第10話 美男美女
チンピラ先生に促されて教室の中へと入って行くと、そこには異世界人がズラッと席に座っていた。
つまり、右を見ても左も見ても美男美女だらけなのだ。
みんな八頭身九頭身はありそう。
そしてスタイル抜群。
本当に同じ人類なのかと目を疑いあたしは何度もその輝きに瞬きを繰り返した。
教卓であたしの紹介を始めるチンピラ先生もかなりのイケメンだと思ったけれど、今はその姿が薄れて見える。
「あ、あの……先生」
「ん、どうした松井」
「あたしこのクラスには向いていないと思いますが……」
「どうしてだ?」
「だって、みんなが異世界人に見えるんです」
そう答え、あたしは目をこする。
すると先生はおかしそうに笑い声をあげて「大丈夫だ松井。みんなからしからお前が異世界人だから」と、言ったのだ。
んん……。
それって褒めてないよね?
むしろけなしているよね!?
「じゃぁ、松井の机はあそこだから」
先生はあたしとけなしたことなど微塵にも悪いと思っていないようで、ビシッとあたしの席を指差した。
その指にそって見てみると……。
「ウゲッ!」
あたしは思わず潰されたカエルのような声をあげた。
先生が指差したその先は、【ツインズ】2人に挟まれている机だったのだから。
昨日1日で【ツインズ】のすごさは理解できていたから、2人がA組だろうなぁという予想はできていた。
あたし、2人の付き人だしね……。
でも、だからってあの席はひどいんじゃないかな!?
毎日毎日見たくもない同じ顔のイケメン君に挟まれて授業をするなんて、どんな苦行でしょうか?
「い、嫌です先生! 席替えを希望します!!」
ビシィッと手を挙げて意見すると「断る!」と、すぐに言い返された。
むむむ……。
敵は手ごわいぞ……。
「松井は【ツインズ】の付き人なんだから、2人の近くに座るのが一番いいだろ?」
そう言い、ポンッとあたしの背中を押す。
あたしはヨタヨタとよろけるように歩き、渋々自分の席へとやってきた。
「やぁ、よろしく」
「よろしく、カヤちゃん」
右から晴が、左から圭が手を差し出す。
あたしはその両方の手をシッシッと邪魔扱いしてどかし、ドカッと自分の席に腰を下ろした。
「どうしたのカヤちゃん、なんか怒ってる?」
圭が目をパチクリさせてそう聞いてくる。
「違うだろ圭。カヤは今生理なんだきっと」
シレッとぬかす晴。
「誰が生理よ! いきなり学校を転校させられたんだから怒っているに決まっているでしょ!?」
カチンときたあたしは思わず大きな声で【ツインズ】を怒鳴り散らした。
一瞬、シンッと教室中が静まり返る。
そして、女の子たちの鋭い視線が突き刺さっていることにあたしは気がついた。
な、なによ……。
あたしは被害者なのに。
あたしはこんなこと望んでいないのに……。
なのに周囲からは「贅沢者」だの「ブスのくせに」だのと、わかりやすい罵倒が飛んでくる。
「教室では極力大人しくしてな」
晴が口元に笑みを含ませ、そう言った。
あたしは悔しくて、でも晴の言う事はごもっともなので、ギリギリと奥歯を噛みしめた。
くっそぉぉぉ!!
こんな学校なんて、こんな性悪双子の付き人なんて、すぐにでもやめてやる!!
☆☆☆
自己紹介が終わると、後は桃谷高校と同じような授業内容が進められていった。
よかった、勉強に差はないんだ。
それ所か美男美女たちは勉強をするということは苦手らしく、授業中でも当たり前のようにスマホをいじっていたり、化粧直しをしたりしている。
普通の学校ならすぐに没収されるところだけれど、秋原高校の先生たちは注意をすることもなかった。
ちょっと、売れっ子芸能人だからって甘やかしすぎなんじゃないの?
だから【ツインズ】みたいに我儘になるのよ。
なんて思いながら、クルクルとシャーペンを指先で回す。
すると晴があたしの机にノートを置いて来た。
「ちょっと何よ?」
「少し寝る。ノートとっといてくれ」
「はぁ!?」
なんであたしがあんたのノートとらなきゃなんないのよ。
「あ、俺もお願い」
ムッとして晴を見ていると、今度は逆側から圭がノートを出してきた。
「ちょっと、授業に出ているんだから自分でノートくらい取りなさいよ!」
あたしがそう言った時にはすでに2人とも目を閉じ、寝息を立て始めている。
どれだけ寝つきがいいのよ!?
あたしは2人に呆れていると、気がつけば科目の女性の先生が机の前に立っていた。
「松井さん、あなたが2人のノートをとりなさい」
「な、なんでそんなこと……!」
「【ツインズ】の2人はこの学校内で最も人気のあるグループです。見てもわかるように2人はろくに眠れていないの」
あ……。
あたしはやけに寝付きの良い2人を交互に見つめる。
「学校に来られる時間は少ない。だけど一般教養は身につけておきたい。2人はその思いで時間の許す限り登校してきているの」
そ……っか。
ただの我儘であたしにノートを押しつけたワケじゃないんだ……。
あたしは2人のノートを開いてみた。
眠気を戦っていたのか、2人ともミミズがはったような文字を書いている。
これじゃぁ家に帰って勉強したくてもできないか……。
「仕方ないなぁ」
あたしはフッと笑みを浮かべてペンを握った。
「これも付き人の仕事です。頑張ってくださいね松井さん」
ポンッと肩を叩かれて、あたしは黒板の文字を2人のノートに書き写し始めたのだった。
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