第11話 魔法使いの調査
『――ここもか……』
魔法使いが緩やかに感覚の触視を戻すと、世界は色あせ、魔法が満ち満ちていた視界にはいつも通りの世界があった。
助けた男の道具をそいつとの関連性を使って自宅の前に送ってからすぐ、彼はこれまで襲われていた人間の調査に移った。
それぞれの襲撃地点に戻り、《霊的視野》でもってその場所を探ったのだ。
結果は――
『全部ついてるな……』
正確には『自分が接触する直前、襲われたタイミングまでついていた』が正しい。
だから、伊織少年ほどの魔法使いでも今まで気が付かなかったのだ。直接影にあっていない状態で『影の痕跡』を見つけるのはさすがにちゅいを払って《第三の視界》を使わなければ見つけられない。
『師匠当たりなら何となく見つけるような気もするが……』
流石にあの規格外と比べられても困る、コンビニ気分で異世界に行き、時間を飛び越えるネズミだ。今の自分でも師匠からすればひよっこだろう。
いまだ強大な死の影に思いを馳せたからだろうか、彼の脳はある記憶を掘り起こしていた。
『そう言えば、何人か「普段はこんなことない」とか言ってたな……』
その言葉を聞いた時は「そう言うときもそれなりにあるよな」と思う程度だったが――
『……これ、ぜってぇなんかあるよな。』
間違いない。と彼は考えを固める、ここまでなにかあると明らかに偶然ではない。
そもそも、魔法使いが使っているなら当然の様に偶然ではない、『後追い人の影』は体の一部かさもなければ本人の同意なしでは後ろにつけられないからだ。
たとえ、ダンジョンから受ける神秘の力で同じ力を得たとしてもある程度の制約が付くのは間違いない。
となると……
『何がしたいんだこれ?』
そこが分からない、この「死なない異次元」でもって、一体相手にモンスターをけしかけるだけの行為にいったい何の意味があるのか?
『一つ確かなのは『狙われてるのは配信者』ってことだけだ。』
これまで『後追い人の影』の魔法にかかっていたのは全員配信者だ。
今日の彼然り、これまでの一週間に出くわした大体の配信者関係の救助事案はこの『後追い人の影』が付いた状況で起きている。
『……救助用のマーカーとか……いや、そもそも大体のエクスプローラーにはこいつ見えんよな……』
そう、通常のエクスプローラーは第三の視界など持ってしない。となると大部分のエクスプローラーはこの痕跡を――影本体も含めて――見つけられないはずなのだ。
となれば……ことは途端に非道さを増す。
まるで爆弾を隠して人に運ばせるような所業だ。どこで爆発するのかはおろか、爆発することすら知らずにその場所に行き、意味も分からずに襲われる。
待っているのは死だ――伊織がいなければ。
『それを止められたのは大変結構なことなんだけども……』
誰がなぜどういった風に行っているのかわからなければ結局後手後手だ、そのうち対応が追い付かなくなって破綻しかねない。
大体、この手の魔法の残滓をかぎつけるのは高等な神秘的生物の方がうまい――
『――待てよ?』
思い返されるのは数日前の一件、あの日救った女性配信者――
『ヨルガオ女史の件もこれか?』
あの時ヨルガオのいた場所はオーガの住処と反対だった。そしてあの連中は用がない限り、遠出はしない。
つまり「あの位置にオーガが来ることは非常にまれ」なのだ、だから彼女も驚いていた。
――しかしそれが、『後追い人の影』の影響で起きていたとしたら?
辻褄は合うような気がした。
『いや、配信越しにヨルガオに影は見えな……いや、「残響」か。』
魔法には『以前影響していたものに痕跡が残る』物がある。
そして、『影』はそれが濃い魔法だ。ゴブリンなら気づかずともオーガがそれにつられてくるのは何らおかしくはない。
『……ありえる……か?』
ないとは言い切れなかった。つまるところ、彼が見逃しただけで彼女は被害者第一号であり、彼はそこで次の被害を食い止めそこなったということだ。
『……やらかしたかもしれん。』
そっと手を額に当て、自分のしでかしたミスについて自分を責めた。
確かに、彼はここで起きる事件に責任を負う立場にはない。
だが、一度人を救うと誓いを立てて動いたのだ。自分の行動には何よりも、自分自身に対して責任を負わねばならない。
正直、多少油断はあったかもしれない、彼はそれなりに卓越した魔法使いであり、これまでお問題に対処できていた、だから今回も大丈夫だろうと高を括っていた部分がないとは言えなかった。
『……反省します。』
彼はそっと手を組み、以前助けてくださったすべての超自然的存在達に誓いを立てる、次からはこのようなミスをしないこと、そして――
『犯人は見つけ出して必ずやふさわしい罰を与えます。』
このような所業は少なくとも無辜の――やった本人に何ら咎を負うことのない者たちに与えられるべき事柄ではない。
何せ、彼らはともすれば爆弾にもなりえるものを無許可で体につけられているのだ。それを知るすべすら与えられずに。
『それは……あんまりだよな。』
誰かが止める必要があるのだ。
彼は幸いにも彼らが何をされているのか知りうる立場にいるし、それを止める力もあった。ならばやるべきことは一つだ。
魔法使いは再び削れた睡眠時間に別れを告げて、彼の性分を全うし始めた。
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