第18話 私は魔法使いのつもりです

いきなりだが、サクラから北に3000キロ、オーロラ国セツザンの街に入る。継母と「和解?」して1か月、とにかく移動した。


街道だけは石造りで上等。だからサクラの街で、オフランスから輸入した「自転車」を購入。魔鉄製で予備のタイヤ10本を入れて180万ゴールドもした。サラとアエラに会いに行ったあと、自転車をこいで、ひたすら北を目指した。


自転車は2000キロ地点でタイヤが全部イカれた。残りは得意のマラソンだった。道中でダンジョン内座標を沢山作った。100個以上も作ったが、その寄り道のせいで実際には4000キロくらい移動している。


国境は普通に越えた。走ってばかりいるが、私は転移のようなものを使える魔法使いのはずである。


地元の冒険者「ユキヒョウ」が話かけてくれて言葉は通じた。南北の訛りの違いはあるが、会話に問題はない。


北の人々はみんな、色白でスッキリ系の美形。日焼けした感じで唇厚めの私は少数派だ。


セツザン冒険者ギルドに行くのは、お金作りが目的。


20メートル四方の収納指輪を2個も手に入れた。買えば2500万ゴールドの代物たが、容量が足りない。


ダンジョン用の食料その他の必需品が嵩む。そこに壁ギロチンで倒した3メートルミノタウロス、プラスドラゴンの頭が入っている。スパイスも山のようにある。


贅沢な悩みだが、本格的に冒険者活動をすると大物で指輪が満タンになりそうだ。

収納指輪は50メートル四方で2億ゴールド。100メートル四方なら14億ゴールドになる。


また、ドラゴンの時のように「ランダム壁移動」の直後が危険すぎる。不測の事態に備え、武器と防具が必要。

クリスタルドラゴンの頭を生かせるはずだが、うかつに出せない。


セツザン冒険者ギルド。受付カウンター前では、人が多い時間帯だから30分並んだ。


「いらっしゃいませ。セツザン冒険者ギルドにようこそ。ご用は私、マリーが承ります」

「フランと申します。この街で活動しようと思ってるEランク冒険者です」

「はい。ギルドカードをお出しください」

「お手数をおかけします。す、すみませんが、お願いいたします」


しくじった。ダンジョンを3時間も離れている。見事に弱虫フランになっている。


「冒険者は危険が伴う仕事が知られがちですが、薬草採取や街の雑用など、比較的安全な仕事もあります。頑張って下さい」


気弱そうで、討伐任務は無理だと思われている。受付嬢さんの優しさが胸に染みる。


「はい。公開する情報は売買履歴だけ。レベル、討伐履歴は即測定して登録だけお願いします」


「承知しました。頑張れば討伐履歴に角ウサギがつけられるかも知れません」

「今から買い取りは可能でしょうか。角ウサギもあるし、持ってきた獲物があるんです」


「すでに角ウサギは経験済みでしたか。では、そちらから左手の買い取りカウンターで、滑車付きの台に乗せてください。レベル測定等の手続きは、今やりますか?」

「と、ところでセツザンの冒険者でモルトという・・」



いきなり、怒鳴られた。

「早くしろや、後ろがつかえてるんだ!」


後ろを見ると、5組も並んでいた。3列ある受け付けカウンターがみんな混んでいる。


街に入る前から一緒だった「ユキヒョウ」は別の列にある。


怒鳴ったのは一番後ろの人。185センチの筋骨隆々。1・5メートルのボアを抱えている。


「す、すみません。受付嬢さん、買い取りカウンターに行きます。レベルなど、事務手続きは後日。では、これで」


列の間を縫って、一番後ろから抜けようとすると、私の足が引っかけられた。怒鳴った185センチだ。


「あ」。体が浮いた。避けきれず、奴が持っていたボアに顔面が当たった。


ダンジョンの匂いだ。


ずざっ。

私はボアを抱き込んで倒れた。


「何すんだ、俺の獲物を奪う気か!」

「ガルン、新人いじめはやめねえか」


185センチガルンが、仕掛けたくせに私に言い掛かりをつけてくる。

諌めてくれる人もいる。


けど、どうでもいい。



「殺してやる」



「あん?何か言ったか」


目の前にガルンの足がある。力を込めて足首をつかんだ。


めきっ。私は立った。ガルンの足首をつかんだまんまで。


「うわっ」。めきっ。「あぐう」


ボアに残ったダンジョンの空気を吸って、頭がクリアになった。


「ダンジョンに連れていって、床に沈めて・・、しずめ・・はっ」


ギルド内にいる50人が驚いた顔で見ている。視線が痛い。


肺の中の「ダンジョンエアー」が切れた。


「ギルマス、またガルンさんが新顔をいじめしています」



誰かが偉い人を呼んでくれた。

ギルマスは、私、倒れたガルン、ガルンの仲間を交互に見ている。


「どういう状況か説明しろ」


「俺ら「竜殺し」のガルンが、その女にボアを横取りされそうになったんだ」

「え?なにそれ」

「ガルンに暴力までふるわれたぞ」

「私は、取ってない」


「フランさんの言う通りだ!仕掛けたのはガルンだろうが」


「ユキヒョウ」が援護してくれた。

それに合わせて、みんなが賛同してくれる。


「そ、そうなんです。私は買い取りを頼みたかっただけで・・」

「買い取り?」


「そ、そ、そ、そうなんです。これです」


思わず、床に獲物を出した。


角ウサギ1匹、オーク2匹、そして壁ギロチンで顔面を斬った3メートルミノタウロスだ。


「ミノタウロス亜種か、この辺の奴じゃねえな。差し支えなければ、どういう経緯で持ってきたか教えてくれ」

「世界に3つある魔境地帯を移り住む、兄の「カベギロチン」に頼まれて売りに来ました」


この街を素材の売買拠点にするが、間違いなく「壁転移」「壁ギロチン」多用で時間軸のずれ、獲物と私のレベル差に矛盾が生じる。だから魔境に住む架空の協力者を増やすしかない。

「カベゴレム兄さん」「双子の探索者フラム」あたりか。


ギルマスはガルンの仲間の方を向いた。


「だそうだ。この娘さんは、ガルンのボアを盗む必要はあるのかな」


「・・」


「今回までは見逃してやるから、ガルンを抱えて帰れ。ガルンの治療費は 自分で賄わせろ」


10分してざわつきは収まった。



「新顔さん、フランだったかな。用事はあるのか」

「今日は帰らないと・・」



査定を終え、とにかくダンジョンに帰りたくて一番近いダンジョンに飛び込んだ。そして不人気ダンジョンで寝込んだ。


獲物の査定はミノタウロスが貴重な亜種だったらしく900万ゴールド、ミノタウロスの斧が250万ゴールド。ボアなどと合わせて1153万ゴールドになった。後日、お金を受け取った。



やっと素材を換金する目処がついたけど、ぐったりする1日だった。



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