第12話 名探偵現る
「あ、昇太君じゃん。おっはー」
「昇太君、おはよう」
「おはようアゲハさん、静さんも」
親し気な笑顔で挨拶され、昇太もニッコリ笑い返す。
男子トイレでの夢のような三人エッチから暫く経っていた。
相変わらず、昇太はみんなに隠れて校内で二人とエッチしている。
二人だけの時もあれば三人でする時もあり、時間差でもう一方とする事もある。
あれからアゲハ達も二人でエッチをするようになり、以前に比べれば昇太とする回数は控え目になっている。
残念だとは思わない。
以前がヤリ過ぎなくらいだったし、二人とは友達になったので、昇太としてはむしろ微笑ましく感じていた。
それに、一方とエッチをする時は、もう一方とした時の話題がよく出てきて、エッチを盛り上げる良いスパイスになっている。
それは二人も同じようで、昇太抜きでする時は、お互いにどんな風に昇太としたかを話しながら盛り上がっているらしい。
なんだか変な感じもするが、誰に迷惑をかけているわけでもないし、二人が良いならそういう関係もありなのかな、なんて最近は思っている。
三人でするようになって、表の関係にも変化があった。
以前は二人とも表面上は友達未満、ただのクラスメイトという顔をして過ごしていた。
それが今は、普通に友達感覚で挨拶を交わし、一緒にお昼を食べる事だってある。
『静にもバレちゃったし、いつまでも昇太君がクラスでボッチっていうのも可哀想じゃん? あ~しもいい加減学校で普通に昇太君と話したいし』
というのがアゲハの談である。
『それは僕も同じだけど……。いいの? 他のクラスとか先輩の目とか、色々あるんでしょ?』
『そりゃあるけどさ。昇太君が入学してもう一ヵ月だし、みんなも正直、誰か先陣切ってよ! って雰囲気出してるから大丈夫っしょ。あ~しも一人じゃちょっと怖いけど、静と一緒なら平気だし。てか静、学長の娘だし、周りもおいそれとは手ぇ出せないっしょ』
『それを言うならアゲハちゃんだって理事長の孫じゃない』
『いやいや、理事長の孫とか大した事ないし』
『私だって同じよ』
『学長の娘は強いっしょ』
『理事長の孫には負けるわよ』
あーだこーだ。
そんなやり取りもあり、二人が先陣を切って昇太との交友を解禁した。
今の所は、当初危惧していたような諍いは生じていない。
むしろ、二人が昇太と話すようになって、周りも昇太に話しかけやすい空気が生まれていた。
他クラスの生徒や先輩方も同じなのだろう。
今までは遠巻きに見ているだけだったのが、緊張した顔で挨拶をしてくる生徒も増え始めた。
昇太が挨拶を返すと、キャーキャー言いながら友達の元へ舞い戻り、『見た見た!? 昇太君に挨拶しちゃった!』『いいないいな!』『今度は私も挨拶してみようかしら……』と大盛り上がりだ。
まるで芸能人みたいな扱いで、嬉しいような恥ずかしいような、複雑な心境である。
もちろん、悪い気はしないのだが。
彼女達に内緒でアゲハや静とヤリまくっている事を思うと、昇太は罪悪感と共に奇妙な興奮を覚えてしまう。
もしかして、僕って変態なのかなぁ……。
彼女でもない女の子二人と学校の敷地内でヤリまくっているのだ。
もしかしなくてもかなり変態よりな気がするが、深くは考えない事にした。
今の昇太は、これまでの人生からは考えられないくらい幸せだ。
イジメられないどころか、とびきりの美少女二人と友達になり、エッチまでしている。
これで文句を言ったらバチが当たるというものである。
そんなこんなで昇太は今日も何食わぬ顔で登校し、尿意を催してトイレに立った。
途端にクラスの女子達は色めき立ち、アゲハ達の元へと集まっていく。
「ねーねー! アゲハちゃん、静ちゃん! どうやって昇太君と仲良くなったの?」
「私達も昇太君と仲良くなりたいよぉ!」
「ていうかアゲハちゃん、昇太君と不仲じゃなかった?」
「ん~、別にぃ? なんかあ~しも言いすぎちゃったかな~って思って謝ったら普通に仲良くなった感じ、みたいな?」
