第16話

15歳ほどになれば親とさほど変わらない身長になるはず…だが、クーリアはまだフィーリヤに届いていなかった。風呂場に椅子はない。仕方なく、フィーリヤは床に座った。


「ママ、そこまでしなくても…」

「いいじゃない。久しぶりなんだから」


そう言われてしまっては、やるしかない。クーリアはフィーリヤの髪を丁寧に洗っていった。


「クーはもうちょっと食べないと」

「ちゃんと食べてるもん」


なのに身長はあまり伸びていない。サラにも身長で越される始末だ。

……女性的な部分も。


「はい。出来たよ」


フィーリヤも洗い終わり、クーリアと共に湯船に浸かる。


「ふわぁ~…」

「気持ちいいわねぇ」


そのまましばらく談笑しながら、夜は更けていった。




「おやすみなさい」

「ええ、おやすみ」


クーリアはフィーリヤと別れ、自分の部屋へと入っていった。今日くらい家族と寝てもいいような気はするが…フェルナスが酒を飲んでいたのだ。そのためクーリアはやめた。フィーリヤは流石に夜も自身の夫をほっとく訳にはいかないので、クーリアと別れたのだった。


自身の部屋に入り、クーリアは一目散にクローゼットを開ける。


「うわぁー…増えてる」


部屋に備え付けられたクローゼットの中身を見て、思わずそう吹く。以前見た時よりも明らかに収納されている服が増えていた。

………しかも、どれも高そうなもの。無論それら全て、フェルナスがクーリアにと買ったものだ。


パタンっとクローゼットの扉を閉めて、クーリアはベットに潜り込んだ。


「…見なかったことに」


そう言って、クーリアは夢の中へと堕ちていった。


◆◆◆


次の日、クーリアが起きて制服に着替えていると、ふと鏡の中の自身の姿が目に入った。


「誰に似たのかなぁ…」


青みがかった銀髪に青色の瞳。だが、少し両目の色が違う。右目は深い青。左目は…薄い青をしている。


両目で色が違うのは、貴族の間では不吉だと言われている。そのため、クーリアは前の父親から気味悪がられていた。

……もちろん、不吉だなんてただの迷信でしかないのだが。


しばらく鏡を眺めた後、クーリアは部屋を出て、家族と共に食事を食べた。


「仕事やりたくない…家族との時間が欲しい…」

「パパ、頑張って」


食事中、ぶつぶつとそうつぶやくフェルナスを、クーリアが励ました。最近フェルナスは仕事が忙しいらしい。


「うぅー、クーリア!」

「うわぁ!ちょ、待って!」


泣きながら抱きついてきたフェルナスに、食事を食べていたクーリアは大慌てだ。


「はいはい。フェルもそんなことしてないで早く行きなさい」


その光景を見かねたのか、フィーリヤがそう言った。そうしてようやく、フェルナスは渋々といった様子で仕事に出かけていった。


「はぁ…」

「ふふっ。クーも大変ね」


心底面白そうにフィーリヤがそう言う。


「嬉しいけど…もうちょっと控えて欲しい」

「それを言ったら絶対悲しむわね」


だよねぇー…はぁ…まぁいっか。


クーリアもなんだかんだ言って、フェルナスが好きなのだ。渋々、でも少し嬉しそうに、クーリアはフェルナスを説得することを諦めたのだった。


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