第44話 魔法使いへの承認
シルフィードがやってきたのは彼が天王璃珠の机にスマートホンを入れ、二つの階段周りに人払いの
家庭科室の窓ガラスを等間隔にたたく風に神秘を感じ取った魔法使いはひどく静かで殺風景な家庭科室に彼女を導いた。
「早かったな。」と告げる魔法使いに精霊は「当然でしょ。」と返した、風の精霊が遅きを失するなどありえないことだ。
「で?」
「ん、聞いた聞いた。僕らみたいなやつだねこいつ。」
そう言いながら家庭科室の机という机の間に広がって次の瞬間には戻って見せるというよくわからない遊びに興じたシルフィードはけたけたと嗤った。
「――って言うと。」
「いろんなところにフラフラふらふら。ひとところにとどまれないタイプみたい。」
それを聞いた伊織の目は明らかに鋭く狭まり、何かを睨んでいるのように虚空を見つめている。
「結局今は君が昨日助けた三人のところでなんかやってるらしいよ。」
「……なんかってのは?」
「箱覗いてなんか話してるってさ。」
「――そうか。」
そう言って頭を下げて目を閉じた魔法使いをシルフィードは不満そうに見ていた。
気が落ちているだろう魔法使いに「パンが出てこないんだけど?」と聞かない程度の分別が――あるいは危機感が彼女にもあった。
昼休みを終えて席に戻った伊織は同じように席に戻っていた天王璃珠の姿を視界に収めて一瞬悩んだ。
今回の件は彼の中でほとんどすっきりと理解できていた。だからこそ思う。
『彼女には少々酷かもしれんな。』
自分がこの件を収めれば彼女は「友人を一人失う」。彼の予想が外れているのなら話も違うが……それはないだろう。
これ以上彼女に助力を頼むつもりはなかった。彼女に苦難を与える分際でどうしてそんな恥知らずな真似ができる?
ゆっくり目を閉じる、ゆっくり口から息を吸って鼻から吐いた。
恐怖や心を落ち着ける呼吸法だと聞いていたが交換ほどは期待以下だった。
ただ、覚悟は決まった。
その日の放課後、彼は誰も入り込めない屋上で一人――一人と一体の会合を開いていた。
「――ふむ、これがお前の集めた証拠のすべてか?」
もう一方の影――小さい体に茶色の毛と青い目をした梟が厳かに告げた。
まるで判決を告げる裁判長のような口調だった。
「そうだ、僕に分かったのはこれがすべてだ。これが間違っていると思うなら――まあ、好きにしてくれ。」
そういった魔法使いは、しかし、ひどく自信に満ちた顔をしていた。
「間違ってると思うか?」
「わからん、が、私もそのように考えられるとは思う――いささか、同期の面に不足はあるが。」
そう言って屹然とこちらを見る梟に魔法使いは「それは認める」と前置いた上で、「ただ――」と続けた。
「たぶん――」
「たぶん?」
「――ファンだったんじゃねぇかな。」
「……?」
意味が分からないと首を180°回した梟は、しかし、気を取り直したように魔法使いを見つめた。
魔法使いは視線を返して「判決は?」と問いかけた、ただの確認だったが必要な事だった。
「――古きオークとその下に集まりる者たちの名において。お前の権利の執行を認めよう、無罪かどうかの宣誓は「それ」をとらえてから決定されるだろう。」
「ここまでやってそこどまりか。」
「お前が嘘をついている可能性がある。」
「ま、そうなるよな。」
「――まあ、お前がやったことだ、うまくいくだろう。お前が私の「夜のレンガ」をしょって歩くさまも見てみたかった気もするが。」
これが彼の執行する「死刑」だ、魂すら拘束する縄でもって体を縛り上げ、黒色矮星を固めて作り上げた「夜のレンガ」を罪の数結んで引きずらせてそのすべてがなくなるまでひたすら歩かせる。
一歩目で肉体が砕けて魂に縄が食い込み二歩目で魂すらちぎれ、それでも止めれぬまま永劫レンガを引き続けるこの刑罰はあらゆる因果関係とあらゆる絶対時間の拘束を受けずに実行される。
魔法使いたちすら恐れ、あらゆる超常存在すら罪をひた隠しにする番人の刑罰の中にあってなお、この梟の刑罰はひときわ恐れられる物であった。
「無理言うなよ、黒色矮星でできたレンガなんて持てるわけないだろ。」
「何、死ぬまでの辛抱だ。寿命亡き者のように永劫に背負わされるわけではない。」
「……そのセリフ、まじで言ってるのが怖いよな。」
これだから番人とは相いれない、根本的に生命の捉え方が違う。
苦笑交じりに振り返った魔法使いが歩き出したとき、梟が聞いた。
「――行くのか。」
「止めんわけにもいかんからな。」
振り返りもせずに言う少年に一瞬梟は悩むように眉を寄せた、気遣うような色のあふれる顔をしているように傍からは見えたことだろう。
が、結局何を言うべきかわからなかったらしく、裁判官のような減とした声音を崩す事なく。
「……そうだな、しかとこなせ。」
とだけ告げた。
尽きることのない時間を持つ番人に人間の――いづれ尽きる時間しか持たない者達の気持ちが理解できる日は結局来ないのだと梟は理解していた。
「ああ。」
そう言って片手を振って別れた魔法使いの少年もそれを理解しているからこそ、それ以上を求めてはいなかった。
二人の魔法使いの別れはひどくあっさりとした物だった。
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