マサシ

 チャカが六番通りの倉庫に到着すると、そこには見慣れない車が停まっていた。マステマたちが乗ってきた車だと見て間違いないだろう。

 チャカは倉庫に入るとテセウスたちの位置情報を確認する。移動中なのでどうやらまだ捕まっていないらしい。

 チャカは念のために頭部のデバイスを起動させ、360度近くの範囲を見渡すことが出来るようにした。

 チャカは銃を構え、倉庫の奥へと進んでいく。

「……ッ!」

 チャカは横に飛んだ。

 そこへマステマの腹心、マサシが刀を突き立てて飛び降りてきた。能面を被った、全身黒のボディースーツの奇妙な男だった。股間辺りにはくっきりとした男性器の形が浮き上がっている。

「これはこれは」

 チャカはマサシを狙って発砲する。だが、マサシは地面を滑るように低く移動し弾丸を避けコンテナの陰に隠れた。

「刀で銃とやろうってのか、なめられたもんだな」

 しかし、コンテナの陰から現れたマサシの手には回転式の拳銃が握られていた。

「ですよねぇ」

 チャカもコンテナの陰に隠れる。

 一刻も早くテセウスと合流しなければならないのに、銃の撃ち合いになるならば持久戦になってしまう。チャカはイラついて舌打ちをする。

 チャカはマサシの隠れたコンテナに回り込むように移動して背後を突くことにした。

 マサシがいたところに辿り着くと、物陰から躍り出てマサシを狙う。だが、そこには既にマサシの姿はなかった。

 しかし、チャカは素早く銃を上に向けて発砲した。そこには二階からチャカを狙っていたマサシがいた。

 マサシが咳のようなうめき声をあげて銃を落とす。

「勝負ありだな」

 チャカはマサシの銃を拾い勝ち誇った笑みを浮かべる。そしてマサシを狙撃するがマサシは身をひるがえして逃げていった。

 もう銃を持っていないマサシは警戒する必要もない、そう考えたチャカはテセウスを追いかけ始めた。

「……ん? テメェ!」

 マサシが物陰から現れた。手には倉庫の床板に使われている鉄板を持っている。

 発砲するチャカ、しかしマサシは弾丸を鉄板で弾いていく。

 マサシは自分の間合いに入ると抜刀してチャカに日本刀で切りかかる。身を反らして斬撃をかわすチャカ、すぐさま反撃しようと銃を向けるが、マサシの前蹴りで体勢を崩されてしまう。

「くっ」

 さらに倒れそうになっているところをマサシに日本刀で切らてしまった。倒れざまだったために深手ではなかったが左の前腕を負傷した。

 チャカは仰向けに倒れつつ銃でマサシを狙うが、マサシは銃口を蹴って銃をチャカの手から跳ね飛ばす。

 マサシは倒れているチャカの足首を踏んで動けないようにしてから、日本刀でチャカの胸元を狙った。

 チャカは懐から二丁目の銃を取り出してマサシを狙い反撃に転じる。

 マサシは体を翻して銃の軌道から体をそらし、的を絞らせないように跳ね回りながら動きつつチャカの銃を拾った。

「お前、それ俺の愛用の銃だぞ!」

 お互い駆けまわりながら相手を狙撃する。そしてお互いがコンテナの陰に隠れると、状況は振出しに戻っていた。

 チャカは端末でテセウスたちの状況を見る。悪い予感がした。どうやらマサシは自分をここで足止めをするのが仕事のようだ。

 チャカはコンテナから体を出そうとするが、すぐにマサシがそこを銃で狙ってくる。やはり勝負を決めるつもりはないらしい。

 その頃、テセウスはルーシーとメンデルを連れて建物の中をつたって逃げている最中だった。テセウスと一緒にいるのは「ゴールデンボーイ」の異名を持つプライベーターのアリスターと、連射式のボウガンを持つルナ、彼女はディアナの姉だった。

「おじいちゃん、マステマってのはそんなにヤバい奴なの?」と、新人のアリスターが訊ねる。

「やべぇかどうかは分からねぇ、なんせ奴と関わったプライベーターは誰も生き残ってねぇからな」

「やばいじゃん」ルナがぼやく。

「噂じゃあ、ロウズの技術で作られたアンドロイドだってぇ話もあるな」

「どうしてロウズの技術で作られたアンドロイドが、ケイオスで人身売買なんてやってんのさ?」と、アリスターが言う。

「知らねぇよ、それに今考えることじゃねぇな。……ん?」

「どうしたの、おじいちゃん?」

「何か……聞こえねぇか?」

「何かって……。」

「何かが跳ね回ってる音だな、こりゃ……。」

 テセウスは「まずいぞ」と言って周囲を見渡す。そこは暴走族が縄張りに使っている工場跡地だったが、マステマの襲撃を恐れ、彼らはいち早くこの場所からいなくなっていた。

 テセウスが天井の方を見上げる。

「なんだと!?」

 マステマが建物の梁の部分を飛び移りながらこちらに移動していた。

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