12.「女の友情は脆い」?その前に初めから存在しないので

side .リリー


「フィオナ嬢って大人しい感じなのに、殿方に暴力を振るうなんて凄いわよね」

「人は見た目では分からないものね」

「あら、そうかしら?大人しい人ほど陰で何をしているか分からないものじゃなぁい?」

「それもそうね」

誰もいないと思っているのだろう。

ピーチクパーチクと雀どもが騒いでいる。いや、雀だと表現が可愛すぎるから彼女たちに似合わないわね。

カエルね。

ゲコゲコとうるさいカエル。そう思うと本当にカエルにしか見えないから腹を抱えて笑いそうになるのを堪えるのが大変だった。

「ねぇ、リリーってフィオナ嬢と仲が良いわよね」

「そうね。なぜかいつも一緒にいるわね」

私がそう言うとカエル共は目を輝かせて私を取り囲んだ。気持ち悪い。私、両生類って嫌いなのよね。

「普段のフィオナ嬢ってどんな感じなの?」

「さっきあなたたちが言っていた通りよ」

「それって」

ごくりとカエルが生唾を飲んだ。

やめてーっ。笑っちゃう。

「大人しいタイプの令嬢よ。とてもじゃないけど、暴力を振るうような人じゃないわね。友達も私ぐらいしかいないし。まぁ、彼女の立場を考えれば仕方がないことよね」

「それもそうね。アラン様と婚約を破棄されるのであれば、彼女と付き合うメリットはないものね。どう転ぶか分からないから誰も近づかないのよね」

「君子危うきに近寄らずね」

最近のカエルは頭が良いのね。まぁ、綺麗に舗装された田畑で暮らしているカエルと土壌で暮らしているカエルを比べるとさすがに差ぐらい出るか。

「フィオナは大人しいけど、だからって気が弱いわけじゃないわよ。言う時は言うし、やる時はやるわよ」

「へぇ〜」

「だから、あまり侮らない方が良いわね」

まぁ、カエルがいくら喚いてもフィオナは気にしていないみたいだけど。本当、むかつく。お高く止まっちゃって。同じ子爵家なのに、自分は違うみたいな感じが鼻につくのよね。

「婚約は?アラン様との婚約は継続なの?」

「うわっ、それって悲惨じゃない」と一匹のカエルが悲惨とは思っていない顔で言う。

「あの様子じゃあ、アラン様ってラン様と別れる気、絶対にないわよね。むしろ燃え上がるんじゃない?恋にスパイスは必要でしょう」

マジでやめて欲しいです。カエルが恋を語るとか、笑いで死にそう。

「あはっ。フィオナ嬢が恋のスパイス!?面白すぎ。ていうか、男に婚約者盗られるとか、女として終わってるでしょう」

「確かに。美人で男にモテるのを当然みたいな顔しているのを夜会でよく見かけてたから言い様よね」

「あっ、それ、私も思った」

うわっ、最悪。カエルと意見が合っちゃったよ。不細工の僻みって怖いわよね。まぁ、仕方がないわよね。彼女たちは毎日、自分の不細工な顔を拝みながら過ごしているんだもの。僻みたくもなるわよね。

「それで、どうなの?」とカエルが詰め寄ってくる。

だから、マジでやめて欲しいんだって。私、カエルが嫌いなの。

「やっぱり婚約は破棄?それとも継続?」

「さぁ?そこらへんの話しは何も聞いていないわね。まぁ、フィオナから婚約破棄は難しそうだし、グランチェ子爵はこのことを知らないだろうし、フィオナが言うとも思えないからとりあえずは継続じゃないかな。仮に破棄になるとしてもフィオナからじゃなくて、アラン様からになるんじゃないかな」

「それじゃあ、どっちに転んでも良いわね」

「ええ、どっちもざまぁだもの」

と、カエル共は腹を抱えて笑い出す。同じ下級貴族でも教育の受け方はそれぞれだ。彼女たちは下級貴族の中でも最底辺の教育しか受けられないほど財力がないのだろう。まるで下町の子供みたいに下品だ。

こんな連中と一緒にいて同じに見られたくないからさっさと退散しようっと。

「それじゃあ、私はこれで失礼するわね」

「ええ、リリー。ごきげんよう」

「・・・・・ごきげんよう」

ふふっ。カエルが『ごきげんよう』ってマジで受ける。


「リリー」

せっかく良い気分だったのに台無し。

「学校では声をかけないでって言ったはずよね」

私が不機嫌全開で睨み返すと冴えない男は体を強張らせ、胸の前で手をモジモジさせる。この男は私の婚約者だ。フィオナや学校のみんなには内緒にしている。だってこんな冴えない男が私の婚約者とか恥ずかしくて紹介できないもの。

しかも、階級は男爵家。

どうしてフィオナは伯爵家で容姿も良いアラン様なのに、私は男爵家でしかも容姿が冴えないこの男なの。同じ子爵家のなのに。ちょっと美人だからってムカつくのよ。可愛げのかけらもないくせに。

「ご、ごめんね、リリー。見かけたから、つい」

「次は容赦しないから。あんたみたいなのが婚約者だって知られたくないの。分かったら私の前から消えて」

「う、うん、分かった。ご、ごめんね」

慌てて踵を返したせいで足がもつれて豪快に転ぶ婚約者の鈍臭さに私は更にイラついた。

「せっかく良い気分だったのに台無しだわ」

まぁ、今回だけは許してあげる。しばらくは楽しめそうだから。

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