「……私はアゲハちゃんが仲良くなったから……。友達の友達は友達、みたいな感じかしら……」
得意気にアゲハが語り、静はオドオドしながらアゲハの影に隠れた。
「え~! 流石アゲハちゃん! 男の子と仲良くなるの上手なんだねぇ……」
「そりゃギャルだしぃ? 伊達に男遊びしてないしぃ? これくらいは余裕みたいなぁ? あはははは」
持ち上げられ、上機嫌のアゲハである。
それを見て、心配そうに静が耳打ちする。
「アゲハちゃん……。あんまり調子に乗らない方がいいと思うんだけど……」
「平気平気! あ~しのキャラ的に、これくらい言っとかないと逆に怪しいっしょ!」
「そうかもしれないけれど……」
なんてやり取りをしていると。
「それにしてもさ、アゲハちゃんと昇太君てなんか距離近くない?」
「へ?」
突然の指摘にアゲハがたじろぐ。
言ったのは、探偵みたいな帽子を被ったスレンダーな女の子だ。
セミロングの黒髪はどことなくボーイッシュで、悪戯猫を思わせる大きな瞳は好奇心の光で輝いてる。
彼女の名前は
日本一の規模を誇る興信所、御栖眞探偵社のご令嬢である。
彼女自身、愛聖の名探偵を自称しており、好奇心の赴くまま、あちらこちらで迷推理を発揮しては無用の騒ぎを起こしている。
言ってしまえば迷探偵、トラブルメーカーである。
「思った思った! なんか急に大接近って感じだよね!」
「そ、そんな事ないっしょ? あ~しは誰にでもフレンドリーだし? だよね、静?」
「そ、そうよ! 人見知りの私にもグイグイ来るくらいなんだから。あれくらい全然普通よ!」
話を振られ、慌てて静がフォローする。
言うまでもなく、ここで風流に目を付けられたら厄介である。
昇太との情事を嗅ぎつけられたら三人とも身の破滅だ。
「確かにアゲハちゃんが陽キャなのはいつもの事だけど。昇太君の態度がちょっと怪しいよね。いつの間にか下の名前で呼んでるし」
「そ、それはあ~しがそうしろって言ったの。友達だし、苗字呼びとか堅苦しいじゃん!」
「わ、私もよ!?」
「怪しい所は他にもあるよ。前は昇太君、なんかビクビクしてたのに、今じゃ完全にアゲハちゃんに心許してま~すって感じするもん。アゲハちゃんの事だから、実はこっそり昇太君の事食べちゃってたりして……」
右手に持った虫メガネ越しに風流がアゲハを観察する。
確信を突いた言葉に二人はサァーッと青ざめた。
「ま、まっさかぁ!? いくらあ~しでもそこまで節操なくないし? ねぇ静!?」
「そそそそそ、そうよ! いくらヤリマンビッチのアゲハちゃんだからって、学校に一人しかいないクラスメイトの男の子を食べちゃうなんて、あり得ないわよぉ!?」
「むむむ。その反応、ますます怪しい。いつものアゲハちゃんならこういう時、嘘でも「あ~、分かっちゃう? 実はそうなんだよねぇ~、あはははは」とかドヤりそうな場面なのに。ていうか、静ちゃんもなんか変だし。もしかして、二人で食べちゃった?」
「食べてないし!?」
「そんな事するわけないでしょ!? 私はアゲハちゃん一筋よ!?」
「そうなんだけど、なんか引っかかるんだよねぇ~」
「あ~も~鬱陶しい! 虫メガネ向けんなし!?」
「そ、そうよ! いくら風流さんでも流石にそれは失礼じゃない!?」
「そうだよ風流ちゃん」
「探偵ごっこも程々にしないと友達なくしちゃうよ?」
周りの女子も見咎めて風流を諭す。
「だって怪しいんだもん! ボクに流れる名探偵の血がこれは事件だって騒いでるんだもん!」
「それ、いっつも言ってるじゃん」
「この前も下着泥棒だ~! とか騒いで、結局洗濯物が風に飛ばされただけだったし」
「あの事件はまだ調査中! 絶対に真犯人が別にいるから!」
「はいはいそうだね~」
「昇太君帰って来たし、解散解散」
「あ、ちょっと!? まだボクの話は終わってないんだけど!?」
友人二人に背中を押されて風流が退場する。
取り合えず難を逃れ、二人はホッと胸を撫でおろした。
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