再会8
やって来たのは寮長さんの部屋だった。
一人部屋である寮長さんの部屋は、二人部屋とは少し違う作りになっていた。
僕らの部屋と同様、机といったものもあるけれど、二人部屋にはない、ソファーと大きなテーブルが置かれている。
多分来客用に置かれているのだろう。
「さっきは逃げるために走らせてしまったが、体は大丈夫か?」
「これぐらいなら・・・・大丈夫です」
僕の部屋がある階は二階。寮長の部屋があるのは三階であるため、ここに来る時に走ってきたので、心配していたみたいだ。
「ごめんねファボット君。まさか、こんな早くに会ってしまうなんて思っていなかったから・・・・」
申し訳なさそうに言われた。
「気にしないでください。ですが・・・・・」
あの時、一瞬しか顔を見れなかったけれど、何処かとても懐かしい感じがした。
多分僕はあの人を知っていると思う。でも、思い出すことが出来ない。
どうしてこんなに胸が痛いのだろう。
もう一度合いたい。あの人が誰なのかすごく知りたい。
「・・・・志気・・・・」
「そうだな。会ってしまったからには、黙っているわけにはいかないか」
「彼は、ファボット君と同じ一年生。ちょっとしたわけありの子で、理由は僕らにも知らされていないから分からないんだけど中等部から特別にこの寮に住んでいるの」
それ以上のことは本当に知らされていないらしい。
知っているのは、中等部からほとんど寮に帰ってこないらしく、帰って来たとしても、今日みたいにただ寝に帰るだけだという。
たまに、寮生がその人の姿を見ると、次の日、その人を見た人は腕や足の骨を折ったり、全身打撲で入院したといううわさがたちまち広がり、今日に至るらしい。
そういううわさがあって、僕と同室の人は、怖がられているらしく、名前も表に出せないという事らしいが、事実は誰も知らない。
「確か、名前は中川浩だったかな?俺も雄姿もほとんど奴に関わらないから、名前ぐらいか分からないが」
「中川・・・・浩・・・・・ですか?」
その名前を聞いたとき、胸がドキッと弾んだ。
まさかとは思いたくない。
合って確かめない事には、確信がつけない。
「どうしたのファボット君。何か気になることでもあるの?」
「いえ・・・そういうわけではないんですが・・・・あっ・・・・」
ごたごたしていて忘れていたけれど、そう言えばまだ服を着替えていなかった。
どうしよう。制服は部屋に置いたまま、まだ登校するまで時間があるけれど、この様子では部屋に戻らせてもらえないと思う。
「・・・・・俺の制服でも、着るか?多分大きいと思うが、雄姿のよりはいいだろ?少し待っていてくれ。すぐに取ってくる」
何もいえないまま志気君は出て行った。
確か、副寮長の部屋はこの上の階で、階段を上がればすぐのところにあるはずなので、すぐに戻ってくるだろう。
「どういうつもりだろうね志気って。確かに僕のではファボット君には小さいと思うけど、失礼しちゃうよ」
確かに僕より背が低い寮長さんの制服では小さいと思う。逆に僕より背が高い志気君の制服では大きいと思うけど、志気君はどうするのだろう。
志気君だって登校しなければならないのに、僕に制服を貸してくれても大丈夫なのだろうか。
「教科書は僕のを使って。確か使っている教科書変わっていないと思うから」
「ありがとうございます。ご迷惑かけてすいません」
「ううん。迷惑をかけてしまったのは僕たちのほうだから気にしないで」
僕的には部屋に戻りたかったけれど、ここまでされては二人の行為に甘えるしか道が無かった。
「澄君持ってきたぞ俺の制服。多分、俺が去年着ていて、今年着るのには小さいと思った奴があったから、これなら大丈夫だと思うけど、ちょっと、上着だけでもいい、着てくれないか?」
大きさを確かめるためだろう。
渡された制服の上着を着てみた。
ほんの少し大きかったけれど、これぐらいの大きさなら問題はなかった。
「良かった。大丈夫そうだな。それ、もし澄君が良かったら、貰ってくれないか?どうせ俺はもう着られないから」
「いいのですか?」
「ああ。元々どうしようか考えていたやつだし、捨てるよりは人に貰ってくれるほうがいいからな」
「ありがとう・・・ございます。大切にします」
新品みたいにとても綺麗だった。あまり着ていないのかもしれない。
「志気。そろそろ食堂に行って朝ごはん食べないと、遅刻するよ?」
「もう、そんな時間か?そりゃあ、さっきから腹が鳴るわけだ」
僕もお腹が空いた。
「それじゃあ、飯食いに行くか?澄君、朝飯は食べられそうか?」
「はい。今日は少しですが食欲があります。たくさんは無理ですけど、多少は食べられると思います」
志気君から貰った制服に着替えて、三人で食堂に行って、朝食を食べてから、そしてもう一度寮長の部屋に戻ってから、荷物を持ってまるで二人に守られるように高等部の校舎に向かった。
一年生は四階。二年生は三階。三年生は二階となっているけれど、二人は僕を四階にあるクラスまでわざわざ送ってくれてから、自分たちのクラスに行った。
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