13.パスタ作り
そんなわけで、今日はパスタを作ります。
どんなわけだと自分でも突っ込みたかったが、なんやかんやで今はフェナの屋敷にいる。
実は中に入るのは初めてだった。シシリアドの一等地。東にある貴族が住まう地区。そこにフェナの屋敷はあった。二階建てで、部屋がいくつもあるのに、住んでいるのは屋敷を管理している老夫婦と、フェナ、バル、ヤハトの三人だけだそうだ。掃除は定期的に掃除夫を雇うそうで、
フェナは面倒な性格をしているというか、面倒くさがりだ。とても面倒くさがりなのだ。真っ正面からお願いしても、「えーめんどくさーい」で断られる確率が、五割だそうだ。バルとヤハトが口を揃えていうのだ。間違いないだろう。
そこでパスタである。
シーナの異世界の産物、冷製パスタを大変気に入ってもう一度食べたいと半年以上ごねている。冷製パスタを最初から準備できるかはわからないが、まずだい一段階のパスタを作ることができれば、それをエサに索敵の
さて、昔作ってみただけで、分量などは一切覚えていないのだ。強力粉、オリーブオイル(に似た植物性オイル)、塩、卵。
分量がわからないので、少しずつ使うことにする。
木のボウルに、粉を両手いっぱいくらい。そこへ卵一つをよく洗って他の皿に割りフォークでかき混ぜたものを入れる。オリーブオイルをひとたらし。さらに塩を三本の指でつまんで入れた。あんまりにもまとまらなかったら、少し水もいれてみるつもりだ。
最初は指先で軽く混ぜていくと、だんだんと粉がボロボロとした細かいだまになってきた。さらに手のひらの下側で押し付けるようにこね続けると、水をいれなくても一つにまとまった。
「いい感じかも」
作業の行程をバルとヤハトが興味深そうに見ている。何度もたたんでまとめてこねてを繰り返したところで、作業の手を止める。
「パン生地を作っているみたいだな」
「そうね、さほど変わらないかも? 少しだけ休ませるね。大きな鍋にお湯を準備しておこうか」
ガスコンロなどと言う便利なものはなく、いわゆるかまどで煮炊きする。しかもフェナの屋敷にはパン焼きかまどまであった。石窯だ。作業台は一枚岩を加工したつるつるの石。その作業台がまた広い。キッチンの真ん中にどんと構えている。
「豪華なお屋敷だよねー」
「以前は貴族の住まいだったからな。王都に引き上げるからとフェナ様へ譲られたのだ」
話を聞きながら薪を組むと、ヤハトが火をつけた。このかまどを使うのも最初は四苦八苦したのだ。ボタンを押せばつくガスコンロが懐かしい。火の強さの調整も難しい。薪を入れ風を送れば燃え盛り、薪を抜けば弱火になるのはわかったが、よく料理を焦がしたものだ。
「ヤハト、火起こし上手だよね」
「野営でもするし、普段からここのかまどの火起こしは手伝ってるからな」
弟子はなんでもするのだそうだ。
湯が沸いてきたところで、今度は準備してもらった麺棒で生地を均一に広げていく……のだが、プロじゃないので均一は諦めてもらおう。それでも努力してわりと薄くきれいに広げられた気がする。
強力粉をはたいて、三つ折にして包丁でなるべく細く切った。
「本当はパスタマシーンがあれば、同じ太さに出きるんだけど、それは諦めてね」
「パスタマシーンとは?」
「薄く広げた生地を同じ間隔で歯がついてるところをくぐらせるの。生地の厚さも調整できるし、同じ細さに切れるから、湯で上がりに差が出来ないんだー」
ぐらぐらと湧くお湯に、塩を握って入れる。そして麺も投入だ。生パスタは二、三分くらいでいいから、そろそろかなと言うところで少しだけ味見してみた。
「悪くない!」
竹のような植物で編んだザルに、トング(トングはあった!)で麺をあげていく。まだソースが作れてないので、冷水にさらして水を切る。
「オイルを絡めておこう」
新しい木のボウルにパスタとオイルを入れてかき混ぜる。
「出来た!?」
「パスタは悪くないと思う。さて次はソースだね」
まあ定番のミートソースがいいだろう。トマトや玉ねぎ、ニンジンに似た野菜はすでに見つけてあり、バルにお願いして揃えてもらっている。ここからは二人にも手伝ってもらうことにした。
「ピーネの皮をとるのに、フォークに指して麺ゆでたお湯に少しだけつけて、そう。そしたらほら、簡単にむけるでしょ? むけたらみじん切りで。バルさんは、キリツアを皮をむいてみじん切り。私はムルルの皮むきしてみじん切り」
包丁もまな板もたくさんあるので分担作業だ。
終わったら肉である。豚肉によく似たみんなが常食している肉を、ヤハトにこれまたみじん切りと言うか、粗びきにしてもらった。これはかなりの力作業である。出来たらかまどにフライパンを乗っけて、まずは肉。脂身が多いからそのまま焼いて一度ボウルへ。残った油でニンニクとよく似た、入れると食欲増進になるケッタをスライスしたものを軽く熱を通し、キリツアとムルルを炒め、ピーネを投下。さらに肉も戻す。オイルを足して、塩で味をみるとなかなかの出来だった。そのままパスタを入れて混ぜ暖まったとこでさらに移した。
パスタがこんなに上手く行くとは思わず、ソースを後回しにしたため、少し麺が伸びたかもしれないが、半年振りのパスタである。
「さあ、試食しましょう!」
お行儀は悪いが、立ったまま小皿を抱えて取り分ける。
「いただきまーす!」
「その仕草、前もやってたよな」
両手を合わせての挨拶にヤハトが首を傾げた。
「あー、私の故郷のご飯の挨拶よ」
ここら辺はだいたい「さあいただきましょう」が食事の始まりだ。
しっかり肉と野菜を絡めてフォークで食べる。
「美味しいいいーぱすたぁー麺類ぃー」
ずーっとずーっとパンだったのだ。来る日も来る日もパンだらけ。パスタは、体にしみた。
「この間のとは違うけど、これも旨い!」
ヤハトが驚きのはやさで平らげるとお代わりに走った。
「本当に、美味しいな」
元々パスタが好きだった。学生の頃はパスタ専門店でバイトをしてた。ホールスタッフだったが。
「美味しい……地球の味だ」
鼻の奥がつんと痛くなる。
久しぶりのパスタは本当に、美味しかった。
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