かげり
晴れ時々雨
🌳
遊歩道のある広い公園の植栽の奥に背の高い樹木があり、ちょっとした林のようになっている場所がある。そこは夕方になるとちょうど夕陽が射し込んで木々が眩しく輝く時間がある。その景色を見るため、子供のころは帰りに寄り道をしたものだった。景色が綺麗だということも理由だったが、実は少し不思議な現象が起きるのでそれが目当てでもあった。
不思議な現象。それは、夕陽の逆光を受けた木々の間に1人の男の子が現れる、というのだった。
眩しさに細めた目で木々を見つめていると、幹の陰から男の子が顔を出す。いたと思うと違う木の幹から顔を出す。ぱっぱっと瞬間移動しているとしか思えない動きをする。それがいつの間にか追いかけっこのようになり、私は彼を追いかけ、彼は私を追いかけさせた。けれど一向に捕まらない。少年であるということは判るが、服装がどうとか顔つきがとか細部が判別できるほどには近づかないのだ。それにこの辺の子供ではないといった確信があった。遠のくことはあっても、一定の距離以上には決して近づけない。私は追いかける楽しさと、どんな子なのか知りたくてどんどん林の奥へ追いかける。しかしおかしいのだ。林とは言ってもここは公園内の植栽にすぎず、公園だってそれほど広くはないはずなのに、追いかけた距離は体感的に公園の広さを超していると思った。それに気づくと辺りはすっかり陽が落ち、木々は夜を含んだ風にざわめき始めている。はっとすると、男の子の姿はどこにもない。急に胸がどきどきして、慌てて家に帰るのだった。
小学三年生くらいのことだが、この体験は一度だけではない。私は何故かあの夕景に惹かれ、何度か正体不明の男の子と怖い遊びをした。あの子は私を待っていた。追いつけないのを知りながら。
私は何故気がついてしまったのだろう。あのまま何もかも忘れ、彼に追いついていたら。あそこにすべてがあるような気がしてならない。彼を追いかけることがなくなってから、虚構を生きているような気がする。あの場所はすぐそばにあるはずだから、時おり目を凝らして、物陰を掠める彼の裾を探す。
かげり 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます