分が葬式を終えた感想がそれぞれ述べられており、どうやらその内容によると前者は、三人があの葬式で見せた黒い涙や大仰な嗚咽も含めて全て嘘だったらしいことが書いてあった。冒頭にはこうある。「冬子の葬式で嘘泣きをしよう」。後者はなんと、スマホの所有者はそこで葬式に参列していた男性一人からその後、(恐らくパパ活)金銭を得たことを自慢げに報告しており、香典で金を払いさえすれ、金を受け取るなんてことまでしていたのだ。

 秋人の謝がカッと熱くなる。

「二度と見たくない」

 海堂が受け取ると秋人は両手に顔を埋めていった。その表情は見えなくなったが、耳が真っ赤に染まって両手は僅かに震えている。この震えは何も三人の言動に怒りが沸いただけではない。自分と同じような他人がこんなことを妹に対して平気でいえてしまう事実に驚愕をし、また彼女らは冬子、妹がまるで体を売っていた挙句クスリに手を出し、破滅したかのように述べており、テレビの犯罪特集や本なんかでしか見たことがないような哀れな死に様を身内がしたかもしれない可能性が出てきてしまったことに酷く動揺していた。

「すみません」海堂は紙を仕舞いがてらいって「ですが、これでおわかりいただけたでしょう? 冬子さんの自殺はただの自殺ではないと」

「……そうですね」

 秋人が再び顔を上げていう。その顔には涙が滲んでいた。抑えていたはずの吐き気が今再び揺り戻りこみ上げる嗚咽をどうにか沈めていた。

「この言葉、イモート・ワークについてわかったことは、あとはあなたがおっしゃったようなことしか私もわかってはいません。ですが、この言葉が冬子さんに関わっていることは事実です。私はその謎を解き明かしたい。私は私を助けてくれた冬子さんに恩返しがしたいんです」

 海堂は再び身を乗り出すと震える秋人の両手をとっていった。声の調子こそ変わらなかったが、その手は暖かくて、ここで初めて海堂の感情が覗けたような気がした。

「私に協力してはくれませんか?」

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