第3話 第二の門⑪



「ところで、ショウ。カードの新しい機能についてなんだが……」


 織田さんはそう言いながらステータスカードを呼び出すと、僕へと見せてきた。

 そこには――――。


「これについて何か知ってることは無いか?」


 オークション機能、と書かれていた。


「これは……」


 どうして、ポストアポカリプス世界に行ってない織田さんにも、オークション機能が?

 もしかして、オークション機能だけは、誰か一人でも二つ目の門から帰ってくるだけで使えるようになるのか?

 ……それ、なんだかちょっと納得いかないな、と内心思いつつ僕は頷いた。


「ええ、二つ目の門から帰ってきた時に解放された機能です。でも、なんで織田さんも」

「やっぱ、そうか。これ、ちょっと前に突然ステータスカードが勝手に出てきて、生徒全員開放されたんだよ」

「全員……」


 やっぱり、そうなのか。……むぅ。

 と、そこで織田さんが眉を顰めて言う。


「ただ、これ……どうも意味ないみたいなんだよな」

「ん? どういうことですか?」


 首を傾げる僕の前で、織田さんがカードを操作してオークション機能をタッチして見せる。

 すると、【現在、出品されている商品はありません】と表示された。


「な? こう表示されるだけなんだよ。かといって、出品する方法もわからねぇ。……で、だ。もしかして、機能を解放したショウなら、何か知ってるんじゃねえぇかと思ってよ」

「なるほど……」


 そういうことかと僕は頷いた。

 といっても、僕もまだオークション機能を使ったこともないからよくわからないのだが……。

 そう思いつつ、僕はステータスカードを呼び出し、オークション機能をタッチしてみた。

 すると……。


「お?」


 織田さんとは違い、『出品』と『入札』という選択肢が出てきた。

 それを見た婦警さんも、ステータスカードを呼び出し、オークション機能をタッチする。やはり、『出品』と『入札』という機能が出てきた。

 それを見た織田さんが、納得したように頷く。


「ほぉ、どうやら出品機能は、ちゃんと門から帰って来たヤツだけみたいだな。俺らは、入札機能だけってことか」

「そうみたいですね」


 良かった、ちゃんと苦労した甲斐はあったようだ、と内心で少し喜ぶ。

 我ながら心が狭いと思うが、リスクを負って新しい世界から帰って来た僕らと、安全な学校で待ってた人とで同じ機能は、ちょっと納得いかないからな。


「……そうだ、ショウ。なんか出品してみてくれよ」

「ん、出品ですか」


 別に構わないけれど、何を出品しようか。……そうだ、せっかくだし。


「アマルテイアさん、強化服を一式出してくれる?」

「わかりました」

「……ほお」


 アマルテイアさんが強化服を取り出すと、織田さんが面白そうに笑い、周囲の生徒たちが俄かに騒めいた。

 それを無視しつつ、出品機能をタッチすると、僕の前に黒い穴が突如現れた。

 どこまでも黒い、まるでブラックホールのような穴。

 それに驚きつつ、「これに入れろということだろうか?」と強化服をその中に放り込む。

 すると、色々と設定する画面が出てきた。

 えーと、まず期間はとりあえず24時間で、開始価格は1カルマから……って、これカルマで落札するシステムなのか。うーん……ま、よくわからないから1からにしておいて、最低落札価格は未設定、即決価格も未設定と。

 最後に、『これで良いですか?』という確認が出てきたため、『はい』をタッチすると、僕の出品した強化服が出品一覧に並んだ。

 試しにそれをタッチしてみれば、強化服の画像と一緒に『近未来ポストアポカリプス世界の一般的な強化服。着用するだけで、戦闘力50相当まで身体能力を補助する。女性用。状態:普通』という説明文が表示された。その下には、強化服の詳しいスペックまで記載されている。


「へぇ、商品説明は自動的に書かれるのか……詐欺とかは出来ない仕組みになってることか」


 一連の流れを見ていた織田さんが、興味深そうに言った。

 なるほど、と頷く。状態とかスペックも表示されるなら、不良品を売りつけられる心配もないわけか。


「お? さっそく入札したヤツがいるみたいだな」


 見れば、強化服にいきなり1500カルマもの値がついていた。

 一体だれが、それも1500カルマも……まさか!

 と婦警さんを見れば、彼女が微笑みながらカードをひらひらと振っていた。


「さすがにタダってのはね。ちゃんと落札できたら、落札した分は返すわ」

「そんな……婦警さんには既に協力してもらってるんですから、それは受け取ってください。入札もキャンセルできるみたいですし」

「私の気が引けるのよ。……二つ目の世界じゃ、まるで役に立たなかったしね」


 でも……と僕がさらに言いつのろうとした時。


「良いから、くれるつってんだから貰っとけよ」


 織田さんが言った。そして、少し声を落とし。


「……少しでも、カルマが必要なんだろ?」

「それは……」


 僕は少し迷って、頷いた。

 姉ちゃんを人間だった頃に近づけるには、スキルだけでなく種族のランクアップをする必要がある。ランクアップにはスキルよりも大量なカルマが必要となる以上、カルマは少しでもあった方が良い。

 ……この借りは、いずれ別の形で返すとしよう。


「すいません、ありがとうございます」

「いいのよ」


 頭を下げる僕に、婦警さんは笑って手を振るのだった。



【Tips】オークション機能

 二つ目の世界から帰還することで解放される第二の機能。

 ネットオークションのように、カルマを通貨代わりに物品のやり取りができる。

 出品者がいても落札者がいなければ意味がないため、一人でも機能が解放された時点で、落札機能のみ全マスターに解放される。

 カードも出品可能だが、機能の使用には最低一枚カードを所持していなければならないため、一枚目のカードしか持っていない場合はカードを出品できない。

 落札した物は、どの世界にいても届く。

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