第18話 第三者の視点だと完全にホラー

「じゃあ、それ以外に覚えていること、見たものは、ないんだね?」


 片隅に机が置かれていて、中央にも固定されたデスク。


 取調室で尋問している刑事は向かいの外間ほかま朱美あけみに、最後の確認をした。


「はい。睦月むつきさまが御神刀で――」

「それはもう、聞いたから……。槇島まきしまさんは、彼らに何をしたの?」


「分からないです! 私、殺されそうで、怖くて……。気づいたら、睦月さまに助けられて、彼らと離れた位置にいました」


 ため息を吐いた刑事は、まだ諦めない。


「すぐ通報せず、最寄りの交番に駆け込まなかった理由は?」


「睦月さまに助けられた後は逃げることしか、ありませんでした! 自宅に戻り翌日の朝になってから、ようやく落ち着いたんです! だいたい、あんな場所で人質にされて通報も何も……」


 お前らが役立たずだから、殺されかけた。と言わんばかりの視線。


 慌てた刑事は、取り成す。


「そ、そうだね! 俺も急いでいると、つい忘れちゃってさ! 提出する書類もデスクの奥へ隠しちゃうし……。悪いんだけど、君が槇島さんを心配して夜道を追いかけたところから、もう一度――」




 ――北稲原きたいなばら署の小会議室


 集まった刑事課の面々は、どんよりとした表情だ。


 刑事課長が、外間朱美を取り調べた男女に問いかける。


「で?」


「ダメっす……。あれ、嘘は言っていないし、そのままですね」

「私も、同じ意見です」


 御神刀とやらで暴れたのは、槇島睦月。


 他の関係者の取調べでも、それは一致している。


 けれど――


「槇島を揺さぶっても、全然ですわ! やりにくいったら、ありゃしない」


 強面の刑事は投げやりに言いながら、両手を上げた。


 そのため、睦月と親しい朱美を崩して、突破口にしたかったのだが……。



「あの2人は身元がしっかりしていて、美須坂みすざか町の連中だ。おまけに、槇島睦月は神社の御神体ごしんたい……。これ以上は、マズいな」


 刑事課長の独白に、睦月を担当している刑事が同意する。


「ええ……。現に槇島は、『協力はするけど、不当な捜査だったら千陣せんじん流と桜技おうぎ流が動いても口添えしないからね?』と言っています。『外間がこう言っていた』と振ろうが、全く動じません。逆に、『それが嘘だったら弁護士に言うよ?』と、きたもんだ! ……おそらく、『知っていることをそのまま話せ』と指示したんでしょうね」


 逆に言えば、周りの大勢が見ていても、気づかれないだけの自信がある。


 現場は、監視カメラどころか、住宅もない荒野だ。

 集まっていた連中だけが、唯一の証人。


 でも、誘拐事件を起こした連中は、廃工場のオフィス跡で皆殺しだ。


 いくら警察の取調べが上手くても、本人が知らないことを証言させるのは無理。



 刑事課長は、自分の考えを述べる。


「やはり……その場で拘束しなかったのが、痛すぎるな! 自分から出頭して積極的に取調べを受けているのだから、無理強いはできん。下手をすれば、カウンターでやられるぞ?」


 内勤をしている女が、おずおずと発言する。


「あの……全員が言っている御神刀ですけど。槇島さんに言って、任意で出してもらえば?」


「それ、絶対に罠だぞ?」


「ああ……。引っかかれば、『宗教団体の聖域に警察が踏み込んだ』とされて、俺たちはクビにされるだろう。居座っても、ずっと冷や飯だ」


「適当なものを出されても、俺たちには区別できんよ!」


 指摘された女は、首をひっこめた。


 刑事課長が、話題を変える。


「御神刀については、今の時点で突っつく気はない。しかし、色々な意見を言うことは大切だ! ……それより、自首してきた針鼠ハリネズミアイアンズは?」


「完落ちです……。証言は、『槇島に返り討ちの後で、彼女が人質の外間を救出した』になっています。連中も、何が起きたのかは不明なようで……」


 電光石火で動けば、こうもなる。


「槇島を襲撃した事実は、どいつも全面的に認めています! 他に余罪がいくつか出てきましたが、被害者への謝罪と賠償による示談が成立している模様」


「手際がいいな……。人が殺傷されていない件は、自首で処理してやれ! たぶん、不起訴だろうがな? 残るは、まだ見ぬ室矢むろやカレナ」


 刑事課長の発言に、長机をくっつけたテーブルを囲む面々が、うわあ、という表情へ。


「あの一族かー!」

「それも、名字にしている奴」

「証言である以上、その女子にも話を聞くしかないですよね?」

「その正論が、耳に痛い」


 コンコンコン ガチャッ


 いきなり、ドアが開かれた。


 全員が見れば、署長とキャリアの姿。


 慌てて立ち上がり、無帽の敬礼。


 

 署長が、口を開いた。


「急に入って、すまんな……。とりあえず、座ってくれ」


 ガタガタと、パイプ椅子が動く。


「君たちが追っている事件だが、県警本部の部長から、お言葉がある! どうぞ……」


「室矢カレナと槇島睦月だが……。この2人については、よっぽどの理由がない限り、手を出さないように!」


 ぐるりと見たキャリアは、不満げな様子を見て、うなずいた。


「とだけ言っても、納得できまい? こちらで本庁に問い合わせたら、『あの2人は室矢家の初代当主、室矢重遠しげとおと重婚をしていたか、ずっと傍にいた女』と分かった」


「は!? あ、あいつら、女子高生ですよ? その室矢が生きていたのって、かなり昔だったんじゃ?」


 失礼な突っ込みだが、キャリアは怒らず。


「私も、そう思った……。どうも人ではないらしく、あの姿のまま……。大事なのは、本庁がそう判断していることだ! 室矢重遠と色々あったようで、上が神経質になっている」



 少なくとも、長官2人が辞任した。


 妻の1人だった天沢あまさわ咲莉菜さりなの活躍を含めれば、キャリア数人も……。


 これで警戒しなかったら、ただの馬鹿。



「話は、以上だ! ああ、そうそう……。『御神刀』というキーワードが出たら、くれぐれも注意したまえ! これは防衛省の筋だが、『駐屯地の一部を消し飛ばした』『南極のエイリアン部隊を1人で潰した』とか……。まあ、そちらは聞き流しても構わんよ」


 説明したキャリアは署長と一緒に、すぐ出て行く。



 残された刑事課のメンバーは、安全ヘルメットを被り、指差し呼称をするネコのような顔ばかり。


 ヨシッ!

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